第63話 空を舞う未確認飛行物体
「ごめんね、振り回してばかりで」
「いえ、しっかりと掴ませてもらっているので、全然大丈夫ですよ」
俺が腕の中の橘さんに謝ると、なぜか嬉しそうに返事をしてくる橘さん。確かにその言葉どおり、ひしっと俺にしがみついてくれている。
お陰で、ある程度は激しく動けはするのだが、それ以外は色々と困っていた。
そう、ダンジョン管理機構の支部に戻る道すがら、自分を囮にして目につくモンスターを討伐していこうという、俺の目論見は早くも挫折したのだ。
というのも、領域拡大したダンジョンの中では、普通のスマホの電波は届かないのだが、スマホのカメラは普通に使用できる。
そのため、そこかしこで一般の方が避難もせずに、スマホを構えて呑気に撮影をしているのだ。
──今は電波が届かないけど、届くようになった時に、生き残った人が撮ったものをSNSとかに投稿するだろうしな……これは仕方ない。
そんな訳で、俺は橘さんに俺の姿を隠してもらい、橘さんをお姫様だっこしていた。
もちろん、スマホのカメラに映らないようにしてモンスターを倒しつつ管理機構の支部に向かっていたのだ。
今もちょうど、スマホを構えて、俺にはぼーとしているようにしか見えない人が視界に入る。
上からは鳥っぽいモンスターが急降下してきているが、気がついた様子はない。
俺はスマホの向きに注意しながら、足元の瓦礫を拾うと横投げに投擲する。
「──お上手です、思水さん」
モンスターが一般の方を、その爪にかけようとする直前に、俺の投擲した瓦礫がそのモンスターの頭に当たる。
四散する頭部。
飛び散る体液。
橘さんが俺の腕の中でその一部始終を見ていたのか、過分に誉めてくれる。
スマホを構えていた人は、突然頭上からモンスターの体液を浴びて、きょとんとしたあとに、それが何か気がついたのだろう。顔を真っ青にしている。
しかし、浴びた体液もすぐに煙となって消えていく。その頃には、呆然としていたその人も慌てた様子で避難所へ向けて走り出していた。
「あの人は大丈夫そう、ですね」
「まあ、都内の各所にはセーフティハウスがあるし、今の人も慌ててはいたけど、ちゃんと看板見て走っていったから、たぶん。さすがに全員は面倒、見きれないしね」
「こうやって助けてあげているだけで、思水さんは本当に素晴らしいと思います。それに比べて他の探索者の方は──」
橘さんが言っているのは、ここまで戻ってくる間に遭遇した配信者様達のことだろう。
みな、自分の配信にかまけていて、近くで一般人が襲われてても基本的にドローンカメラを向けるだけなのだ。さぞ撮れ高を稼いでいることだろう。
そんななか、一般人を助ける配信者様も数名いたが、やはり第一は配信なのだ。一般人を助ける自分スゴっ、てなるよう調整しているのが、みえみえだった。
そのせいで、一般人を助け損なっても、それは見て見ぬふり。
ただ、それらの行いも、ダンジョン法の範囲内になるので、法的に処罰されることはない。
というのも、ダンジョン内では救助義務は発生しないのだ。橘さんを俺が助けたときも、実は似たような状況だった。
ただ逆に、救助を行う場合は、探索者の行動の方に、特例的容認がいくつかある感じにはなっていた。
まあ、仕方ないので、そういう場に遭遇した時は、俺の投擲した瓦礫やら何やらが、空を舞うことになっていた。
──本当に、橘さんの隠連慕、さまさまだよな。ドローンカメラに映りさえしなければ横殴りで咎められることを恐れなくていいのは非常にでかい。まあ、空飛ぶほにゃららを、複数人が目撃はどうしてもしちゃってるけど。ふぅ。そこまで大事にはならないと、いいなー。
俺はそこまで考えて、橘さんへ答える。
「仕方ない。彼ら配信者様とは、到底相容れないんだと、俺はもう諦めてる」
「なるほど……わかりました。私もそうしますねっ!」
力強く肯定してくれる橘さん。
そこまでは求めてはいないんだけどな、とは思いつつ、さりとてなんといって良いかわからないままに走っていると、ようやくダンジョン管理機構の支部が見えてくる。
ただ、支部の建物は先ほど俺たちが出たときと比べて、様子が様変わりしていた。




