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第5話 領域拡大

「綺麗にされてるんですね」

「あー、どうも?」


 走る車内で、橘さんが話しかけてくる。

 もしかしたら、沈黙が嫌だったのかもしれない。

 何かあったときに車外の音が少しでも聞こえるようにと、音楽も何も流していなかったのだ。


 俺は車外の様子を気にしつつ、しかし出来るだけ速度を維持して運転を続ける。


「──あ!」


 しばらく進んだところで、橘さんの驚いたような声。


「どうした?」

「電波が、戻りました!」


 とても弾んだ橘さんの声。よほど嬉しかったのだろう。


 俺は車を路肩に停める。

 ハイテンションのまま、こちらにスマホ画面を見せてくる橘さん。


 友達らしき人物と二人で写った写真のロック画面が見える。

 俺はそれを見たあとに、急いで自分のスマホも取り出し確認する。


 確かに電波が届いている。


「本当だ……そうか、領域拡大だったのか」


 俺はそこでようやく何が起きたのか思い当たる。


「──領域拡大というと、ダンジョンが、広がるという、あれですか?」

「そう。滅多にないことらしいし、すっかり忘れてた。ダンジョンからは管理機構製の専用配信機材がないと電波が届かないから」

「あっ。じゃあ、あの配信者さんたちの機材をお借りしたら良かったんですね」


 残念がる橘さん。


「うーん。ロックされてると思うから、俺には難しいかも。ハッキングとかできる人ならもしかしたらだけど……とりあえず、ここからダンジョン管理機構に連絡するね。申し訳ないのだけど──」

「大丈夫です。私も親に!」


 俺たちはそれぞれスマホで電話をかける。


 今回の事案がダンジョン領域の拡大によるものだとすると、起きたことは全てダンジョン内での出来事となる。つまりは、ダンジョン管理機構の管轄となるはずだ。


 俺はそっと胸を撫で下ろす。


 ダンジョン内では専用のダンジョン法が適応されるので、橘さんを車に乗せたことは、非探索者のダンジョン内での救助項目に該当するはず。

 つまり、俺が誘拐罪に問われる可能性が、ほぼ無くなったのだ。


「──はい。そうなんです。ダンジョンの領域拡大かと。ダンジョン内での四名の探索者の戦闘不能状態を目視しています。──はい、非探索者一名を保護、現在領域の外と思えるところまで来て電話を──十五分ですね、わかりました。待ってます」


 たぶんあの配信者様達は見た感じは四人とも死んでいるだろうけど、ダンジョン法内でも、死亡の認定には医師免許か、別途専門の資格がいるのだ。

 俺は電話を終えると、隣をちらりと確認する。橘さんはまだ電話をかけている。


「うん──私は大丈夫。でも、朱美が死んじゃったの──うん──うん──探索者の人に助けてもらって──そう、もうダンジョンの外だって──うん。電話してくれてる」


 目尻を擦りながら、親に電話している橘さん。よほど安心したのだろう。そうしていると年相応の子供にしか見えない。

 逆に言えば、橘さんはここまで背伸びして頑張っていたのだ。


 俺は大人としての自分の不甲斐なさにへこみつつ、ダンジョン管理機構のエージェントの到着を待つのだった。

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― 新着の感想 ―
これ死んだ探索者はホントに死んだ?友達の死に対して反応が軽すぎる気が… 日常茶飯事ってこと?
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