第8話 新たなダンジョンへ
「ああ、撲殺したい……」
俺は奥多魔ダンジョンが封鎖されてしまってから、すっかり仕事のストレス発散先に困っていた。
「違うダンジョンに行くのもな……」
残念なことに、配信に俺は映り込んでしまっていた。
例の奥多魔ダンジョンに出没していた配信者様は蒼炎チャンネルというやつらだったらしい。
戦闘不能になるときも、はた迷惑なことに、ライブ配信をやっていたみたいだった。
幸い、消される前に確認した動画では、俺の映り込みは最小限で済んでいて、顔ばれも無事に防げていた。
ただ、一部からキャンセル撲殺おじさん呼ばわりされているのを目にしてしまった。その後は、精神衛生上良くないので、ネット上のその手の話題が出そうなところからは、出来るだけ距離を置いている。
俺が他のダンジョンへ行くのを躊躇っているのも、それと同じ理由だった。
──稼働していた撮影ドローンが少なくて本当に良かったよな。モンスター殴り殺すより撮影ドローンの画角に気を付ける方が大変だった。
俺はあのときの戦闘を思い出して、自分の立ち回りがまあまあ良かったことを自画自賛しておく。
「──思い出したらダメだ。殴り殺したい」
俺は尽きぬ衝動に突き動かされるようにスマホで再び検索をする。
「過疎っていて、なんとか日帰りで行けるのは、やっぱりここだよな……。問題は、人の少ない下層まで行くのにかかる時間だけど……いや、この際、そんな贅沢は言ってられない。よし、とりあえず明日は四時おきだ!」
一度、決めたら後はそれに向かって行動するだけだった。俺はうきうきと明日に向けて準備をするのだった。
◆◇
「ようやく見えてきたー」
車の窓越しに見える海。そこに橋がかかっていて、その先には島が見える。
観光地としても有名な穢ノ島だ。
そのまま車で橋をわたると三ヶ所ある駐車場のうち、唯一空きのある一番奥の駐車場に停める。
「うーん。長かった……途中休憩とってないから、体が凝ったぜ……」
ドアを開けて外に出ると濃厚な磯の香りがする。
俺はそのままリュックだけ背負い、手はフリーにして歩き出す。
流石に有名な観光地だけあって、既に人が多い。人を掻き分けるようにして坂を上っていく。
ダンジョンはこの先の岩屋の一番奥にあるのだ。
坂の左右には歩き食いが出来そうな食べ物やさんや、昔ながらのお土産屋さんが並んでいる。
なんだかお祭りのような非日常感がある。
「お面なんて売ってるよ。縁日みたいだ……あ、これ懐かしい──」
子供の頃見ていた特撮。
mob78星雲からきた宇宙人が人間に憑依していて、地球のピンチに巨大化して怪獣と戦うエキストラマンというキャラだった。
思わず懐かしくなって買ってしまう。
「──これぞ、独り身の社会人の醍醐味だな」
買ってから我にかえり、なぜか恥ずかしくなってきてしまった俺は照れ隠しでそう、小声で自嘲するのだった。