第40話 二回目の
「ここが、朱坂ダンジョン──!」
「なんだか、ダンジョンまで格調高い気がするなー?」
「──そう、ですね?」
なんだか橘さんから残念な子を見る目で見られている気がする。根っからの庶民な俺のこの感覚は、育ちの良い橘さんには伝わらなかったらしい。
俺たちは討伐依頼を受けた、特別個体がいるという朱坂ダンジョンにきていた。
国の行政の中心。その近傍に位置するここはさすがの警戒の厳しさだった。
ダンジョン入場の規制も厳しく、配信者様たちの姿は皆無だ。
そこがとても良い。
「しかし、これほど快適なダンジョンがあったとはなー」
「か、快適ですか?」
緊張した面持ちの橘さん。確かにこれまで一緒に潜った奥多魔や穢之島に比べても格段に魔素が濃い。
探索者になって日の浅い橘さんだと、まだ雰囲気だけで圧倒されてしまうのかもしれない。俺は少しでも橘さんの気分を和らげようと話題を振る。
「そうだ、ベノタンは元気にしてる?」
「──え、あ、はい。元気ですよ。実はあれからベノタンのスキルが増えたみたいなんです」
そういってしゃがみこむ橘さん。
「『おいで、ベノタン』」
そういって、橘さんが足元の影をペシペシと叩く。
すると、ぬるりと影からベノタンが現れる。
何度みても可愛らしい召喚方法だった。
「『ベノタン、ぺっ』」
しゃがんだまま、今度はそうベノタンに呼び掛ける。
すると、ベノタンの体が一瞬膨らみ、次の瞬間、まるで吐き出したかのようにこの前ドロップした壺と、数個の魔石が出てくる。
「お、すごい! 置いてきたのかと思ったら──これはベノタンの収納スキル?」
「そうなんです。ダンジョン産の物しかダメみたいなのと、容量もあまりないんですが──」
「いやいや、それでもすごいよ。あれだね。橘さんの育て方が良かったんだろう」
「そんな……ありがとうございます……」
しゃがんだまま下を向いてしまう橘さん。
「あの、それで、思水さん。この壺なんですけど、色々とあれから試したんですがやっぱり反応しなくて」
もじもじとしながら上目遣いをする橘さん。なにかお願い事がある時のしぐさだ。
「なるほど?」
「それでまた、一緒に魔石を同時に入れるのをやってみてはもらえませんか?」
そういって、ベノタンがぺっした魔石を一つ差し出してくる橘さん。
たぶん、この前の赤鬼──レッドオーガのものだろう。
「別にいいよ──」
「ありがとうございます! じゃ、じゃあ。せーのって、私が言っても良いですか?」
「あ、うん……」
なんだか橘さんがとても楽しそうだ。朱坂ダンジョンに萎縮気味だった雰囲気は、すっかり無くなったようだ。
そこは良かったと思いつつ、なんだか自分がどんどん深い沼にはまっていくような不思議な幻影がちらっと脳裏をよぎる。
「ふふっ、せーのっ!」
楽しそうな橘さんの声に我にかえると、俺は慌てて橘さんとタイミングを合わせて、二人一緒に壺に魔石を投入するのだった。
 




