第9話 突破
「やっぱり、そうだよな……」
参道を抜け、海岸まで降りたところにポカリと空いた岩屋。
岩屋の途中、観光客が普通に入れるところで止まった俺は、先をみてため息をつく。
ダンジョン領域は遠目にも一目瞭然だった。
ある場所から、ブンブンと撮影ドローンが飛び交い、配信者様たちがペチャクチャとドローンに向かって話しているのだ。
ダンジョン領域への入り口には、管理機構の職員らしき女性たちの姿がある。入場する配信者様の探索者証をチェックしたり、ダンジョン外で撮影ドローンを飛行させないように注意する姿が見える。
流石に観光地と隣接するダンジョンなだけはある。奥多魔ダンジョンとは違って色々としっかりしていた。
ちなみに、穢ノ島ダンジョンは、全体的に現れるモンスターが堅いらしい。
移動速度が遅めで、堅い敵が大部分を占めているので、配信としては地味になりがちだそうだ。
そのお陰で、他のダンジョンよりは人が少ないらしいが、それでも結構な配信者様達の姿が見える。
──まあ、堅くても鈍い敵が多いなら、その分、安全だもんな。慣らしでいく配信者様がいるとはネットに書いてあったけど、ここまでとは……
この中を突っ切って行くとなると、配信キャンセル界隈の俺はきっと目立ってしまう気がする。そもそもが、映り込みしてしまいそうだ。
──せめて、これでも被っておくか。服装は大丈夫、だよな。今日も全部ファストファッションだし、靴もBCDで買ったどこでも売ってるやつだし。
俺は全身を確認すると、右手にエキストラマンのお面、左手に探索者証をもち、出来るだけ気配を消して歩き出す。
受付をしている管理機構の女性職員さんまであと数歩のところで、お面を顔につける。
──よし、このまま流れるように探索者証を提示。職員さんにだけ見えるように角度に気をつけて……
「はい、確認しました。お気をつけて」
お面をつけた俺の顔を一瞬見るも、華麗にスルーしてくれる職員さん。
実際、キャラ作りで被り物をしている配信者様も多いので、慣れているのだろう。
──よし。無手、被り物、配信装備なしでも一切止められなかった。さすがダンジョン管理機構。末端までちゃんと出来る人がいてくれて助かる。このまますぐに探索者証をしまって……ダンジョン管理機構は個人情報の保護とか厳格らしいから、もう、ここから身ばれは大丈夫。
実際、探索者証の映り込みで身ばれするケースは結構あるらしい。SNSの噂だが。
そのまま俺は配信者様の隙間をぬって、早足に進む。
最初は順調だった。
しかし残念なことに途中で、配信者様達がざわつき始めてしまう。
こっちを指差している奴すら出てくる。
──まずいな……このまま突っ切れるか?
俺がさらに進む速度を上げようとした時だった。
ばっと俺の前に両手を広げて通せんぼしてくる人影。
女性配信者様だ。
「ちょっとごめん遊ばせ、貴方、もしかしていま話題のキャンセル撲殺おじさんではありませんこと?」
俺は近くの撮影ドローンの距離をはかる。
──声も、まずい。録音されると声紋が……無言で押し通る!
俺は声をかけられて、さも答えようとしているかのように、歩みを止める、ふりをする。
お嬢様キャラの配信者様が、そんな俺の動きに笑みを浮かべた時だった。
俺は一気に踏み込みを加速させる。
女性配信者の顔が、俺の顔に触れそうな程に接近する。
驚愕に見開かれる、女性配信者の顔。
ただ、なぜか不思議なことにその瞳には僅かに愉悦の色が見える。
俺はその愉悦の色に不吉なものを感じながらも、踏み込んだ足で力強く大地を蹴り、前宙の要領でお嬢様配信者を飛び越す。
お嬢様配信者の脳天が目の前を過ぎたところでクルンと縮めた体で回転し、お嬢様配信者の背後に着地するとそのまま、ほぼ全速力で走り出す。
なぜか一般人と配信者様達から歓声が上がった気がしたが、聞き間違いだろう。
俺はなんとか無事に入り口付近にたむろする配信者様達から抜け出したのだった。