第5話 はいはいバイト、はいはい有能
リルに案内されて辿り着いたのは、都市の外れにある落ち着いた雰囲気の店だった。
木製の看板には《喫茶店・シーク》と書かれている。異世界で初めて見る「喫茶店」という単語に、なぜか妙な安心感を覚えた。
「ここが叔父の店だよ」
扉を開けた瞬間、鈴の音と一緒に声が飛んできた。
「――いらっしゃーい」
現れたのは、長い髪をゆるくまとめた色気のあるお姉さんだった。エプロン姿がやたらと様になっている。
「叔父さん、ひさしぶり」
「……えーと、叔父さんはどこに?」
「この人が叔父さんだよ?」
この一族はどうなっているんだ。性別の固定観念を本気で粉砕しに来ている。
「あなたがリルの言ってた子?」
「は、はい。ハイトです」
「ふぅん。まぁ座りなさい。話は聞いてるわ」
話が早かった。冒険者登録待ち、無職、金なし。異世界主人公としては、あまりにも地に足がついた事情だ。
「じゃあ今日はお試しね。ホールお願いできる?」
「はい!」
その瞬間、体が勝手に動いた。
客を案内し、注文を取り、厨房と連携し、空いた食器を下げる。忙しい時間帯でも、不思議と視野が広がる。
(あ、この感じ……なんか懐かしいな)
前の世界で、何度もやった。居酒屋、カフェ、ファミレス。死ぬ前に、俺はだいたい全部経験してきた。
「次のお客さまご案内します」
「このテーブル片付けますね」
「注文入ります」
気づけば、店の回転が目に見えて良くなっていた。
「……あの子、動きいいわね」
厨房の方から、シークの視線を感じる。
昼のピークを越えた頃、俺はようやく一息ついた。
するとシークが、カウンター越しに声をかけてくる。
「ハイト、だったわね」
「はい」
「正規で働かない?」
「え」
即オファーだった。
「正直に言うけど、即戦力よ。教えることがほとんどない」「ありがとうございます。でも……」
少し迷ってから、俺は首を振った。
「冒険者になりたくて」
「ふぅん」
シークは一瞬だけ目を細めて、すぐに笑った。
「そう言うと思ったわ」
「……すみません」
「いいのよ。夢があるのは嫌いじゃない」
そう言って、今日の分の給金を渡してくれた。聞いていた額より、少しだけ多く払ってくれたみたいだ。
店を出たあと、リルがニヤニヤしながら言う。
「なんか普通に有能だったね」
「やめて。異世界で一番言われたくない評価」
「でも助かったよ。叔父も機嫌よかったし」
空を見上げる。今日は、剣も魔法も使っていない。魔物も倒していない。
それでも、確かに“役に立った”一日だった。
――俺のチート能力、アルバイト特化なんじゃないか?
「……冒険者にならなくても、なんか生きていけそうだな」「え、冒険者諦めるの?」
「なわけ」
この異世界、戦わなくても評価されるし、働けばちゃんと金ももらえる。テンプレからズレてるのに、なぜか居心地は悪くなかった。
でも俺はまだ冒険者になることを諦めてはいない。




