第6話 はいはい審査結果、はいはい転生者
冒険者ギルドから呼び出しが来たのは、昼過ぎだった。フクロウのような動物が、紙切れをくちばしに挟んで運んできたのである。
『審査結果が出ましたので、本人はギルドまでお越しください』
ついに来た。俺の異世界冒険者デビューが、ようやく始まる――はずだ。
「落ちてたらどうする?」
ギルドへ向かう道すがら、リルが何気なく聞いてくる。
「その時はまたバイト探す」
「現実的だね」
「この世界が現実的すぎるんだよ」
ギルドの受付で名前を告げると、奥の小部屋へ案内された。中にいたのは、事務員らしき人物と、鎧姿のいかにも偉そうな人が一人。
「では、結論から申し上げます」
嫌な前置きだ。
「あなたの冒険者登録は――」
一瞬、間が空く。
「現時点では、不可です」
やっぱりか。
「理由は?」
「身分証明書が存在しないためです」
「ですよね」
異世界でも身元不明はアウトらしい。
「出生証明、保証人、もしくはそれに準ずる書類が必要です」
「ないです」
「でしょうね」
ここまでは想定内だった。
「ただ……」
鎧の人が、俺のカバンに視線を落とす。
「念のため、お持ち物をもう一度確認してもらえますか」
念のため?怪しいものでも持っていると思われているのか。
そう思いながら、カバンをひっくり返す。
剣、盾、着替え、雑多な小物。そして――一枚の紙。
「……ん?」
見覚えがない。白くて、やたらと丈夫そうな紙だ。
《転生者証明証》
そう、でかでかと書いてあった。
「……なにこれ」
とりあえず差し出す。
「こちら、何かの間違いでは……?」
その瞬間、部屋の空気が変わった。
事務員は固まり、鎧の人は椅子から立ち上がる。外のざわめきまで、急に大きくなった気がした。
「……転生者、だと?」
「え、はい? たぶん?」
自信はない。
数秒の沈黙のあと、事務員が小さく息を呑んだ。
「……本物ですね」
――来た。チート確定演出。歓迎、優遇、特別扱い。俺はついにテンプレの中心に――
「……」
誰も喜ばなかった。
むしろ、視線を逸らされる。一歩、距離を取られた。
「え、あの……?」
「失礼ですが」
鎧の人が低い声で言う。
「あなたは、“何代目”ですか?」
「え?」
「前回の転生者が現れたのは、三年前です」
嫌な予感しかしない。
「……彼は、この街を半壊させました」
空気が凍る。
「勇者だのチートだのと騒ぎ立て、荒らし回り、最終的には逃亡」
「現在は、重要指名手配中です」
俺は、言葉を失った。
「転生者というだけで、警戒される立場だと理解してください」
なるほど。歓迎されない異世界転生、ここに極まれり。
「ただし」
事務員が咳払いをする。
「証明書が本物である以上、登録そのものを拒否することはできません」
机の上に、一枚の札が置かれた。
「――仮ではなく、正式な冒険者登録です」
「え?いいんですか?」
「ただし、ランクは最低。監視対象付きです」
全然、嬉しくない。
ギルドを出ると、リルが心配そうに待っていた。
「どうだった?」
「……冒険者にはなれた」
「よかったじゃん」
「ただし、転生者ってだけで避けられる」
「ハイトって転生者だったの!?」
驚いたリルは、すぐに笑顔になる。
「でもハイトは、あの人とは違う。 あんなことしないって、分かってるよ」
――結婚しよう。心の中で、静かに決意した。
それにしても、前の転生者、どんだけやらかしたんだ。
冒険者証を握りしめる。ようやくスタートラインに立ったはずなのに、立場は最悪だ。
この異世界、転生者は特別だけど、決して“好かれる存在”じゃないらしい。
テンプレ異世界転生――はいはい、そう簡単にはいかない。




