表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/13

第8話 はいはい噂話、はいはい最強?

 翌日。俺は昨日とほぼ同じ時間に、冒険者ギルドの扉を押した。

――入った瞬間、違和感。

 空気が重い。正確には、ざわついているのに妙に静かだ。

 視線。まずそれを感じた。


「……昨日の転生者だ」

「ブラックファングを退かせたって話だ」

「一歩も動かなかったらしいぞ」


 ひそひそ声のつもりなのかもしれないが、残念ながら全部普通に聞こえてますよ。歩くたびに、視線がついてくる。

 昨日までの、

「触れると面倒そうだから距離を取ろう」

 とかいう空気とは明らかに違う。

 今は――

「近づいていいのか分からない」

 みたいな距離感だ。

 怖がられているのとも、尊敬されているのとも違う。

 ただ、扱い方が分からない。そんな感じだった。



 受付へ向かう。通路がわずかに、しかし確実に空いた。

 誰かが一歩下がり、誰かが横にずれ、結果として、俺の前に道ができる。

 俺は爆弾かなんかなのか?やめてほしい。


「おはようございます」


 受付のお姉さんは、昨日より背筋が伸びていた。声も、やけに丁寧だ。最初からその感じで接してほしい。


「本日は依頼の確認でしょうか?」

「いや、様子見で……」


 そう答えた瞬間、彼女の視線が、俺の冒険者証ではなく、その奥――ギルド内全体を一度だけ確認した。

 嫌な予感しかしない。

 カウンター横の掲示板。昨日までは気にも留めなかった場所に、見慣れない小さな紙が貼られている。


《要注意:高位魔物に対する特殊威圧例》

《対象:転生者ハイト


……俺の名前が書いてある。

「……何ですかこれ」

「正式な注意喚起です」


 即答だった。注意喚起ってなんだよ。


「注意……喚起?」

「はい。想定外の影響が確認されたため」


 俺は影響を与えた覚えがない。

 背後から、重い足音。振り返ると、明らかに場慣れした冒険者が立っていた。鎧の傷が、実戦の数を物語っている。

 周囲の視線が、一斉に集まった。


「噂は本当か?」

「何のですか」

「ブラックファングだ」


ギルド内が、静かになる。会話が止まった。


「退かせたそうじゃないか」

「いや、勝手に逃げただけで」

「それを退かせたと言う」


 話が合わない。


「俺たちの依頼に、同行する気はないか?」

「え?」

「戦闘はしなくてもいい」


 冒険者は真顔で続けた。


「ただ“いるだけ”でもでもかまわない」


 何それ。なんか酷くない?


「……考えときます」


 そう答えると、冒険者は満足そうに頷き、去っていった。

 完全に、勘違いされている。

 入れ替わるように、リルが隣に来る。


「おはよう、話題の人」

「やめてよ」

「完全に広まってるね」


 あまりからかわないでもらいたい。しばらく様子を見ると、ギルドのあちこちで、噂が独自進化しているのが分かる。


・近づくだけで魔物が怯える

・殺気を極限まで抑えている

・前の転生者とは“方向性が違う”

・本気を出すと都市が完全に消える


 最後のは、さすがに盛りすぎだと思う。


「否定した方がいいかな……」

「もう無理だと思うよ」


 リルは即答した。


「噂ってね、事実より“便利な方”を選ぶんだよ」

「便利……?」

「使いやすい、って意味」


 掲示板に目を戻す。いくつかの依頼の横に、小さく追記がされていた。


《※転生者同行歓迎》

《※威圧要員》

《※抑止力として有効》


 なんか熊よけの鈴みたいな存在になってないか?

 剣も振っていない、魔法も使っていない。

 それなのに俺は、

「強いけど使いづらい」

「いてくれると安心だけど近づきたくない」

 そんな、面倒な立ち位置の切り札枠(?)になっていた。


「次、絶対ろくな依頼来ないよな……」


 その予感だけは、なぜか外れる気がしなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ