第13話 はいはい王都、はいはい修羅場
王都の城壁は今まで見てきた街とは明らかに格が違った。 高く、分厚く、そして――無駄に威圧感がある。
「……でっか」
思わず素直な感想が漏れる。
「ここが見ての通り王都だよ」
リルが少し誇らしげに言った。
「人も多いし、ギルド本部もあるし、魔王討伐に行くなら避けて通れない場所」
セラは周囲を鋭く見回している。
「警備も厳重ね。検問がある」
案の定、城門前には武装した兵士たちが並んでいた。一人ずつ、身分証の提示。
俺の番が来る。
「身分証を」
……来たな。俺は覚悟を決めて、冒険者証と一緒に、あの紙を差し出した。
《転生者証明証》
一瞬。兵士の顔が、露骨に歪んだ。
「……転生者か」
声に、隠しきれない嫌悪が混じる。周囲の兵士たちも、ぴくりと反応した。
「前の転生者が何をしたか、知ってるだろ」
「また問題を起こしに来たのか?」
空気が冷える。やっぱり王都でも評判は最悪らしい。
「……俺は何もしてません」
「そう言うやつほど信用できん」
その時。
「ちょっと待て」
奥から、年配の兵士が歩み出てきた。俺の顔をじっと見てから、隣の兵士に小声で言う。
「こいつ……最近噂になってる転生者じゃないか?」
「噂?」
「魔王軍を、戦わずに引かせたって話だ」
空気が、変わった。
「……ああ、あの?」
「ブラックファングを退かせたって?」
さっきまでの刺々しさが、戸惑いに変わる。
「本当に本人か?」
「冒険者証も一致してる」
しばらくの沈黙のあと、年配の兵士が深く息を吐いた。
「……問題を起こすなよ」
「王都は、街とは違う」
「は、はい……」
それしか言えなかった。
こうして俺たちは、なんとか王都に入ることができた。
王都の中は、人、人、人。活気がありすぎて、逆に疲れる。
「とりあえず宿を取ろう」
「賛成。今日は歩きすぎた」
良さそうな宿を見つけ、部屋を聞く。
「空いているのは……二部屋ですね」
嫌な予感。
「三人なんだけど」
「申し訳ありません」
仕方ない。
「じゃあ……」
リル当然のように言う。
「セラが一人で一部屋。僕たちで一部屋」
「え?」
即座に、セラが俺を見る。
「なんで?」
目が、鋭い。
「なんであなたが、リルと同じ部屋なの?」
「いや、だって……」
言い淀んでいると、セラの眉がつり上がる。
「ちょっと待ちなさい」
「まさか、もうそういう関係?」
「違う!」
即否定した。
「落ち着いてセラ」
リルが苦笑しながら言う。
「僕、男だよ」
一瞬。本当に一瞬、時間が止まった。
「…………は?」
セラの思考が、完全にフリーズしている。
「男」
「……男?」
「うん」
沈黙。
次の瞬間、セラは顔を覆った。
「なによ、それ……」
声が、急に弱くなる。
「私……てっきり女の子だと思って……」
ちらりと俺を見る。
「ハイトが取られると思って、内心すごく警戒してたのに……」
肩を落とし、ぽつり。
「……今までの私、馬鹿みたいじゃない」
「いや、まぁしょうが――」
フォローしようとしたが、
「いいの!」
セラが顔を上げる。少しだけ、赤い。
「勘違いしてた私が悪いだけ!」
「変な心配して……」
小さく咳払い。
「……とにかく」
「部屋割りは、それでいいわ」
完全にデレ側の敗北宣言だった。
リルが、俺の耳元で囁く。
「ねえハイト」
「なに」
「この人、独占欲すごいね」
「……そうだな」
こうして王都初日は、検問と噂と勘違いで、やたらと疲れる一日になった。テンプレ異世界転生。王都に来ても、平穏は続かないらしい。
――そしてこの夜、俺はまだ知らなかった。王都での“本当の厄介事”は、明日から始まるということを。




