第73話 中をお掃除
襲いくるモンスター達の隙間から見える皇宮の内装は、質実剛健といった感じだった。
ただ、なにぶん、モンスターたちが暴れまわったあとなので、荒れていて無惨な感じになってしまっているのが残念だった。
──進んでいくと、確かにモンスターの密度は上がるけど、そうすると倒したあとの煙が邪魔だなー
目論みどおり、皇宮のなかのほうがみっちりモンスターが詰まっているようで、少し倒しがいが出てきた。
しかし、室内ということもあり、モンスターを倒したあとに変わる煙がたまってきて、視界を遮るのは誤算だった。
──あとはこの魔石だよな。まあ、踏み砕いていけばいっか。
ごろごろと床に魔石が転がっているのだ。当然、俺が撲殺したモンスターのドロップアイテムだ。
せっかく換金出来るようになったのだが、さすがに悠長に拾っている暇はない。
その分、適宜踏み砕いておけば、疲れがリフレッシュするので、体力の回復には役立っていた。
──たまに出る魔石以外のドロップアイテムが邪魔だよなー。さっき転びそうになったし。
そんなことを考えながら錆丸を振り回していると、俺の通ってきたあとの床が綺麗になっていくのが見える。
──あのスライムは、ベノタンか!
どうやら橘さんが、俺が踏み砕かなかった魔石とそれ以外のドロップアイテムをベノタンに『ごっくん』させてくれているようだった。
──さすが橘さん。細かいとこに気が利く。これで換金したら追加報酬もバッチリだ。
唯一の心配は、ひしめくモンスター達の足元を移動するベノタンが踏まれないかだったが、思いの外、ベノタンの動作は機敏だった。
──いつの間にあんなに素早くなったんだ、ベノタン。もしかして、橘さんが魔石を砕いた分の成長補佐が……?
そんなことを考えているうちに、階段だ。
事前に管理機構でみせてもらって暗記した皇宮内の地図によると、目的地はこの下だった。
ただ、階段なだけあって、足場があまりよくない。そんなことは階段にもひしめくように詰まっているモンスター達をちらりとみて、俺は一気に行くかと軽く助走をつける。
そのまま、跳躍。
体を丸めるように四肢を折り畳み、階段を全段飛び越えるように、一気に踊り場まで飛び降りる。
着地の瞬間、手足を伸ばし、周囲のモンスターを錆丸で薙ぎ払うと同時に、足で数匹のモンスターの体を貫いて殺して、ついでに勢いも殺しておく。
「お、意外となんとかなるな」
錆丸をぶんぶんさせながら、そう呟くと、俺は再び同じ様に次の踊り場まで跳躍する。
その繰り返しで、気がつけば目的地の手前の入り口のところまで、俺は来ていた。
「後始末、してあげないと橘さんたちが通れないよね」
俺が背後を振り返ると階段から転げ落ちるように迫ってくる大量のモンスターたち。
階段の途中で撲殺しそこねた分だ。
モンスターたちは、雪崩のように互いを潰しあいながら迫ってくる。それを、俺は足元がしっかりしている階段の一番下の踊り場でどっしりと待ち構えて、錆丸で落ち着いて撲殺していくのだった。




