第4話 はいはい冒険者、はいはい無職
冒険者登録の審査結果が出るまで、数日かかると言われた。
その間、宿代はどうするのか。答えは簡単だ。――リルが払ってくれている。
「……いや、これ普通にダメだろ」
朝、宿の部屋で天井を見ながら、俺は一人でそう呟いた。異世界に来て早々、ヒロイン(?)に養われる展開は、さすがにテンプレ以前の問題だ。
「審査終わるまで、ここにいればいいよ」
朝食の席で、リルは軽く言った。
「いや、それはさすがに申し訳ない」
「別にいいけど」
「よくない。俺のプライドが許さない」
というわけで、俺は仕事を探すことにした。
冒険者じゃないなら、冒険者以外の仕事をすればいい。実に現実的で、まったく異世界感のない結論である。
最初に向かったのは、冒険者ギルドだった。
「あの……仮登録中の方は、依頼を受けられません」
「知ってます」
「ギルド内での作業もできません」
「ですよね」
「掲示板を見るだけなら可能です」
「見るだけ……」
掲示板に貼られていたのは、
・配達(常連限定)
・護衛(登録者のみ)
・ドラゴン討伐(論外)
はい、詰み。
次に街の職業紹介所的な場所を探したが、そんなものは見当たらなかった。どうやら異世界にハロワは存在しないらしい。
代わりに目に入ったのは、人手不足を訴える張り紙が並ぶ鍛冶屋や工房だった。
・見習い募集(経験者優遇)
・即戦力募集
・住み込み可(長期)
「異世界、即戦力求めすぎじゃない?」
漂ってくるのは、夢よりも生活感。現実世界と同じ匂いしかしなかった。
荷運びの仕事のチラシを見て話を聞きに行ってみたが、
「登録証は?」
「ないです」
「じゃあ無理」
無慈悲。
昼過ぎには、完全に心が折れかけていた。剣も盾もあるのに、やれる仕事はない。この世界、冒険者以前に社会がちゃんとしすぎている。
宿に戻る途中、リルと合流した。
「仕事見つかった?」
「……無職継続です」
「そっか……」
リルは少し考え込むと、何かを思い出したように顔を上げた。
「そういえば、僕の知り合いが最近お店を出したんだ。そこで働けないか、聞いてみようか?」
ここまで世話になるとは思っていなかった。命を救ってもらい、宿代を出してもらい、挙げ句の果てに仕事の斡旋まで。
申し訳なさと同時に、ありがたさが胸に染みる。
「……お願いします」
こうして俺は、冒険者になる前に、異世界で“普通の仕事”を探すことになった。




