いつまでも続いていくと思っていた
プロローグ
人は禁断の果実をどこまでも追い求める
たとえどんな不幸が待ち受けていようがその一瞬の快楽に全意識を注ぐ。
それが人間が人間である所以である。
甘美な声が強くこびりつく様に耳に残る。
ふと時計を見ると時計の針はもう左を指している。そそくさと出発の準備をするとまだ瞼が開いていない真希とぶつかった。おかえりと声をかけてきたので、おはようと返すと、真希は何もなかったかの様に洗面台へ向かう。時計を確認するともう時計の長針は一周を回り切ろうとしていた。私は急いで生焼けのカレーパンを食べながら玄関から何も告げず出で行く。私たちの日常だ。
"ガタンコトン"
電車の揺れが眠気を誘う。確か1/fゆらぎという波だと、なにかの本で読んだことがある気がする。眠い頭に昨日の光景が鮮明にありありと浮かぶ。電車ではダメだと分かりながらも、僕の息子はあたかも目の前に目的があるかの様に反り立つ。私は隠すように吊り革から手を離す。その時、大きな揺れが起き大きくよろける。
目の前に鼻腔をくすぐるようなツンとした匂いが突如現れる。「茶髪のロングか、、」いつものように値踏みすると、どこか誰かに似ているように感じる。長いこと凝視していると、視線に気付いたのかその女性は振り返る。「あっ」とお互い咄嗟に声を出した。だが彼女は全く知らない人かのようにすぐ振り返る。それを見て私は咄嗟に彼女の手めがけて、手を伸ばす。その瞬間電車がホームに停車し、大量の人の洪水に呑まれ、彼女に向けて伸ばした手は高嶺の花を遠目から見て批評するだけの陰キャのように虚しく下ろされて見失った。次のホームで私は人波を掻き分けて彼女を必死に追ったがまたもや人の波に押され手は届かなかった。どこか避けられているように感じたが、「そんなことない」と私は自分に言い聞かせた。