第55話 仮眠
「こんにちは、山門思水さん。橘いちかさん。今日はどうされました?」
「あ、エミリーさん。はい、ウブメのドロップアイテムです」
俺は再び訪れたダンジョン管理機構の支部の応接室で、呼び出して貰ったエミリーさんへ丸い鏡を手渡す。
エミリーは俺へ手を伸ばしかけて、ピシッと音がしそうなぐらい急に動きを止める。
「──あの、いま、なんと?」
「ウブメのドロップアイテムです。討伐の証明に、と」
「こ、こんな短期間で討伐、されたんですかっ!?」
それだけ告げると、エミリーさんの、出来るビジネスウーマン風の装いが、一気にとけて、大きく口を開けて固まっている。
──驚くと、口を開けて固まる人って本当にいるんだ……
真正面でそんな顔をされると、口の中がまる見えだ。
他人の口の中をまじまじと見る機会なんて滅多にないので、目のやり場に困って、俺はそっと視線をそらす。
隣に座っている橘さんと目が合う。
するとなぜか、じっと見定めるような視線を、橘さんから感じる。
──えっと……俺、もしかして橘さんから何か、せめられてる?
俺が橘さんの視線に戸惑っているとエミリーさんがようやく立ち直った様子で、開けっ放しだった大口を閉じる。
俺はほっとして、その手にウブメのドロップアイテムの鏡を渡す。
「た、ただいま急ぎ鑑定して来ます。しばしこのままお待ちいただけますかっ?」
「はい、わかりました」
大事そうに鏡を運び出ていくエミリーさん。
俺は橘さんと二人で応接室に残される。
エミリーさんが消えて、急にまったりとした空気が流れ出す。
そんな雰囲気に、俺はダンジョンを出てすぐにここへ来たので、さすがに少し眠くなってきた。
──無理せず、明日にすべきだったかね……でもせっかくの三連休なんだし、こういった雑務は早く終わらせちゃっておきたいしな。
俺が生欠伸を噛み殺していると、橘さんから声をかけられる。
「思水さん、少しお休みになられていては? 鑑定されるとエミリーさんは仰られていたのである程度は時間がかかるかと──」
俺が眠そうなのはバレバレだったらしい。
──鑑定って時間かかるんだっけ? 縁がなかったからよく知らなかった。わざわざ教えてくれるなんて橘さんは相変わらず親切だね
「──あー。じゃあ、せっかくだから少しだけ。お言葉に甘えようかな」
「そ、それでっ。枕は、いりますか?」
「うん? いや、このままで大丈夫。じゃあ、申し訳ないけど……」
「はい、かしこまりましたぁ……エミリーさんが来たら起こしますね」
最後、なぜか残念そうな口ぶりの橘さんを不思議に思いながら、俺は応接室のソファーに座ったまま、目を閉じさせてもらう。
──軽く仮眠するぐらいなら、これぐらいで十分だしな……
そのまま少しの時間、ウトウトとさせてもらうのだった。




