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ナノマシンとのんびり異世界冒険譚~魔力ゼロでも超能力でなんとかします~  作者: 阿良あらと


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第三話

「へぇ、ブラックドラゴンって血も黒いんだ」


 戦闘は一瞬で終わった。

 念動力で圧縮した炎の槍は、ブラックドラゴンの硬質な鱗を紙のように貫き、脳天を破壊したのだ。


 象よりも大きな死体を、冒険者パーティ『黄金の休日』が興味深そうに眺めている。フォルムはトカゲに似ているが、蝙蝠のような羽根と鋭い爪がドラゴンとしての威厳を現していた。


「私は黄金の休日のリーダー、バルトだ」


「メグル。迷い子のメグルです」


 シルビアとは別の冒険者から予備の服を貰い、俺はようやく異世界の男性冒険者らしい見た目を手に入れる事ができた。

 といっても、体格の関係で屈強な男性冒険者の服はブカブカだったため、結局は小柄な女性用の服を借りることになった。皮のズボンに布の服。中世的なファッションで誤魔化せていると思いたい。


「だが、本当に良いのか? 俺達が倒した事にして」


「ええ、服を貰いましたし、お金もこんなに」


 小袋を持ち上げる。流石はA級冒険者パーティ、日本円にして百万円は超える白金貨らしい。


「いや、このブラックドラゴンはSクラス。討伐で手に入る褒章は数千倍の価値があるだろう」


「ちょっとリーダー! この子が良いって言ってるんだから別にいいじゃん!」


 シルビアがジト目でバルトの胸を突く。うん、異世界褐色女冒険者のジト目姿を見られただけでも十分な報酬だ。


「分かった。残りはいつか君が困った時、やれる範囲で手伝うというのはどうだ? 黄金の休日は受けた恩を決して忘れない」


「……良い人、俺、バルト好き」


 研究所に捕まってから、一度として感じた事のない優しさだった。


「なんで急に片言!? しかも君は男が好きなのか!?」


「そ、それはないにゃ! あたしを見て欲情していたのにゃ!」


「えっ?」

「は?」

「それマジ?」


 女性陣の冷たい視線が刺さる。どうやら、同性愛より人間が獣人に欲情する方がマズいらしい。


「ニーニャの可愛らしさと言葉攻めに興奮しただけです」


「もっと変態だったーー!?」


 シルビアが短剣を抜こうとした瞬間、俺の声帯が意志とは無関係に震え始めた。


『申し訳ありません皆様。メグルは異世界人、つまりは迷い子であり、常識や価値観が違うのです』


 裏声をさらに高くしたような、機械音に近い声が自分の口から発せられた。ナノ子の仕業であることは明白だったが、黄金の休日のメンバーは目を丸くしてこちらを見ていた。


『ああ、申し遅れました。私はナノマシンのナノ子。この子をサポートする機械生命体のようなものです』


「……リーダー、意味分かった?」


「分からん。さっぱり分からん」


『困りましたね。では、あのブラックドラゴンの角を一つ、いただけないでしょうか?』


 俺の右腕が勝手に持ち上がり、切り取られたばかりの角を指さした。


「ああ、もちろんそのくらいならお安い御用だが、今喋っているのはメグルではないのか?」


「の、呪われてるんじゃないの?」


 シルビアの問いに、俺は首を横に振った。もちろん自分の意思で。


「ナノ子は俺の親であり子供であり、俺自身でもある。呪いどころか祝福そのもの」


『………解析完了、マシンの一部と角を融合します』


 ボコり、と。俺の腕から拳一つ分のナノマシンが飛び出し、角に覆いかぶさった。岩のように硬そうな角がドロドロと溶けて形を再生成する。


『ブラックドラゴンのフォルムだと警戒心を煽ってしまうので、愛くるしい形態に変化。メグルの肩に乗れる大きさを維持します』


 完成したのは小さなブラックドラゴン。全体的に鋭く尖っていた本体とは違い、小型犬のように愛くるしいフォルムに変化している。


『皆さん初めまして。私の名前はナノ子。以後お見知りおきを』


「メグルの身体から出てきた銀色の液体がドラゴンに……まさか賢者の石!?」


 驚くシルビアの肩に飛び乗ったナノ子は、スリスリと頬ずりをする。自分が無害な存在であることをアピールしているのだろう。


『確かに近い存在ではありますが、異世界の魔法と認識してください』


「……全く、今日だけで俺の中の常識が何度ぶち壊された事か」


 バルトがちらりとブラックドラゴンの死体に視線を向けた。


「君達の世界の住人は、誰でもあれくらいの攻撃ができるのか?」


「いや、たぶん――」


 答えようとする俺を遮って、ナノ子が俺の頭の上に飛び乗った。


『バルト様の質問の真意は〝私達が迷い子ではなく、侵略者ではないのか”という事でしょう』


「……そう認識してもらっても構わない」


 腰を低く落とし、警戒レベルを上げるバルト。

 改めて周囲の心理状況を索敵すると、殺意に近い感情を抱いている冒険者が数人潜んでいる。


『メグル、悲しむ必要はありません。彼らは冒険者として死と隣り合わせの人生を送っている。仲間ではない限り、誰であっても警戒心を解くことはないでしょう』


「もちろん感謝の気持ちは本当だ。君達に話したことに嘘はない。だが、ブラックドラゴンを一人で倒せる冒険者は……この大陸には存在しない」


 張り詰めた感情がパチパチと弾けて俺の心を刺激する。敵意というよりは未知への恐怖に近い。針で突けば弾け飛びそうな。


『安心してください。元の世界にメグル以上の冒険者はいませんし、私のようなナノマシンはメグルの身体以外に存在しません』


 さらに付け加えると、ナノ子は彼らの理解度に合わせてゆっくりと喋る。


『私達は元の世界から逃げてきた逃亡者。この世界で平和にのんびり暮らしたいだけです』


「それが本当だって、どうやって信じれば良いんだよ!」


 シルビアが金切り声を上げた。確かに今の説明を信じるに足る根拠はない。どうすればいいか悩んでいると、


『バルト様とシルビア様、あとご迷惑をかけたニーニャ様、この三人に貴方の記憶の一部を共有しましょう』


 ナノ子の提案を俺は実行する事ができる。精神感応テレパシーを使えば俺の記憶を共有する事は可能だ。


「だけど、わざわざ苦しませる必要ある?」


『メグルは優しいですね。ですが、彼らは一流の冒険者であり、危険を放置して去っていける立場ではないのでしょう』


「ああ、そうだ。俺達にはA級冒険者としての使命がある。君達が危険ではない事を証明できるのなら、多少の危険は受け入れよう」


「ウチも気になったら止まれない性分だからね」


「あ、あたしも怖いけど耐えますにゃ!」


 なんて勇敢な人達なんだろう。

 俺は素直に感動し、憧れた。この人達のような人生を生きてみたいと思った。


「分かった。けど、共有するのは少しだけ。ほんの一時間程度の記憶を圧縮して渡す」


 俺は三人に手のひらを向け、テレパシーを発する。

 自身の記憶でも一番軽い部分、〝まだ本物の皮膚があった頃”の小さな実験。その中のいくつかの記憶を送り込む。


「これは……グッギャッ!?」


「いいいいいいいたいいたいいたいいたいたい!」


「………ぶくぶく」


 痛覚まで共有した覚えはないが、脳が勝手に誤解したらしい。三人の表情が強張り、各々が叫んだ。


『これはまずいですね。メグル、彼らの痛みを中和してあげましょう』


「了解」


 パチンと指を鳴らす。

 テレパシーの応用で、彼らの痛覚を遮断する。


「……………君は、なんて…」


 バルトが片膝を着く。尋常ではない汗の量に他の冒険者達が彼に集まった。

 女性の方が痛みへの耐性が強いのか、シルビアは多少ぼーっとした表情をしているが、目じりに涙を浮かべながら俺を強く抱きしめた。


「ごめん……疑って、本当にごめん」


 続けてニーニャがシルビアと俺にぴったりと寄り添った。獣人の毛が頬に触れて何とも心地よい。


「ニーニャ、獣人差別よりも酷い事はにゃいって思ってたけど、これからは考えを改めるにゃ」


 美少女に抱き着かれ、甘い匂いと柔らかな身体に下半身が反応してしまったが、二人とも気にした様子はなかった。


「……あ、あれ、なんで涙が」


 ナノ子がコントロールしてくれているはずなのに、涙が溢れて止まらない。皆の優しさに触れ、何より自分の苦しみを分かってくれた嬉しさに感情の波が止まらなくなる。


『ナノ子は必要のない精神コントロールをするつもりはありません。メグルは今、泣いて良いのです』


「あ……あぁ、あぁあああああああっ!!」


 元の世界の家族、送るはずだった人生、出会うはずだった人々、明るい未来。全てを失った。人間としての尊厳を全て奪われ、体中の毛を失うほどのストレスを与えられ、実験動物として過ごす日々。

 全て、全て終わったのだ。

 ようやく実感が湧き上がってきた。


 俺は今、自由を手にしたんだ。

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