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ナノマシンとのんびり異世界冒険譚~魔力ゼロでも超能力でなんとかします~  作者: 阿良あらと


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第二話

 五大大陸の中でも、ひと際大きな中央大陸ヱルディア。

 人族、魔族、エルフ、竜人、亜人など様々な人種が存在し、それ以上に魔物溢れる豊穣の大地。


 日本人オタク全員の妄想を混ぜ合わせたような世界で、俺は一人、裸だった。


「ナノ子、聞こえるか」


『はい、マスター。なんでしょうか?』


 自分の頭の中に問いかけると、ナノマシンは電気信号を発して返事をしてきた。


「ナノマシンで服を形成するとか、草原や森の材料を使って装備を作るとかできないの?」


 通りがかる冒険者や商人には、片っ端から超能力で『服を着ている』という幻想を見せてやり過ごしてきた。

 だが、草原の向こうから近づいてくる馬車を引いた一行は、十人を軽く超えている。流石に十数人の住人へ同時に催眠術をかけ続けるのは骨が折れる。


『申し訳ありません。ナノ子は次元突破によるダメージで著しく能力が低下しております。現在は未知のウイルスの解析対処、空気成分の解析対処、魔力の分析で手いっぱいです』


「予想の百倍働いてくれてた」


 仕方ない。最後の手段として光を透過させ、他者に視認されないようにしよう。俗にいう透明人間に近い現象だ。問題は他人から無視されてるみたいでちょっと悲しい事。


 だが、近づく彼らの様子を見て、状況が一変する。


「そ、そこの少年! に、逃げ……えっ、裸?」


 先頭を走る男性が俺の姿を見て目を丸くした。


「えっと、逃げるって何からですか?」


「なんて立派な……じゃない、これで陰部を隠せ! 絶対に女性達に見せるなよ!」


 俺の問いに答える余裕はないのか、男は赤いマントを外すと俺の頭に向かって放り投げた。

 ファサリと覆いかぶさったマントはあまりにも……臭い。


「まぁでも、ないよりはマシか」


「よし、総員迎撃態勢!」


 マントをくれたこの金髪碧眼の青年がリーダーなのだろう。

 整った顔立ちだが、その双眸には歴戦の猛者だけが持つ鋭い光が宿っている。

 分厚い胸板と、剣ダコのできた手。

 背中で語るような頼もしさが、彼がただの青年ではないことを如実に物語っていた。

 総勢二十名近くの男女が、彼の声に合わせて剣や杖、盾や槍を構えた。

 そして、彼らの視線の先に何がいるか、ようやく拝むことができた。


「ほー、これはこれは。ドラゴンってやつか」


 黒光りの鱗を身に包み、両翼を広げて威嚇する巨大な蜥蜴。

 爬虫類と呼ぶにはあまりにも鋭い眼光で、そこには敵を殲滅するという明確な殺意が宿っていた。


「おま、ブラックドラゴンを知らないのか!? 中央大陸のSクラスモンスターだぞ!?」


 近くの男が大きな瞳をさらに広げて叫んだ。三十代前半だろうか、頬の傷を隠すように伸ばした髭は色艶があり、女性人気が高そうなイケメン冒険者だ。


「リーダー! そんなガキは放っておいて戦闘に集中しろ!」


 リーダーと呼ばれた金髪の男の隣に立ったのは色黒の短髪女性。

 年齢は俺より少し上だろうか、水着のようなトップスに短パンを履いただけの軽装だ。心の成長が中学生で停まった俺には刺激が強すぎる。そしてとにかく顔が可愛い。


「ああ、そうだなシルビア。こいつを討伐すれば三年は遊んで暮らせるんだ! 気合を入れていけ!」


 リーダーがそれぞれに指示を出しつつ、ブラックドラゴンとやらに先頭を切って突進し始めた。仲間達はそれに続いている。どうやら本当にドラゴンを討伐するつもりらしい。


「しょ、少年。今のうちにこちらへ」


 ぐいと、俺の腕を引っ張ったのは、猫耳の少女だった。俺よりも年下に見える。


「あ、そんなに引っ張ったら」


 パラ、とマントがズレる。

 まずい。このままでは少女に見せてはいけないモノを見せてしまう。

 俺はとっさに少女の目を右手で隠し、下半身を隠すように片膝を着いた。


「にゃっ!? なんで目を隠すにゃ!?」


「裸なんだよ。君は戦闘に参加しないの?」


「こんな草原のど真ん中で裸で立ってたなんて、変態なのかにゃ?」


 少女はネコ目をジトリと細めた。

 研究所は男しかおらず、異性と触れる機会のなかった俺にとって、少女はあまりにも可愛すぎた。マントの一部がググと盛り上がる。


「変態が興奮してるニャーっ!?」


「これは……申し訳ない」


 俺の心の成長は中学生で停滞しているが、精神年齢は度重なる実験で老いに老いてしまった。

 百人以上の他人に裸どころか皮膚の中まで見せてきたのだ、動揺の仕方も忘れてしまっている。


「ほ、本当に変な奴だにゃ。あたしはニーニャ。この冒険者連合の雑用係で非戦闘員だにゃ」


 ニーニャと名乗る少女は、馬車の中から荷物を引っ張り出し、パンツや服を俺に投げつけてきた。

 俺は出されたものを片っ端から身につけていったが、どうやらシルビアと呼ばれた少女の予備の服だったようだ。


 マントの下は短パンに水着のようなトップス。

 変態度が一段階上がった。


「それでえっと……」


「メグル。ただのメグル」


 異世界だから苗字が機能しないと思った俺は、名前だけを告げる。


「メグルはなんでこんな何もない所で裸だったんだにゃ?」


 至極もっともな疑問に対し、俺は即答する。少しでも躊躇すれば信憑性を損ねるとナノ子に教わったからだ。


「異世界から跳ばされてきた迷い子ってやつ」


 数時間前に通りがかった行商人から教えてもらったが、この世界は転移や転生が一般人でも通じるくらいには頻発する現象らしい。

 だから隠す必要はなく、むしろ諜報員や暗殺者ではないとアピールできるので積極的に説明すべきと推された。


(その行商人が服をプレゼントしてくれれば、こんな事にはならなかったのに)


 情報だけでなく商品まで貰おうってのは虫のいい話だ、と行商人は裸の少年を置いて去ってしまった。この世界が女神に見守られ、魔法と奇跡溢れる豊穣の世界だったとしても、誰しもが優しく正しくある訳ではない。


「迷い子なのになんでそんなに流暢に喋れるのかにゃ?」


「あ、やっぱり普通は喋れないの?」


「当たり前だにゃ。女神の祝福を受けでもしない限り、迷い子は言語の違いでコミュニケーションが取れず、奴隷落ちするパターンが多いのにゃ!」


「ああ、だからさっきの商人は最後まで警戒を解かなかったのか」


 俺を迷い子扱いしつつも、追剥や他国のスパイだという可能性を捨てなかった。

 さっきの行商人、名前はスフレと言ったか(だとすると名前も偽名の可能性が高いな)、彼はただ者ではないらしい。


「………もしかして、最近街で暴れてる紅牙龍レディアの一員にゃ?」


「………レディア?」


 ニーニャの緊迫した表情と内容から考えるに、悪い組織の名前だという所までは分かるが、あいにくこっちの世界に転移して半日も経っていない。流石に専門用語を出されると言葉に詰まってしまう。


「……その様子では違うっぽいのにゃ」


 安心しているニーニャの頭上を屈強な男が通り過ぎた。前方に視線を向けると、ブラックドラゴンが尻尾で冒険者たちを吹き飛ばしたらしい。


「あのさ、君達は冒険者パーティでブラックドラゴンの討伐ミッションを受けているって流れで合ってる?」


「迷い子なのに良く分かるのにゃ! 私達はA級冒険者パーティ『黄金の休日ゴールデンバカンス』、繁殖期を終えて暴れ回ってるブラックドラゴンの討伐任務を受けているのにゃ!」


 ニーニャの顔色を見るに、状況は芳しくないらしい。


「このままだと任務は失敗にゃ。あたしは逃亡準備を始めるから君は……えっ?」


 ニーニャの言葉を待たず、俺は一歩前に踏み出した。


「君、さっきの少年?」


「え、さっさと逃げないと! ……ていうかなんでシルビアの服着てるの?」


「なんだ君は!? 早く逃げ……えっ、変態?」


 一流の冒険者たちが、通り過ぎる俺を見るたびに戸惑いの声を漏らしていく。

 先頭では先ほどのリーダーを名乗る男とシルビアと名乗った女性が息を荒くしてドラゴンとの間合いを測っていた。


「シルビア、このままではジリ貧だ。一旦態勢を整えよう」


「はぁ? 何言ってんの? 今日中に倒せなきゃ任務失敗でB級落ちするじゃない。何人犠牲になっても絶対に倒さなきゃ」


「ダメだ! 仲間を見捨てるようなパーティにはしないって誓ったはずだ!」


「あのー、ちょっと良いですか?」


「落ちたパーティが返り咲いた例なんてほとんどないんだぜ! ウチが囮になって隙を作……えっなんでウチの服着てるの?」


「お前を囮になんて……えっ、誰?」


 二人が同時に俺の存在に気づいた時、ブラックドラゴンの口から巨大な炎の塊が放たれる。


「しまった!!」


「くっ、間に合わなっ」


 絶望する二人の前に出た俺は、ゆっくりと右手を上げる。


「〝念動力サイコキネシス”」


 ピタリ、と炎の塊が空中で停止する――いや〝した”。


「えっ?」


「な、なんだこいつは。アレは二級魔法でも防御できない攻撃だぞ」


 リーダーとシルビアの顔が恐怖に歪んでいる。


 超能力は現象を起こす為のエネルギーを心で〝誤魔化す”嘘の力だ。もちろん「絶対にありえない現象を起こせる・できる」と思い込むまでは、非人道的な方法を何度も何度も何度も何度も繰り返してきた。

 これが嘘の力であるとはっきり理解しても使えるのだから、俺はとっくに人間を辞めているのだろう。


「えっと、あいつ倒しても良いですか? 皆さん苦労されているようですし」


「……あ、ああ。俺達は手伝えないが、それでもいいか?」


「もちろんです。俺一人で十分ですから」


「つーか、ウチの服返せよ」


「あ、すみません。今すぐ脱ぎ――」


 返せと言われれば戦闘中だろうと返すしかない。

 躊躇なくズボンを下した瞬間、顔を赤くしたシルビアが叫ぶ。


「ぎゃぁ! 脱ぐな! さっさとあれを倒せるなら倒せ!」


「一瞬で終わらせます!」


 俺はブラックドラゴンに視線を戻し、必要な力を計算する。


「心臓の位置が分からないから一撃必殺はできないか」


 火炎球を空中に停めたまま、こちらをジッと見る人間に警戒しているのだろう。犬のように重心を後ろに下げ、こちらの動きを待っていた。


「確かに心臓の位置は分からないけど、絶対に分かる急所が一つ」


 右手を掲げ火炎球を圧縮し、針の形まで細める。

 急所を外さないように三叉の槍に変形させた。狙うのは――、


「頭だ」

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