第44話 小休止
「思水さん、それで今回の討伐目標のウブメなんですが、どうやって探しましょう」
俺たちは朱坂ダンジョンに入って数時間後、上層と中層の間の階層で小休止をしていた。
朱坂ダンジョンは未踏領域が大きくて、探査スキルのない俺たちのパーティーからすると、進むのは、どうしても一進一退にならざるを得なかったのだ。
それでも数時間で上層を抜けれたので、当初の予定から大きく逸脱してはいない。
世間は三連休一日目で、一応、俺も暦通りに休める。
橘さんの方も学校は当然お休みだし、管理機構からの依頼ということで、親御さんの了解は取れましたと、満面の笑みで言っていた。
「はい、コーヒー。あと、コーヒーフレッシュ。砂糖はなしだよね」
「ありがとうございます──美味しい」
簡易コンロで沸かしたお湯で作ったインスタントコーヒーに市販のコーヒーフレッシュだ。
言って、味はまあ大したことはないのだが、遠足で食べるお弁当が美味しいようなものだろう。
「ほら、待ってる間に、甘いものも少し食べときな……」
「──うーん、わかりました。じゃあ、少しだけ……はぁ、幸せです」
とろけそうな顔で、お菓子をつまむ橘さん。とても美味しそうに食べる姿は、見ているこちらまでホッコリしてしまう。
「それは良かった。それで、ウブメだっけ」
今回、ダンジョン管理機構から依頼された徘徊型エリアボスにして、世界に三体しかいないとされる特別個体の一、ウブメ。
話では大型の鳥のモンスターらしい。
かつて朱坂ダンジョンが領域拡大を起こした際に地上へと現れ、被害をもたらした、らしい。
ただ、場所が場所だけに、ほとんど報道されることはなく、一部のアングラなネットで憶測が激しく飛び交ったのだとか。
俺は橘さんがそういうのもチェックしているのは少し意外だった。
「徘徊型だから、どこにいるかはわからないけど、基本的には魔素の濃い下層に居ると思うんだよね」
俺は手早く簡易コンロでソーセージを焼きながら答える。
「はい。確かに思水さんの足でしたら下層を縦横無尽に駆け回れますもんね」
「いやー、さすがに、そこまでではないけど。よし、出来た。はい、ホットドッグ。ケチャップとマスタードは、これ」
「良い匂い──とても美味しそうです! あの、このケチャップとマスタードはどうやって使うんですか?」
「あー、じゃあちょっとホットドッグ持ってて。かけてあげるから」
個包装になっていて二つ折りにすると中身が出るのだが、使ったことがないらしい。まあ、慣れないとこぼすかもだしなと、かわりにかけてあげる。
「いくよ、動かないようにね」
「え、あっ。はいっ」
「ほら」
「わぁ、凄い! こんなところから出るんですね! うわ、いっぱいかかってます。こんなに出るんだ」
「まあ、一個で一回分だしね。ほら、食べよ」
「──美味しい。この前、車で食べたのも美味しいと思ったんですが、これはそれ以上ですっ」
「それは良かった。ちょっとソーセージを奮発したからね」
小声で笑いなが、ホットドッグを食べていく俺たち。
初めて橘さんとともにダンジョンで過ごす小休止は、和やかに時が過ぎていくのだった。




