第42話 召喚獣たち
「ほー。これはなかなか面白い」
俺は朱坂ダンジョンで、橘さんの新たな戦い方を見ているところだった。
正確に言えば、見学、兼、囮だ。
俺は腕組みをして、通路に突っ立っている。
そして、こちらへと向かってくるモンスターを、姿を消した橘さんが次々に屠っていく。
橘さんの姿が俺からも見えないので、それはとても不思議な光景だった。
こちらへと突進してきたり、滑空してくるモンスターたち。
朱坂ダンジョンの上層のここにでるのは、なぜか鳥系が多い。
明らかに飛びにくそうな、でっぷりとしたペンギン風のモンスターが意外なほど早く走り、羽の立派なダチョウが空を舞っている。
今も、ちょうどペンギンが二匹ほどこちらへと突進してきた。
俺の手前、あと数歩のところでくちばしをくわっと開けるペンギンたち。その奥には、鳥とは思えないギザギザの鋭い牙が生えている。
──まるで先祖がえりだなー
迫りくる牙を眺めていると、ペンギンたちが痙攣し始める。ほぼ同時だ。
橘さんが毒つきのアイスピックを、ペンギンたちの体に突き刺したのだろう。
──一体は、脇の下。もう一体は口の中か。技量、上がるのが早いな……これが若さか
橘さん自体の動きは見えなくても、その痙攣しはじめの様子と、刺された瞬間の僅かな動きの変化から、橘さんの立ち回りが想像出来る。
──毒の回りの早さまで勘案して、同時に倒れるように工夫しているところも素晴らしいな。先に片方が倒れたらもう片方のペンギンが警戒することを避けたんだろう。
そして特筆すべきはベノタンだった。
その毒自体もかなり強力なうえ、瓶から毒をアイスピックに塗り直す手間が省けたことが大きい。
さっとベノタンの前にアイスピックを差し出すとぺっと毒をつけてくれるのを実演して見せてもらったのだ。
まるで手際の良い餅つきのようなリズミカルさだった。
「オッケー、橘さん。次はゴズゴズを」
「わかりました」
煙に変わったペンギンの近く。
誰もいないところから橘さんの声がしたと思うと、次の瞬間、姿が現れる。
肩に乗せたベノタンを優しくぽんぽんとする橘さん。
「ご苦労様、ベノタン。『戻って』『おいで、ゴズゴズ』」
ぴょんっとベノタンが橘さんの肩から跳ねて足元へと移動すると影へと沈み込んでいく。
かわりにのそのそとゴズゴズが影から現れる。
ちょうどそこへ、羽の立派なダチョウが上空から襲いかかってくる。
ゴズゴズを残して姿を消す橘さん。
残されたゴズゴズは、ぼーとダチョウを眺めている。
大丈夫かな、と一瞬思ったその時だった。
ゴズゴズの、牛の体が急に膨張するように膨らむと、頭を残して体が人型へとかわる。
膨張が止まらない。
俺の体の大きさを越え、ついでダチョウよりも大きくなる。
それはまさに牛の頭の鬼だった。
襲いかかってくるダチョウへと、ゴズゴズがガッツリと組つくと、そのまま上腕に力がこもっていく。膨れ上がる、ゴズゴズの筋肉。
そしてバキッという鈍い音が響くとダチョウの体が二つに折れ、煙へと変わっていったのだった。




