第11話 はいはい監視役、はいはいツンデレ?
北へ向かう街道は、妙に静かだった。風は吹いている。鳥の声もある。それなのに、何かが足りない。嫌な静けさ、というやつだ。
「……ねえハイト」
リルが、少しだけ声を落とす。
「今フラグ立てるの禁止ね」
即答した。こういう時に限って、ろくなことが起きないのは経験則だ。
その瞬間だった。
「――止まりなさい」
上から、声。反射的に足を止めた次の瞬間、木の上から人影が落ちてくる。音もなく、軽やかに地面に着地。衝撃を一切感じさせない動き。
金髪のツインテール女剣士。細身だが無駄のない体つき。
鋭い目つきと、隙のない立ち姿。
……これツンデレキャラだな。そう悟った。
「あなたがハイト?」
「……そうだけど」
警戒しつつ答える。
「ふーん。思ったより普通」
第一声がそれだった。
失礼にも程があるが、否定しきれないのが悲しい。
「私はセラ。ギルド所属」
そう言って、軽く胸元を指す。
確かに、ギルドの紋章。
「あなたの“監視役”よ」
来た。心の中でため息をつく。
ここまで噂が広がった以上、こうなるのは予想していた。
「暴走しないか」
「前の転生者みたいにならないか」
「その確認」
言い切りが冷たい。業務です、って顔だ。
てか毎回思うけど、前の転生者どんだけやらかしたんだ……
「戦えるの?」
唐突な質問。
「無理」
「即答なのね」
セラは小さくため息をついた。
「……期待外れ」
「ただの噂先行型英雄じゃない」
ツンが強い。というか容赦がない。
その直後だった。茂みが揺れる。
嫌な音。複数。
「危ないっ!」
考える前に、体が動いていた。
俺は反射的に盾を構える。
「ッ!」
衝撃。腕が痺れ、足が一歩後ろに滑る。
「何してるのよ!」
セラの怒声。
「あなた、戦えないんでしょ!」
「いや、危なそうだったから……」
セラとリルが手際よく魔物を片付け、静けさが戻る。
セラは、俺をじっと見つめていた。
「……ほんと、バカ」
「褒め言葉か?」
「違う」
即答。でも、さっきより声が柔らかい。
――その瞬間だった。
俺の背後。完全な死角から残っていた魔物が飛び出してきた。
「――危ない!」
セラが迷いなく前に出る。
俺を庇うように剣を振るい、魔物を切り伏せた。
「大丈夫か!」
俺はすぐに駆け寄り、怪我の手当てをした。
セラは視線を逸らしながら言った。
「……勘違いしないでよね」
ついに来た。
ツンデレのテンプレ構文。
「別に義務だから庇ったわけじゃないし」
……ん?
「あなたが好みだから、つい体が動いただけ」
直球だった。
「別にあなたのためじゃないの」
「“私の趣味”なの」
「気に入った人を放っておかないだけ」
ツンの文法。中身は完全にデレ。
急に好かれてしまった。
「監視役は続けるわ」
そう言って、当然のように俺の隣に並ぶ。
「だって――一番近くで見てたいもの」
後ろで、リルが小さく笑った。
「ねぇハイト」
「なに」
「この人、もう隠す気ないよ」
「……だよな」
こうして旅の途中、監視役として現れた剣士は最初から好意を全開で隠さない仲間になった。
ツンデレもここまで来ると潔い。




