第6話 連絡先
「そう、ちょうどここら辺ですね。どうもご協力、感謝致します」
電話をしてからぴったり十五分後に現れたダンジョン管理機構のエージェントの方達は、まさにプロといった手際の良さだった。
彼女達は手早く、俺と橘さんから事情聴取を済ませると、拡大したダンジョンの領域沿いにさっそく簡易的な結界パーテーションを張り始めていた。
「あの、しばらくはここのダンジョンは封鎖ですか?」
「そうですね。ここまでの領域拡大は非常に希少な事例ですので、当分は一般探索者の方には奥多魔ダンジョンの入場許可は難しいかと」
残った女性のエージェントの方が、俺の質問に答えてくれる。
──やっぱり、そうか……困ったな、俺のストレスはどこで発散しよう……
俺がひっそり落ち込んでいる間にも、仕事のできる女性エージェントさんはさくさくと話と手続きを進めていた。
「──それではこれで。橘いちかさん、ご自宅までお送りしますね」
「あの、思水さん!」
「はい?」
「あの……あとでお礼をしたいので、連絡先を!」
橘さんがスマホを両手にもって、俺のことを見上げてくる。
それはなんだか不味い気がした俺はなんとなくその場にいた第三者である女性エージェントさんを見てしまう。
俺の視線に、営業スマイルを浮かべる女性エージェントさん。なんだか笑みが刺々しい。
──あ、はい。
しかし、正面には真剣な顔で俺のことを見ている橘さん。それに負けて、俺はおずおずとスマホを取り出すと、橘さんと連絡先を交換する。
──これはあれだ。もし万が一あの死んだ配信者様たちがライブ配信していた時に、何かと対応をしなきゃいけない可能性があるだろうから。その連絡用。そう、それだけ。
女性エージェントさんからの、営業スマイルに晒されながらもさっさと済ませると、橘さんはすぐさまその女性エージェントさんに連れられて行ってしまった。
俺は当然、一人で帰れるので、自分の車に戻る。気がつけば辺りはすっかり夜だった。
「──なに食べて、帰るかな……」
俺はそう呟くとエンジンをかけてアクセルを軽く踏み込むのだった。