第78話 エピローグ
錆丸を叩きつけたことにより、広間が揺れる。衝撃波がうまれ、周囲を煩く飛び回っていた撮影ドローンたちが吹き飛んで壊れていく。
同時に俺の顔から外れた仮面が落下すると、地面に当たって真っ二つに割れる。
──ギリギリ、ネットに顔ばれはせずに済んだか、な?
墜落して動かない撮影ドローンをみてホッとしていると、錆丸を叩きつけたことによる粉塵が収まっていく。
三頭の蛇は粉々になって煙と化したようだった。ドロップアイテムらしき、見たこともないサイズの巨大な魔石が、窪んだ床の底に落ちている。
「思水さん! すごい衝撃でしたね。あの、こちらは、こんなドロップアイテムが……」
橘さんの声。
俺がタッちゃんだったモンスターを倒したのとほぼ同時に、橘さんたちはツクヨカニを倒したようだ。
橘さんが、俺の方に駆け寄ってくると勾玉のようなドロップアイテムをおずおずと見せてくれる。しかしその顔はとても誇らしげで、明らかに誉めて欲しそうだった。
「ああ。すごい、すごいね、橘さん。あのカニのモンスターを倒したんだ。素晴らしい成長ぶりだな。橘さんがカニの方を対応してくれていて、本当に助かったよ」
「ふふ……」
思わずといった感じで、橘さんから笑みがこぼれている。
「……あ、そうでした。あの横殴りしてきた配信者はどうなりました?」
「──生きてはいる、みたいなんだが、その」
タッちゃんだった脱け殻に、抱きつくようにして気絶しているトリなんとかさんの方を見る。
衝撃で転がっていったようで、少し距離がある。
ただ、ここからでも、その相撲取りほどに膨らんでいた肉体が、すっかり縮んでいるのが見てとれる。元のサイズよりも、小さいぐらいだ。
そして明らかにその肉体は加齢していた。少なくとも見た目だけでいえば俺より二回りは年上に見える。
「──あっ。これは、また。無惨な……」
「たぶん、スキルの過剰使用に肉体が一気に老化してしまったんだと、思う」
「そう、ですか……」
「そういえば、エミリーさんの方は?」
「あちらです。詳細は伺わないという取り決めだったので、離れていようと思いまして」
橘さんが指差した先。広間の中央には、邪田之鏡を天高く掲げたエミリーさんの姿があった。
そちらを遠目に眺めていると、その邪田之鏡から、白い膜のような光が広がっていく。
それは俺たちの体を通りすぎ、広間を満たすと、さらに外へと広がっていくようだった。
「──あ、思水さん。スマホの電波が繋がりましたよ」
「そうか。どうやら、ダンジョンの領域じゃなくなったみたいだな」
なんとなくエミリーさんのやっていることがわかったが、深く考えるとやぶ蛇になりそうだったので、考えるのは止めておく。
「……これで依頼は完了ですかね?」
「完了、だろうなー。ふぁー。なんだか濃密な三連休だったね」
「本当ですね。それで思水さん、次の探索はどうしましょう?」
待ちきれないといった風に尋ねてくる、橘さん。なんだか楽しそうだ。
「うーん、一回休みにしとくか。色々と後処理もあるだろうしね」
「わかりました! あの、その後でお時間があったらで良いんですけど」
「うん?」
「私と、デートしてもらえませんか?」
思わず俺は固まってしまう。
まじまじと橘さんの顔を見るがとても真剣な表情だ。
どうやら聞き間違いや、冗談とかでもないみたいだった。
その橘さんの真剣な表情に、俺も中途半端な返事は出来ないなと、覚悟を決める。そして、返事をしようと口を開く。
その日、和やかにそんなやり取りを俺が橘さんとしている場所を中心として、国土を覆い尽くすまで広がった白き光。
その光により、ダンジョン領域の拡大による混乱は無事、いったんの終息を迎えたのだった。
fin
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『僕が魔の森の地主さん? ~マッピングは無用スキルだと辺境に追放されたけど、人類未踏領域を通るだけで土地所有権が手に入るって!?~』