表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/11

第7話 はいはい初仕事、はいはい初戦闘

 冒険者登録を終えた翌日。俺は冒険者ギルドの掲示板の前に立っていた。

――ついに来た。初仕事。初依頼。初戦闘。

 テンプレ異世界なら、ここで

「スライム討伐(初心者向け)」みたいな紙が目に入るはずだ。

 だが、現実は違った。


・倉庫整理

・書類運搬

・下水道清掃

・街道の草刈り


「……戦闘、どこ?」

 掲示板を端から端まで見ても、魔物とか討伐の文字が一切ない。

「初仕事は雑用が基本だよ」

 背後からリルの声。気づけば、いつの間にか隣に立っていた。

「え、でも冒険者ギルドだよ?」

「うん。でも初心者だし」

「初戦闘は?」

「早くて数週間後かな」

 テンプレ異世界、完全敗北。

「転生者って聞いたから、いきなり戦わされるかと思った」「むしろ逆。危ないから後回し」

 合理的すぎる。

 俺は半ば投げやりに、一枚の紙を剥がした。


《街道沿いの荷馬車護衛(危険度:低)》


「お、これなら戦闘ありそうじゃん」

「それ、戦闘起きない前提のやつだよ」

「期待させないでよ……」


 受付に持っていくと、お姉さんが冒険者証に目を落とす。

 一瞬だけ、表情が固まった。


「……転生者、ですよね」

「はい」

「護衛依頼ですが……」

「はい」

「念のため確認します。魔物が出た場合、対応できますか?」


 正直に言うしかない。


「実戦は初めてです」

「ですよね」


 即答だった。


「では“同行見習い”という扱いであれば受注できます」

「見習い?」

「戦闘は原則、他の冒険者が行います」


 俺の初仕事、戦う前から戦力外。



 護衛メンバーは、ベテラン風の剣士と弓使い。そして俺。


「……なんで転生者がここに?」


 剣士がぼそっと呟く。普通に聞こえてる。


「見習いです」

「ふーん……」


 軽蔑、というより警戒。そんな視線だった。

 街を出てしばらくした頃、弓使いが足を止めた。


「――来る」


 次の瞬間、茂みから犬のような魔物が飛び出してきた。


「きた! 初戦闘!」


 テンションだけが一気に上がる。

 剣士が前に出て、弓使いが矢を放つ。連携は完璧で、魔物はあっさり倒れた。

……俺、何もしてない。


「皆さん大丈夫ですか?」

「動かないで」

「え?」

「転生者は余計なことしないで」


 思っていた以上に、転生者への当たりが強い。前の転生者が相当やらかしたんだろう。

 その後も何度か魔物が出たが、俺は指をくわえて見ているだけだった。剣を振る機会すらない。



――そして、問題は突然起きた。

 弓使いが馬車を止め、声を潜める。


「……やばいのがいる」


 茂みの奥から現れたのは、さっきまでとは明らかに違う存在感を放つ黒い獣。


「ブラックファング……」


 剣士が顔をしかめる。


「俺たちだけで対処は無理だ」


 一瞬で分かった。これは勝てるかどうかの話じゃない。


「撤退する」


 剣士は迷わなかった。


「依頼主の安全が最優先だ」


 そう言って、二人は馬車に飛び乗った。

 俺も続こうとした、その時。馬車が動き出す。


「え、俺は!?」


 剣士が一瞬だけ振り返った。本当に、一瞬。


「……悪いな」


 それだけだった。

 弓使いは何も言わず、御者が手綱を引く。馬車は容赦なく走り去った。砂埃だけが残る。


「……冗談だろ」


 ブラックファングが低く唸る。距離は、もう近い。

 後ろを見ても、誰もいない。

 あ、これ死ぬやつだわ。瞬間的にそう悟った。


「……はは」


 笑うしかなかった。

 テンプレ異世界なら、ここで覚醒してチート能力で倒して「なんか俺やっちゃいました?」で終わるんだろう。

 でも、この世界は現実的だ。


「……クソッ!」


 盾を構え、剣を抜く。手が震えている。

 ブラックファングが飛びかかる。重い衝撃。視界がひっくり返る。

 地面に転がった拍子に、胸元から一枚の紙が落ちた。


《転生者証明証》


 それを見た瞬間、魔物の動きが止まった。

 一歩、また一歩。距離を取るブラックファング。


「……あれ?」


 唸り声を残し、魔物は森へと消えていった。

 静まり返った街道で、俺はしばらくしてから立ち上がる。


「前の転生者……本当に何やらかしたんだ?」


 しばらくして、遠くから馬車の音が戻ってきた。


「……生きてたのか!?」

「なんとか……」

「お前が倒したのか!?」

「いや、勝手に逃げていきました」


 依頼は無事完了し、ギルドへ戻る。

 報告を聞く受付のお姉さんの表情が、途中から明らかにおかしくなっていった。


「……確認します」

「ブラックファングと遭遇」

「ベテラン二名が撤退」

「同行見習いの転生者が単独で対処」


 ペンが止まる。


「……その、対処とは?」

「倒してません」

「ですが、魔物はいない」

「勝手に逃げました」


 ざわめきが広がる。


「ブラックファングは通常、人間程度で退くことはありません」


 嫌な予感しかしない。


「“何もしていない”のに退いた、と」


 話がどんどんズレていく。

 ギルド内の視線が変わった。


 外に出ると、リルが待っていた。


「おかえり。初仕事どうだった?」

「……生き残った」

「それ一番大事だよ」


 歩きながら、周囲の冒険者たちの視線を感じる。


「なぁリル」

「なに?」

「俺、なんか勘違いされてない?」

「そうなの?」


 即答だった。


「でもさ」


 リルは少しだけ楽しそうに言う。


「もう軽蔑はされてないよ」


 それは確かだった。

 冒険者証を見下ろす。

 初仕事。初戦闘。初めての命の危機。

 テンプレ通りじゃなかったけど、確実に一歩、前に進んだ。

けど――


「次、もっとヤバい依頼回されないよな……?」


 嫌な予感しかしない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ