第51話 一叩き
焦った様子でウブメが羽を飛ばすのをやめる。
どうやら俺には意味がないと思ったのだろう。
──そんなことは無かったんだけどね。近づくと先読みが難しいから、実はさっきより大変だったし。でも、あと少しで刃先が届きそうだから、焦っちゃったのかな?
ウブメは巨大なニワトリに似ていた。
ポコポコと卵で生み出していた鳥系ザコモンスターの産出も、とめている。
──もしかしたら、逃げる気か? それは不味いな……
今回は、討伐が目標なのだ。あまり飛べそうな見た目ではないが、実際のところはわからないし、本気で逃げられたらめんどくさい。
「橘さん、一気に詰める!」
「わかりました!」
一声かけて、俺は全力で踏み込むと、走り出す。
俺の接近に合わせるように、雄叫びをあげるウブメ。
まるでコケコッコと叫んでいるようだ。
──いや、メンドリかオンドリかはっきりしてよ……
羽を広げて、俺の倍はある巨体で、ウブメが突っ込んでくる。どうやら逃げるのは止めたらしい。
鋭く尖った嘴が俺へとまっすぐにつき出されてくる。なかなかの速さだ。
──最後くらいは、おもいっきり殴りたいな……
そんな俺の願いを叶えてくれたのか、錆丸が鈍器に変わる。
ただ、サイズはそのままなので、巨体のウブメよりさらに、でかい。
その巨魁と言ってもおかしくない錆丸を、俺はおもいっきり、ウブメへと叩きつける。
つき出されたウブメの嘴が俺の体に触れる寸前、その全てを、一撃のもとに叩き潰す。
衝撃でダンジョンの大地が抉れ、粉塵となって周囲を覆い尽くしていく。
たぶん、少し離れた橘さんから見たら小さめの爆発ぐらいには見えたのかもしれない。
俺は真正面から自分で巻き上げた砂利を浴びてしまう。
「うわ、ぺっ……ぺっ……ちょっと調子に、乗りすぎた──でも、すげー気持ち良かったわ……」
久しぶりの心置きなくモンスターを叩き潰した、快感。
それは少し砂をかぶって砂利が口に入ったぐらいでは色褪せることのない、悦びだった。
「ふぅー……」
俺が浸っていると、粉塵の外から声がする。
「し、思水さんっ! 思水さんっ!」
「──ああ、無事だーっ! 橘さんは少し離れたところで待っててーっ!」
橘さんが心配してくれたらしい。
粉塵が収まる前に、俺は緩みきった頬を引き締めようと両手で顔を抑える。
そうこうするうちに、徐々に収まってくる粉塵。
すると足元にキラリと光る物が見える。
──ウブメのドロップアイテムかな?
そこには一枚の鏡のようなものが落ちていた。