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ナノマシンとのんびり異世界冒険譚~魔力ゼロでも超能力でなんとかします~  作者: 阿良あらと


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第九話


 数十秒前——。


『前方にアルビィ、リリィの二人、そして老人が一人立っています。老人は年齢にそぐわない筋肉量を維持しており、外傷から歴戦の勇士であることが伺えます。内臓を調べればもっと詳しい情報を得られそうですが、こちらの存在に気づかれる可能性が高いです』


 ナノ子の説明を聞きながら、メグルは森の中を駆け抜ける。

 ナノマシンであるナノ子は俺の超能力を代用し、状況を客観的に見る力には優れている。だが、心を持っていないせいで相手の立場や考え、行動予知には結果とかなりのズレをもたらすことが度々ある。


「ありがとうナノ子。あとは俺がやるよ」


 先ほどから殺意を溢れさせている老人は、明らかに普通ではない。

 受験に用意された人物なら不適格だし、予期せぬ来訪者なら二人を護らなければならない。魔法での戦いによる戦力差は完全に予測できないが、老人が十とすれば二人はせいぜい二か三だろう。


「問題はアルビィが展開している魔法が邪魔ってことだ」


 見えない風の刃が無数に展開されており、下手に間合いに入れば皮膚を斬ってしまう。バリアシールドを張れば弾くことはできるが、万が一怪我でもすれば彼らにトラウマを植え付けてしまうかもしれない。

 狙って傷つけるのと、予期せず傷つけるのでは心へのダメージが違う。


『では、そちらはナノマシンの方で対処しましょう』


「もうそのくらいまで回復したのか?」


『ええ、ドラゴンの角に含まれるエネルギーが予想の数十倍ありましたので。ラバースーツのようにメグルの皮膚を護ります』


「いいね。ヒーローみたいだ」


 ナノ子が回復すればするほど、大胆な行動が選べるようになる。

 魔力に対する研究も始めて貰いたい所だったし、気分が良くなってきた。


『視線、足の筋肉、狙いはリリィです』


「もちろん、分かってるよ!」


 肉体から予測したナノ子と、心を読んで予測した俺。

 二つの意見が合致した時、それは未来予知となる。


 老人がリリィの背後を奪った時すでに、俺は攻撃の動作に入っていた。

 攻撃は単純明快な手刀。ただし、超能力により硬質化した上に超振動ブレードと変化させている。鉄すら斬り裂く無敵の刃だ。


『メグル、物理攻撃は対象人物に感知されないでしょうか?』


「いや、感知できない。彼が最強の戦士の攻撃すらも避けられる天才だったとして、この攻撃は避けられない。むしろ彼のような歴戦の猛者だからこそ、これは避けられない」


『解析…………完了。なるほど、メグルが彼の首筋を攻撃したのではなく、〝彼がメグルの手刀の通る道に首を置いた”からですか』


 ザクッ、と柔らかい感触が右手に広がり、俺は地面に着地した。

 アルビィにもリリィにも血しぶきがかからないように調整している。


 通りがかりに老人と目が合った。彼は一瞬懐かしいモノを見たような顔を見せた後、心を恐怖で支配された。俺の記憶でも覗き込んだのだろう。敵意に対して相応のモノを返すように意図しているからな。


「死神……か。確かに何度も死を超越した存在だからな」


 研究所の人間に比べたら何とも可愛らしい感想だろう。ありとあらゆる蔑称で呼ばれた過去からすれば、一ミリも傷をつけることはできなかった。


「……わ、わた、私、生きてる……?」


 右耳を抑えながら、リリィが浅い息を繰り返す。


「リリィ! 落ち着け! もう大丈夫だ!」


「わ、わた……」


 アルビィの声も届いていないようだ。

 このままでは過呼吸になってしまうだろう。

 俺はリリィの視界を奪うように抱きかかえ、超能力で彼女の聴覚を奪った。


「……あ……なた……」


「無理に喋る必要はない。俺の心音だけ聞いて落ち着くことに集中して」


 都合の良い事に俺の心音はナノ子のサポートで常に一定を保っている。状況に応じてスピード調整はできるが、今のところ必要に迫られたことはない。一秒に一回、完全に一定のリズムを刻む心臓型のメトロノームだ。


『逆です。メトロノーム型の心臓です』


「そっか。……そうか?」


 とにかく、人間は一定のリズムを耳にしていると心を落ち着かせる生き物だ。その証拠にリリィはすっかり落ち着いている。


「メグル、もう大丈夫です。私達を助けていただき感謝します」


 なんだか関われば関わるほど心の距離が遠くなっている気がする。敬意が深まっているだけなので良い話なのだが、少し寂しい。


「リリィ、すまない。俺だけでは何もできなかった」


 アルビィがリリィを抱きしめ、涙を流しながら謝罪した。

 リリィは何も言わず、アルビィの背中を擦る。

 やはり二人にはいろいろな事情があるようだ。


『メグル、先ほどの老人が東へ逃亡しています』


「ああ、あれだけの傷を負いながら大した爺さんだ」


 魔法で止血しているのだろうか。首を半分斬られた状態で良く動けるものだ。


「アルビィ、リリィ、どうする? このまま一緒に行こうか?」


 俺の提案に二人はお互いの顔を見た後、首を横に振った。


「大丈夫です。私達はこの先も命を賭け続ける人生を歩む覚悟で大陸を渡ってきました。今メグル様の優しさに慣れてしまっては覚悟が緩んでしまいます」


「僕からも断らせてください。恩人であるメグル様にこれ以上のご迷惑をかけては賢者の名折れ。試験は必ず合格して見せますので」


「分かった。俺は先に行くけど、二人が必ず合格するなら――」


「するなら?」


 俺は振り返らず二人にエールを送る。


「同級生になるんだ。敬語はなしで行こうぜ」


 決まった。これは青春の一ページに載せるに相応しいエピソードだ。


『メグル、今の去り方は漫画でも名シーンになるべき一幕でした。小説、漫画、アニメ、あらゆるメディアツールで今のエピソードを作成し記録しておきます』


「ナノ子は便利だなぁ。俺の思い出をそんな風に保管してくれるなんて」


 ナノ子と俺はたった一つだけ、絶対に今後何があっても破棄する事の出来ない契約をしている。


【不老不死契約】


 お互いが存在する限り、どちらか一方だけが消える事を許さない契約。

 ナノマシンであるナノ子は俺が消えても永遠に存在が残ってしまう。宿主を変える事はできるが、それはナノ子として存在を残したと言えるのだろうか。俺はナノ子を生かす為、ナノ子は俺を生かす為、完全に依存しあった共生関係。


 問題は俺の記憶容量に限界があり、適度に消去していかないとエラーが起きてしまう事だ。それは心を持たないナノ子では予測しきれない為、思い出はナノ子側で管理してもらっている。


 もちろん、千年二千年単位の記憶で限界を迎える事はない。ナノマシンによって拡張された脳の力は常人を遥かに凌ぐ。だが、一億年後もまともな思考を維持できる保証はどこにもない。

 そこで、転移して十年で知り合った友人の孫まで死んだ後からゆっくりと記憶をデータ化し、整理していこうとナノ子と決めていた。


 いつでも引き出して思い出せるように漫画や小説、アニメなどにデータ変換してくれるとナノ子は言った。

 だから俺は永遠に生きるのが楽しみなのだ。

 

  ◇


「な、なんだあの受験生は? ラベルダはA級冒険者パーティに囲まれても逃げ延びた化物だぞ。それをいとも簡単に……」


 職員室は騒然としていた。監督官を務めているはずの冒険者が犯罪者と入れ替わっていた事よりも、その犯罪者を子供のように扱った受験生がいる驚きが勝っていたからだ。


 カミラは「ふんっ」と皆を鼻で笑った後、画面に映ったメグルの顔を指さしながら叫んだ。


「彼の名はメグル・エヴァンス! この大陸で最も偉大な冒険者になる私の息子よ!」


「いや、メグル・クロノスだから。親バカはほどほどにな」


 バルトはカミラを抱えながら、職員室を後にした。


「馬鹿話を続けている場合じゃない。ラベルダを逃がす訳にはいかないだろう」


「爺があの傷を負っちゃ、流石に逃げ切れないでしょ。メグルが止めを刺してくれていたら良かったんだけど」


 廊下を走りながら、カミラは小さくため息を吐いた。


「それこそ夢見すぎだ。メグルはこっちの世界に来たばかりでラベルダの悪事を知らないんだ。知っていたとしてもわざわざ人殺しになる必要はない」


「それもそうね。私の可愛いメグルがあんな小汚い爺の命に係わる必要なんてないものね」


「そうだ。俺の可愛いメグルは冒険者として冒険を楽しむだけで良いんだ」


「俺の」「私の」

「「メグルは!!」」


 その後、メグルは受験をトップ成績で通過し、ラベルダは無事捕獲されて処刑となった。 アルビィとリリィも合格となり、受験は無事終了となる。

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