第61話 仇
そこにいたのは、二足歩行しているサイのモンスターだった。
それが、渋滞して停まっている車の列にわざわざ入り込んで、手当たり次第に車を四方八方へと投げ飛ばしていた。
幸い、運転手はみな危険を察知して逃げたのか、車は無人だった。
俺が受け止めた女性の乗っていた車がはじめの方に吹き飛ばされたのかもしれない。
「そうかそうか、そんなに暴れたいか」
俺は手の指の関節をポキポキ鳴らしながら、そのサイのモンスターへと近づいていく。
すると、サイのモンスターがこちらを向いて歯を剥き出しにして口を動かす。
「あァん? オデに何かヨウか」
それは聞き取りにくいが、確かに言葉だった。
「ほう、しゃべるのか。なに、そんなに暴れたいなら、少し付き合ってもらおうかとね」
俺は首をゆっくりと左右に動かしてポキッ、ポキッと音を出す。
「チイサイの。生意気。オデ、かなべえ。かなべえは、お前、ブッつぶす」
かなべえと名乗ったサイのモンスターが手近にあった一台のワゴンボックスを片手で持ち上げる。
前肢は蹄ではなく、三本の指がある。人の手ほどではないが、それなりに細かく動かせそうだ。
大きく振りかぶって、かなべえがワゴンボックスを叩きつけてくる。
──なんだその、テレフォンパンチみたいな攻撃は。みえみえなのは、もしかしてブラフか?
あまりに単調な攻撃に、俺は逆に疑ってしまうほどだった。
とりあえず片手で振り下ろされてきたワゴンボックスを受け止める。
衝撃をすべて大地へと逃がし、片手でワゴンボックスを支える。
「おいおい、本当に単なる叩きつけなのかよ。どんだけ単細胞なんだ、お前……」
俺は思わず怒りも忘れて呆れたように呟いてしまう。
愛車の仇の相手があまりに知能が低すぎて、戦闘のセンスもなく、驚きだった。
モンスターはしゃべれるからって、知能が高いとは限らないようだ。
「オデ、バカにする。許さないッ。つぶすつぶすつぶす」
「し、思水さん。 喋っていますよ」
近くから、橘さんの声がした。姿が見えないので、隠連慕で姿を消してついてきたみたいだ。
「──喋ってるねぇ。とりあえず軽く片付けるから、橘さんは下がってて」
俺は、橘さんの声を聞いて、さらに怒りが消えていくのを感じる。さすがに少し大人げなかったかと反省しながら返事をしていると、サイのかなべえがワゴンボックスから手を離す。
俺が持ったままで、動かせなかったから諦めたようだ。
俺はその場にワゴンボックスを置く。
かなべえはのしのしと背を向け走ると、道に停められた車へ駆け寄り、それを俺の方へと飛ばしてくる。
それを次から次へと繰り返していくかなべえ。
「本当に、単調な……なんの工夫もないのか」
俺は飛んできた車を一つ一つ受け取り、余裕をもって道に戻しながら、かなべえへと近づいていく。
ただ、最後の方は、めんどくさくなってきた。なので、俺は一気に加速してかなべえの懐へと潜り込む。
「──アでッ? な、なんでだ? なんで、まだ、チイサイの、生きてる」
目の前に急に現れた俺へとそんなことを口走るかなべえ。
「それはお前が弱いからだな」
俺はそれだけ告げると、錆丸を普通のサイズのまま跳ね上げるように振るって、かなべえを下から打ち上げる。
綺麗な放物線を描き、そのまま道路に叩きつけられる、かなべえ。
ぐちゅっと、あまり聞きたくない音がその体のどこからか鳴る。
苦しげな呼吸音とともに、野太い悲鳴を上げ始める、かなべえ。どうやらまだ生きていた。一撃で撲殺しないように調整したかいがあったと喜びながら、俺は再び錆丸を振りかぶるのだった。




