第62話 とんぼ返り
「当然の報いですね」
力を加減しながら、幾度も幾度も錆丸を叩きつけていた、サイのかなべえが煙と化したところで、橘さんが姿を現す。
「ああ……お恥ずかしいところを見せちゃったね……」
俺は頭に血がのぼって、必要以上に痛め付けるような真似をしていた自分の姿を橘さんに見られていたと思うと、急に恥ずかしくなってくる。
「いえいえ、そんなことはないと思います。せっかくのドライブが台無しどころか、思水さんはお車までダメにされたんですもの。それに、しっかりとお相手の四肢の末端から潰されていて、思水さんはとても合理的だったかと思いますよ」
「──も、もう、俺のことはそこら辺で……そういえば、何かしゃべってたよね。そういうモンスターもいるんだっけ?」
俺はサイのモンスターの魔石を拾いながら話題を変えようと試みる。橘さんに自分の行いを冷静に分析されるのは、なかなか辛いものがある。
俺は拾った魔石を橘さんへ差し出す。
「はい。『ベノタン、ごっくん』。しゃべるモンスターについては、私は聞いたことがありません」
「そうだよね。俺もだ。何かこの状況と関係があるのかな──とりあえずは、橘さんはまた姿を消してくれるかな」
「わかりました。思水さんはどうされますか」
「少なくとも目につくモンスターは倒しておこうかなと思ってる。俺が姿を見せてた方が、モンスターも寄ってくるだろうし。ただ、配信とかしてそうな配信者様がいたら、俺のことも隠連慕でお願い」
「こんな状況でも、彼らは配信をされますかね」
「するする。というか、こんなチャンスはないとか言いながら、嬉々として配信するでしょ、配信者様なら」
俺たちは周囲を見回しながら、今後の相談をしていく。空には無数の鳥型のモンスターが舞い、遠くからは何かが壊れる破砕音が、ここまで響いてくる。
「わかりました。それで、どちらに向かいますか」
「一度、管理機構の方に戻ろうか。そこで現状把握を出来るかもしれないしね。ごめんね、いいかな?」
「もちろんです。謝らないでください。私は思水さんについていきますので。どこまでも」
「──う、うん。じゃあ、行きますか」
相変わらず、冗談なのかよくわからない橘さんの冗談に苦笑しながら、俺たちは来た道を戻っていくのだった。ダンジョンを探索するときのように、目につくモンスターを倒しながら。
 




