第59話 帰宅途中
「ようやく終わったねー」
管理機構の支部から出て、車に乗り込んだところで大きく伸びをする俺。
「お疲れ様でした」
「橘さんも。契約の件、俺がポンポン進めちゃって、ごめんね」
「そんな、謝らないでください。確かに思水さんと二人だけの秘密を持つというのは楽しそうでしたけど、私は思水さんの決定に全面的に従うと決めましたので」
「──ははは。そっか、ありがとう」
橘さんの冗談は、たまによくわからないなと思いながら俺は車のエンジンをかける。そして、俺の選択を支持してくれる橘さんにお礼を告げる。
「それより、すぐに運転されて大丈夫ですか? どこかで少し、休まれては?」
「いや、あと少しくらいなら大丈夫。仮眠もさせてもらったし。それに都内って、車停めてしばらく落ち着いて休める所って、少ないんだよね。だったら帰っちゃった方が休めるし」
そのまま運転を始める俺。
しばらく進むと、橘さんが話すか迷っている雰囲気を感じる。
「何か、気になるところあった?」
俺はあるだろうなーと思いながら話を振ってみる。
「はい、その……あの契約は、無難な結果になったんですよね?」
「うーん──まあ、無難だとは思う」
俺は悩みながらこたえる。
確かに金額はもう少し引き上げられたかもしれないが、交渉して管理機構とわだかまりが残る可能性を避けた結果なのだ。
「俺にしてみれば、十分な不労所得って感じの額だったしな。ウブメの討伐報酬と合わせれば、派手なことをしなければのんびり暮らせそうだよなー」
「お仕事のストレスがって、おっしゃられてましたものね」
「そうそう。お恥ずかしながら俺はストレス発散のために探索してるから」
「ではその……もしかして今回の結果で、仕事をやめたり、そのまま探索も辞められたりとか、お考えですか」
不安そうな声で聞いてくる橘さん。
確かに、橘さんからすればパーティー相手が探索を辞めるかもというのは心配にもなるだろう。
「ああ、それは大丈夫。仕事はわからないけど、探索者を辞めるつもりはないから」
「本当ですかっ、良かった」
「ほら、貸与の契約も二年ごとって言われたしね。それにせっかく魔石とかの換金も出来るようになったからね。もう少し稼いどこうかと──ごめん、ブレーキ踏む!」
俺は車を急停車させる。
前の車が、急に停まったのだ。幸い、後続車はいなかったので大事にはならなかった。
「ふぅ、大丈夫? 橘さん」
「はい、私は。その、思水さん」
「うん?」
「もしかすると──『おいで、ベノタン』」
そう言いながら、とんとんと車の座席を叩く橘さん。
すると座席の影になった部分から、ポンッとベノタンが飛び出してきたのだった。




