第69話 休息
条件交渉が無事に終わり、互いに納得出来る結果が得られたところで、俺は早速出発しますかと告げる。
行き先は、エミリーさんが行かなければならない、この国の中枢、皇宮だ。
しかし、意外な所から、待ったがかかる。
橘さんだった。
「思水さんは昨晩もほとんど寝ておりませんし、先ほどの仮眠を合わせても、絶対に休息が足りてません」
「あー、それじゃあ久しぶりに魔石を砕くか」
俺はまだまだ大丈夫だったが、せっかく橘さんが心配してくれたのをむげにも出来ないので、そう提案してみる。
ただ、魔石を砕いたリフレッシュ効果を実感出来ていない橘さんは、俺のその提案には懐疑的の様子だ。
「それはもちろん良いのですが、十分とは思えません。皇宮では激しい戦闘が起きる可能性があるのですよね」
「それは、あります。あの、魔石を砕くの、ですか? 砕くと何があるのですか?」
エミリーさんが不思議そうに尋ねる。
「リフレッシュするんだよね。少なくとも俺は。橘さんはあんまり感じないみたいなんだけど……」
「そんなこと、聞いたことがありません。そもそもが高価な魔石をわざわざ砕く方がいるとは──」
不思議なものを見る目で見られてしまう。
ただ、エミリーさんには、配信キャンセル界隈への侮蔑の色は一切なかった。
ただ単に興味津々といった様子。
「昼馬支部長」
「ああ、私も初耳だ。ただ、とても興味深い。山門さんの恐るべき力の理由のいったんはそこにあるのかもしれないな」
「あーその、この事も」
「もちろんだ。先ほどの付帯条件に則って、ここだけの話とすることを誓う」
「ありがとうございます」
俺はお礼を告げる。それにしても橘さんに従って条件交渉をしといて、早速役立った。
その橘さんは話が終わってないとばかりにいい募る。
「どちらにしても思水さんには休息が必要です。いかに思水さんが強くても、疲労はしますよね。眠さで判断に狂いも出ますよね」
俺はそこまで心配してくれる橘さんをどこか不思議な気持ちで眺めてしまう。
仕事をしていても、探索者をしていても、ここまで俺のことを気にかけてくれた人というのはなかなか思いつかないぐらいだ。
「ありがとう、橘さん。確かに少し休んだ方が良いかもしれないな」
「わかりました。仮眠程度でしたらすぐにお部屋を用意します」
「鏡台さん、お食事も準備を」
俺がそう口にすると、エミリーさんも昼馬さんもそう提案してくれる。てっきり反対されるかと思ったので、意外だった。
「いちかさんにも、別のお部屋をすぐに用意させますね」
エミリーさんが俺にピタリと張り付いたままの橘さんの手を取って告げている。
「え、いえ、私は思水さんと──」
「思水さんには出来るだけごゆっくり休んで頂かなければ。そうですよね、いちかさん?」
エミリーさんが大人の笑みで告げながら、橘さんは引き剥がしていってくれる。
俺は少しだけほっとしながら、それを見送るのだった。




