第3話 はいはいギルド、はいはい申請
翌朝、俺は無事に生きて目を覚ました。隣のベッドをみると、まだリルはスヤスヤと寝ている。寝顔はまさに天使。だが男だ。
「今日からどうするの?」
朝食を食べながら、リルが何気なく聞いてくる。
「とりあえず仕事探したいかな。冒険者ギルドとかあれば登録して……」
「この村にはないよ」
即答だった。
「小さい村だし。仕事といえば畑仕事か、たまに荷運びくらいかな。モンスターも湧かないし」
俺の頭の中で、最初の村でギルド登録!というテンプレが音を立てて崩れた。
「じゃあどうすれば……」
「大きい都市まで行けばあるよ。ちょうど僕も物資届けに行くから、一緒に行く?」
この世界、優しさだけはテンプレ通りらしい。
馬車に揺られること半日。城壁に囲まれた都市が見えてきた瞬間、俺は思わず声を上げた。
「来た……!」
「なにが?」
「異世界っぽいやつ!」
人の多さ、露店、鎧姿の冒険者風の人々。ようやく俺の知っている異世界に辿り着いた気がした。
そして冒険者ギルド。木製の大きな扉、堂々たる看板。中に入ると、受付カウンターと掲示板、そして酒臭い空気。
「よし、登録だ」
カウンターのお姉さんが営業スマイルで迎えてくれる。
「冒険者登録ですね。ではこちらをどうぞ」
差し出されたのは――紙の束。
「……えっとこれは?」
「登録申請書です」
「えーっと、なんか水晶とかでランク測るとか…」
「ありません」
即否定。求めていた物はなかった。
「まず氏名、出身地、生年月日、現住所」
「現住所?」
「無い場合は“無”と記入してください」
すでに嫌な予感しかしない。
「次に身分証明書」
「ないです」
「では出生証明、もしくは保証人」
「ないっすね」
「仮登録になりますね」
紙が増えた。
「こちらは職業経歴」
「無職です」
「正直ですね」
さらに紙が増えた。
「こちらは魔物討伐中に死亡した場合の免責同意書」
「死ぬ前提なんですね」
「はい」
この世界、現実的すぎない?
ふと横を見ると、リルは慣れた手つきで書類を処理していた。
「代筆お願いできる?」
「いいけど、代筆手数料かかるよ」
「取るんだ」
結局、書類を書き終えた頃には指が痛くなっていた。
「では審査に入りますので、登録完了は数日後になります」
「今日から依頼は?」
「無理です」
即答。
「……仮登録とかで簡単な依頼とか」
「無理です」
「……ですよね」
テンプレ異世界、どこ?ギルドを出た瞬間、俺は空を見上げた。
「なぁリル」
「なに?」
「冒険者って、もっとこう……勢いでなれるものじゃなかったっけ」
「それ噂でしょ」
どうやら噂だったらしい。
こうして俺の異世界冒険者デビューは、剣を握りモンスターを倒す前に、ペンを握り書類に倒された。
この異世界、やっぱり思ってたのと違う。でもなぜか少しだけ今後が楽しみになってきた。




