3、 ヒヨドリとオナガ
「いけね! もう五時半だよ。塾におくれるっ」
勇次がポケットから時計を出して言った。
「あんた、学校に時計なんか持ってきてるの?」
「塾のあるときだけさ。それより、早く帰ろうぜ」
勇次はサッサと今来た道にもどっていった。
「勝手なやつ」
プリプリしながら、マキも、そしてまめと夕香も後を追いかけた。
西日が横から照りつけて木々の間からもれてくる。林は来た時よりも明るく感じられた。しかし、じき日が暮れる。四人はどんどん急ぎ足になった。
チュイーーーー。
かん高い声とともに、先頭を行く勇次の前を何かが横切った。と、間をおかず、今度はジジジージジジーという声がして、さっきよりも大きなものが横切った。
それらは近くの木のえだにとまると、チュイーチュイー、ジージージーと何やら大騒ぎを始めた。チュイーと鳴く灰色の鳥はマキも知っている。
「ヒヨドリだ。もう一羽はなんていう鳥?」
マキは、ジージー鳴く空色の尾の長い鳥を指して夕香に聞いた。
「オナガ」
「そのまんまじゃん」
勇次はプッとふき出した。
「悪かったわねえ!」
どこからかしゃがれた声が聞こえてきた。
「えっ?」
勇次はどきっとしてふり返ったが、まわりには、マキ、まめ、夕香以外にはだれもいない。しかし、その声はまた聞こえてきた。
「でもアンタのキンキン声よりよっぽど聞きやすいわよ!」
するとそれに答えるように、今度はかん高い声が聞こえてきた。
「キンキン声とは失礼な! 私の歌うような声はほかの仲間にも評判なのよ。遠くまでよく響くし。あんたのガラガラ声よりよっぽどましだわ」
勇次はあおざめた。マキとまめを見ると、やはり驚いた顔をしている。
そうなのだ。この林には四人しかいないのに、四人のだれのものでもない声がふたつ……。そして会話の内容からして、その声の持ち主は横の木にとまっているヒヨドリとオナガなのだ。
勇次も、マキも、まめも、目の前の信じられない出来事に、全身がこおりついたように動けなくなってしまった。
「いくらいい声だとしてもそのなりじゃねえ。そのみにくい灰色の羽。あぁ、みっともないったら」
「鳥は声が命なのよ。羽の色なんて関係ないわ」
「ふふん。さてはあたしの美しい空色の羽がうらやましいんだね」
「うぬぼれもいいところだわ」
二羽のケンカはしばらく続いたが、ふと人間の視線に気づいたらしく、チュイーー、ジジジーーとけたたましい声をあげると、あっという間に林の奥のほうへ消えていってしまった。
「おそくなるよ」
夕香の一言で、勇次とマキとまめはようやくわれに返った。夕香には鳥たちの会話が聞こえなかったのだろうか。それとも別に不思議なことだと感じないのか。全く冷静だった。
いつもと変わらない夕香の様子に、ほかの三人は、今体験したことが本当にあったことだと言える自信がなくなってしまった。
『へたなことを言って、みんなにバカにされたら……』
おたがいにそんなことを考えていたので、林を出るまでだれも口をきかなかった。
林を出ると、工事の音は止んでいて、もう片付けをしているところだった。
「急いで帰らなくちゃ」
「本当。おこられちゃう」
三人が校庭のすみに置いてあるカバンを取りに行こうとすると、
「ちょっと」
夕香が呼び止めた。
「今日のこと、ほかの人には言わないでね」
今日のこととは、アカマツのことだろうか、それとも……。
三人は、夕香の真剣な表情に、だまってうなずくしかなかった。
しかしこの日の出来事が、これから起こる不思議な出来事の始まりだった。