第48話 雨宿り
「これは、しばらくお休みですか?」
「そうだな。天候変化型のフロアがここまで厄介だとは」
俺たちはダンジョンの中で、雨に降られていた。
もぐら風の植物モンスター──俺は勝手に「もぐら根」と呼んでいる──をあの後も数体倒したぐらいから、霧が雨に変わっていったのだ。
雨具を用意していなかった俺たちは、幸い近くにあった木立に身を寄せていた。
雨は、馬鹿にならない脅威だった。体温の低下は、普通に命にすらかかわる。
なんとか湿り気の少ない枯れ枝を集められたので焚き火を起こせたが、裸火と煙はモンスターを呼ぶ。
今も、木々の枝を伝って現れるヘビ系のモンスターが一体、橘さんを狙うように上から近づいて来ていた。
──熱探知されてると、姿を消してもダメみたいだな。
俺は焚き火のそばに座ったまま、長く槍のように伸ばした錆丸でそれを薙ぎ払う。
まっぷたつに割けて煙と化すモンスター。
「あ……ありがとうございます」
「いや。それより、寒くないか?」
「大丈夫です。上着も、かしていただいているので……あの、思水さんこそ寒くないんですか」
俺が貸した上着をボディスーツの上に羽織り、それに顔を埋めるようにして答える橘さん。
雨に濡れたボディスーツは目のやり場に困る代物で、思わず自分の上着を貸してしまったのだ。
まあ、ぶっちゃけそのせいで寒いが、耐えられないほどではない。
俺のスキルは筋力増加なので、筋肉が増えた分、寒さには強くなっていた。
湿ってピタリと肌に張り付いた服も、筋肉の熱量で、徐々に乾きつつあるぐらいだ。
「俺は大丈夫。今日は雨が止みそうにないから、ここで夜明かしになると思う。そして雨がやんだら、残念だけど探索は中止だ。地上へ戻ろう」
夜明かしとはいったが、地上では夜というだけで、昼夜の明るさの変化があるわけではない。
──まあ、天候が変化するダンジョンがあるんだから昼夜が変化するダンジョンもあるかもしれないけどな。
「……はい。装備品の見直しですね」
「ああ、情報の少ないダンジョンだったからな。探索では無理は禁物だ」
「思水さんは、よくダンジョンで夜明かしをするんですか」
「いや、実はほとんどないんだ。だいたい日帰りでしか潜らないからな」
「──すいません、やっぱり私が足手まといですよね」
「そんなことはない。さっきだってもぐら根が植物系だというのは俺が一人でぶっ叩いていたら気がつかなっただろ?」
「そうでしょうか」
「ほら、シチュー。レトルトだけど。ネガティブになる時は、とりあえずお腹空いてるんだ」
俺は焚き火のそばで温めたレトルトのシチューを渡す。荷物の削減のために、パウチ袋のままスプーンを突っ込むというスタイルだ。
それでも、橘さんは美味しそうに食べている。
「さ、食べたら少し寝るといい。はい、寝袋。俺はぐるっと周囲のモンスターを叩いてくるから。あ、ゴズゴズは呼んでおきなよ」
「──ありがとうございます」
顔を赤らめた橘さんに、思わず俺も恥ずかしくなってしまう。とりあえず意図は伝わったようなので、少し大きめに音を立てながら俺は周囲にいるモンスターを撲殺しに向かったのだった。




