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聖女は皆を救いたい 〜狂った聖女の改国〜

作者: 上貝 颯空
掲載日:2026/09/23

「エレノアを出せ!」

「私たちを騙していたな!」

「聖女を騙(かた)る悪女め!」

「犯罪者に正義の鉄槌(てっつい)を!」


教会の前には人々が押し寄せていた。

どうしてこうなったのだろう?

私は何も悪いことをしていないはずだ。

なぜ、彼ら——王や、王太子は私を裏切ったのだろうか?


分からない。

私はすごく頑張ってきた。

歴代最高の聖女と言われるほど努力してきた。

なのに、どうして?

私は悪くないはずだ。

ではあちらが悪いのだろうか?

……いいえ、全ての子は生まれながらにして善良。

だから誰も悪くない。

じゃあどうして?


その時、聖女の中でなにかが変わった。

もっと言うなら、彼女は狂った。


……そうか、彼らは弱い存在。

彼らは悪いのではない、間違えてしまったのだ。

ああ神よ、ようやく分かりました。

弱き子らを導くことこそ私の使命。

全ての子に啓蒙(けいもう)を。

全ての子に救いを。



◇◇◇◇◇



「愛しき子たち、お待たせしました」

「ようやく出てきたな!」

「降りてこい!」


教会のバルコニーで。

エレノアは静かに微笑んだ。


「皆さん、そんなに怒らないで」

「ふざけるな!」

「お前は王女殿下を殺そうとしたんだろう!」

「聖女の名を騙(かた)った罪人め!」


飛び交う怒声に、エレノアは悲しそうに目を伏せた。


……そう。

この子たちは、まだ間違っている。

怒りに囚われて、自分が何をしているのかも分からなくなっている。

私が導いてあげないと。


「大丈夫ですよ」


聖女は両手を広げた。


「私が救ってあげます」

「何を——」


淡い光が、聖女の身体から溢れ出した。

本能的に安心感を覚える、柔らかな光。


「——《ヒール》」


たった一節の初級呪文。

しかし、聖女のそれは数多の人々を救ってきた奇跡。


光が当たり全面に広がった。

人々が目を見開く。


「な、なんだ……?」


怒号が止まった。


「身体が軽い……」

「傷が消えたぞ!」

「これは……聖女様の奇跡?」

「いや、だが罪人だ!」


エレノアは微笑む。


「もう大丈夫ですよ」


二度目の《ヒール》。

皆の顔から険(けん)が消えた。


「何故こんなことしてたんだ?」

「聖女にも理由があったのかも」


三度目。


「聖女……様」


その声には、先ほどまでの憎悪がなかった。

聖女は一人一人の顔を見つめる。


さっきまで怒りながらも——苦しそうで、迷っていた子たち。

この子たちは間違えてしまっていた。


でも、もう救った。

ここにいる人だけじゃない。

王宮の人、王都中の人、王国の人、世界中の人。

みんな私が救ってあげる。


「もう怒らなくていいのです」


四度目の《ヒール》。


「もう苦しまなくていい、迷わなくていい」


五度目。

六度目。

七度目。


「私が、あなたたちを導きます」


静寂(せいじゃく)が広がった。


先ほどまでの人々の瞳に浮かんでいたのは、憎悪。

しかし、今浮かんでいるのは敬愛(けいあい)だった。


やがて、一人が声を発した。


「聖女様、万歳!!」


エレノアは微笑んだ。

やがて声は大きくなる。


「「「聖女様、万歳!!」」」

「「「「「聖女様、万歳!!!!」」」」」


「もう、間違えなくていいのですよ」


エレノアは教会の門を出て、王都中を巡った。

その日から、王都では。


怒る人が、悩む人が、悲しむ人が消えた。

間違える人が消えた。


……喜ぶ人も消えた。


ただ、ぼんやりとした穏やかさだけが残っていた。

エレノアはそれを見ながら、胸の前で手を組んだ。


――神よ。

どうか、彼らをお許しください。

この子たちは弱いのです。

だから、私が導きます。

見ていて下さいね。


「さあ、愛しき子たち」


エレノアは微笑んだ。


「王宮へ参りましょう」


その声に、人々は一斉に頷いた。



◇◇◇◇◇




「止まれ!」

「何としてでも城内に入れるな!」


「聖女様を守れ!」

「進め!」


人々は、文字通り血路(けつろ)を開いた。

武器を持った兵士に対し、民たちは武器を持たない。

しかし兵士たちは押されていた。

理由は、圧倒的な数の差と、その狂気的なまでの一体感、そして——。


「《ヒール》」

「《ヒール》」


聖女の存在。

民を癒し、兵を洗n——救うエレノアによって、戦況は刻一刻と兵士たちに不利になった。


そして。


「……聖女様」


全ての兵が救われた。

やがて王宮の門が開く。

震える侍従(じじゅう)を救い、怯える騎士も救い。

そして——


「エレノア……」


玉座の前に立つ、国王。

その隣には王太子。

そして、その後ろには隣国の王女がいた。

エレノアは二人を見つめた。


懐かしい。

ほんの少し前まで、私が愛していた人。

そして、私を捨てて、陥れた人。


王太子は青ざめた顔で一歩下がった。


「なぜ、こんなことを……。私が許せなかったのか?だからといって洗脳など……」

「洗脳?違います。私は救ったのです」

「これは救いなんかじゃない……!」

「ふふ」


エレノアは笑った。


「大丈夫、間違えても神は許します。私が救って差し上げます」


王太子の顔が歪む。


「エレノア、聞いてくれ。私が悪かった、だから——」

「別に悪かったとは思ってないですよ?」


エレノアは首をかしげた。


「隣国との和平のために、王女様を選んだ。だから、邪魔な婚約者の私には冤罪をかけたのですよね?」


エレノアは無邪気な笑みを浮かべた。

狂気すら感じる笑みだった。


「あなたたちは間違えてしまっただけなのです」


エレノアは一歩踏み出した。


「来るな……」

「私が救って差しあげます」

「エレノア!」

「——《ヒール》」


光が人々を包んだ。


「やめろ!」


その声が消える。

王太子の顔から、苦悶(くもん)が、恐怖が、罪悪感が消えていく。

王太子は呆然とエレノアを見つめた。


「エレノア、私は……間違っていた」

「ええ」

「君を、傷つけた」

「もういいのです」



「もう、間違えなくていいのですから」



◇◇◇◇◇



三日後。

王国中に王命が下った。


——聖女エレノアを、王国の唯一の導き手とする。


反対の声はなかった。

皆、穏やかに微笑んでいた。


エレノアは今日も人々を癒している。


「私がみんな救います」


王国は平和になった。

争いも、犯罪もなくなった。

誰も怒らず、迷わず、悲しまない。

喜びもしない。

皆、日々を穏やかに過ごしていた。


エレノアは満足そうに微笑んだ。


そして今日も、彼女は祈る。

――神よ。

どうか、この子たちをお守りください。

もう二度と。

誰一人として。

間違えることがありませんように。


「全ての子に啓蒙(けいもう)を」

「全ての子に救いを」


王国の子は全員救った。

次は隣国かな。


「神よ、どうか見ていて下さいませ」



エレノアは理想のディストピアを作ることが出来るのでしょうか……笑


お読みいただき、ありがとうございました!

面白かったら、ぜひ☆をよろしくお願いします!!

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