初心
「よしっ! とりあえずはこんなもんでいいかな」
「どうでしたか、思水さん」
橘さんがゴズゴズを影に戻し、再びベノタンを呼ぶと、ドロップした魔石をしまってもらっていた。
それを終えた橘さんに、感想を聞かれる。
俺は答える前に橘さんの手をとる。
橘さんもそれだけで隠連慕を発動して、二人の姿を見えなくしてくれる。
──素晴らしい、察しの良さだなー。
俺たちの姿が急に消えたことで、次に出てきたペンギンたちが戸惑った様子だ。
まるで本物のペンギンのように、よたよたと周囲を歩き回っている。
その場を離れて、声が届かないかなというところまできて、俺は橘さんたちの先ほどの立ち回りについて、私見をのべていく。一応、小声だ。
「ベノタンとの連携、とてもスムーズだったみたいだね。ゴズゴズも、かなり使えるな。全体的にみても、とても良かったと思う。良い召喚獣を手に入れたね、橘さん」
「本当ですか、ありがとうございます!」
召喚獣を誉められて嬉しそうな橘さん。橘さんも俺に合わせてくれて小声だ。
「ちなみに、ベノタンとゴズゴズをいっぺんに召喚しておくのは無理な感じ?」
「うーん……」
俺の質問に考え込む橘さん。
自分の中の感覚を探っているのだろう。例のダンジョン関係のなんとなくわかるというやつだ。
「絶対に無理、という感じではないんですが、戦闘ではあまりやりたくない、ぐらいの感じがします。なんというか普段ならまだしも、戦闘だと、制御が疎かになりそうな……」
「なるほどね」
制御が疎かになりそうということは、最悪、召喚獣としての橘さんからの支配が解除される可能性すらあるのだろう。
当分、その運用は見送りだと、俺は心のなかでメモしておく。
「それと、橘さん自身の立ち回りはとても良くなってたと思う。見えてなかったから推測の部分が多くなるけど、良く良く考えていて、それがちゃんと動きに反映出来ていたね」
「本当ですか、うれしいです。何だか楽しくって、暇さえあれば考えてしまっているんです。どうしたら、もっともっと効率良く倒せていけるのかなって──すいません、何か変ですよね」
「いや、そんなことはないさ。俺だって探索者に成り立ての頃はいつも、次にダンジョンに来てモンスターと遭遇したら、どう殴るかを考えてたし。……いや、よく考えたら、それは今でもだなー」
「──その初心を忘れないところが思水さんの強さの秘訣なのかもですね。ふふ、でも私たち、ちょっと、似てますね?」
「あー、まあ、確かにな──それにしても少し、モンスターが増えてきたな」
俺たちは姿を隠し、話しも小声でしていた。
それでも、その声と、あと俺たちの足音や匂いでモンスターが寄ってきてしまう。
もちろん、完全に発見されることはないのだが、避けて通るのも、すでに少しばかり面倒になってきた。
「少し、急ごっか──」
「はいっ! そうしましょう!」
俺の提案に食いぎみに賛成してくる橘さん。
俺はそれに苦笑しながら、橘さんをお姫様抱っこする。そして下層へ向けて、走り出すのだった。