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ナノマシンとのんびり異世界冒険譚~魔力ゼロでも超能力でなんとかします~  作者: 阿良あらと


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第六話

 あっという間に一か月が過ぎ、入学試験の日となった。


 王都冒険者学園は、東部エリアの城壁に沿って建てられている。

 外壁に面しているとはいえ、東部は比較的穏やかな地方であり、小さなダンジョンや遺跡が点在している事から育成に適していると言える。


「よし、行くぞメグル」


「メグルなら首席合格よ」


 俺の隣に立つ義理の両親。

 バルトとカミラはただの試験だというのに、社交パーティにでも行くのかと思ってしまうようなタキシードの正装と、真っ赤なドレス姿で訪れていた。


「なんだよ、あれ」

「お上りさんか?」


 多くの受験者達はS級冒険者に昇格したバルトの事も、南ギルドのギルド長の事も知らないらしい。嘲笑しながら俺達を避けて進んでいく。


「……メグル、すまん。どうやら俺達は気合を入れすぎたらしい」


 二人が申し訳なさそうにこちらを見た。

 確かに浮いている。だが、俺は二人の気持ちの方が大切だし、周りの評価なんてどうでも良い。


「二人とも似合ってるよ。父さん母さん」


 二人の手を取り、ぐいと引っ張る。

 俺の家族は最高だ。


 正門を抜けると、試験用の仮施設が用意されていた。中央のテントには受付用の机が置いてあり、受験者達が群がっている。


「受験希望者はこちらまでお越しください!」


「それじゃあ二人とも、行ってくるよ」


 二人に温かく見送られ受付の列に並ぶと、一つ前で並んでいた少年少女が悪意のある笑みで話しかけてきた。


「両親についてきて貰うなんてダサ」

「怖いんだったら帰れば?」


 金髪碧眼の少年と、銀髪碧眼の少女。

 日本で言えば小学校高学年くらいの年齢だろうか。精神感応でハッキリと『嫉妬』の感情が伝わってくるし、もしかしたらこの子達に両親がついて来ていないのは事情があるのかもしれない。


「入学したら俺の事を兄さんと呼んでいいからな」


 この子達に必要なのは愛情と礼儀だ。きちんと俺が面倒を見てあげよう。


「「キモ」」


 心からの悪態ありがとうございます。絶対に試験落ちろ。


「それでは、次の三人は前に出てください」


 前の二人と俺を含めてちょうど三人、受付男性の前に立った。


「試験を始める前に、適性検査を受けてもらいます。こちらの宝珠に魔力を込めてください」


「これはまさか、魔力カウンター!?」


 夢にまで見た光景にテンションが上がっていく。

 異世界ファンタジーの定番、水晶玉によるステータス測定だ。


「魔力量に応じて光が強くなっていきます。本試験とは関係ありませんのでリラックスして魔力を込めてください」


 にこりと笑う受付男性の指示に従って、俺達はそれぞれの宝珠に手を当てた。


「おい、田舎出身の坊ちゃん。俺達の魔力量にビビんなよ」


 チビ二人が挑発的な表情で宝珠に力を込めた。

 すると、目が眩むような光が放たれ、周囲の人々を驚かせた。


「こ、これは、白銀級の魔力量! な、なぜ君達のような逸材が魔法学園ではなく冒険者学園に!?」


 その質問を待ってましたと言わんばかりに、チビ二人は胸元からペンダントを取り出した。

 それは、ドラゴンと杖をモチーフにした銀細工で、杖の先端にはエメラルドの宝石が埋め込まれている。


「なっ、そ、それは西大陸の魔法大学園、レグナートの卒業証ではありませんか!?」


「俺の名前はアルバート・ミストラル。西大陸では竜の賢者と呼ばれている」


「私の名前はリリアナ・ミストラル。西大陸では鋼鉄の賢者と呼ばれていたわ」


「こちらの大陸の方が未知の魔物が多くてな。研究のために冒険者になるつもりだ」


 おお、と騒ぎ立てるギャラリーに二人は満足げにこちらを見ていた。


「俺達が特別なだけだ。恥ずかしがらず魔力量を測ると良い」


「少なくても大丈夫。冒険者なら盾役くらいにはなれるでしょ?」


「……えっと」


 当然俺の宝珠が反応する事はない。何せ魔力ゼロなのだから。

 しかし、賢者二人の結果を見たギャラリー達は、俺も特別な人間なのかと期待の視線を向けていた。


「緊張されるかと思いますが、どうぞ魔力を込めてください」


 受付男性が同情の視線を向けてきたが、俺は即答する。


「これが限界です」


「えっ?」「は?」「どういうこと?」


 何も悪い事はしてないはずなのに、責めるような視線が痛い。


「魔力ゼロですって? きっと宝珠の不具合よ」


「は、はは、ある意味特別な存在だな」


 年下の二人に気を使われ、少し気まずい。


「君、本当に魔力ゼロで提出するのかい?」


「ええ、だって魔力ゼロですから」


 胸を張って答えると、受付男性はハハッと乾いた笑いをして紙に結果を書き込んだ。


「では、本試験の会場までお進みください」


 奥に進むように指示をされ、俺はアルバート達を置いてそそくさと会場へと移動する。

 しかし、俺の魔力ゼロが彼らの琴線に触れたのか、歩幅が違うにもかかわらず速足の俺についてきた。


「おい、魔力ゼロ。本当に魔力がないのか?」


「答える義務がない」


「可能性としてはマナを裏切ったダークエルフか迷い人のどちらかだと思うわ。ねぇそうでしょ?」


「君達がそう思うならそれで良いんじゃないか?」


 カミラの言う通り、近頃の子どもは礼儀を軽んじているようだ。俺だって魔力の一つや二つ欲しかったさ!


「魔力を持たない人間なんて滅多に出会えないんだ! 是非とも研究させてほしい!」


「……っ!」


「お金ならいくらでも払うわ。だから――」


 俺は二人の言葉を待たず、超能力でその口を塞いだ。

 俺にとって最も許せない言葉『研究』と言ったからだ。


「……んーっ!?」

「………!?」


 魔力ゼロの人間が直接触れずに干渉してきたことに驚いたのだろう。青ざめた顔、恐怖八割好奇心二割の感情をこちらにぶつけてくる。


「いいか、今後二度と俺を研究しようとするな。人にはそれぞれ尊厳があり、誰にも踏みにじる事は出来ないんだ。お前らがどれだけ価値のある人間だろうと、俺を研究する権利を持つことはできない。分かったか?」


 地球での記憶が蘇り、怒りと痛み、苦しみと恨みが溢れ出してくる。

 二人とも俺の感情に触れてしまったのか、涙を流して頷いていた。それでも打開策はないか考えている所は、普通の子どもではないのだと感心する。


「拘束を解くが、叫ぶんじゃないぞ」


 パッ、と力を解く。

 二人は喉元を押さえながら、荒く呼吸を繰り返した。


「……ぷはっ、だ、大丈夫かリリィ」


「ええ、貴方も無事でよかった。アルビィ」


 死ぬ可能性さえ頭をよぎったのか、迫真の表情で抱き合う二人。


「………」


 俺は怒りに任せて力をぶつけてしまった後悔で頭がいっぱいだった。

 大人気ない事をしてしまった。彼らとは二度と関わらないようにしようと、一歩踏み出した瞬間、二人が俺の服を掴んだ。


「……謝罪の機会を与えて欲しい」


「全面的に私達が悪かったわ。最初の態度からずっと」


「二人とも……すごいな」


 涙を堪え、消えない恐怖を抑えつけながら、謝罪の言葉を述べようとしている。

 前言撤回、彼らは礼儀の知らない子どもではない。いや、子どもですらない。立派な大人だ。


 二人とはこの先、長い長い付き合いになるのだが、初めての印象は最悪だったと言える。

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