第38話 徘徊型エリアボス
A4一枚のコピー用紙に目を通す。
内容はいたってシンプルだ。とあるモンスターの討伐依頼。
俺は読み終わったそれを橘さんへと回すと、目の前のダンジョン管理機構のエージェント、エミリーさんに尋ねる。
「それで、どうして俺たちなのでしょう?」
「──山門思水さんは、なぜ穢之島ダンジョンが不人気か御存知ですか?」
質問に質問で返されてしまう。まあ、いいかと俺はそれに答える。
「堅い敵ばかりで、配信が地味になるから?」
俺は穢之島ダンジョンで戦った、ゴーレムエイや、グレーワーム、赤鬼などを思いだしながら告げる。どれも堅くて、それなりの殴り応えがあって素晴らしかった。
「それもありますね。しかし最大の原因は下層以降に現れる、徘徊型エリアボス──ヤマタノツカイです」
どこかで聞いた名前だ。
「ああ、あのカメさん。徘徊型のボスだったんだ」
「え、思水さん、ヤマタノツカイと遭遇されたんですかっ」
橘さんが驚いた声をあげる。あのカメさん、橘さんですら知っている有名なモンスターだったようだ。
「え……戦ったよ?」
「た、倒されたんですか?」
「倒したけど──」
ポカンとした顔をする橘さん。
「やはり。情報は間違っていなかったみたいですね。ヤマタノツカイは徘徊型エリアボスのなかでも、世界に三体しかいないとされる特別個体なんです」
エミリーさんは満面の笑みを浮かべている。
「特別個体……聞いたことないな。というか、情報の出所って、もしかしてカトリーナお嬢様?」
俺はカメさんを倒したその場にいた彼女から情報が流れたのかと推測する。
「そうです。レッドオーガの腰布の開封の儀の件でバズった彼女の発言や過去の書き込みを精査しまして。すると色々と面白いことが、ポロポロと」
「あー」
心当たりが、ありすぎた。
ダンジョンの入出場記録を持っている管理機構なら、諸々の情報を統合して、配信をしていない探索者の俺にたどり着くのは容易いのだろう。
「あの、エミリーさん。それで特別個体というのはなんなのですか」
橘さんが尋ねる。
「世界でそれ一体しかいない徘徊型のエリアボスかつ、倒すと必ずアイテムドロップをする個体のことを、我々は内々にそう呼んでいます」
そこでエミリーさんがこちらを向く。
「山門思水さん、ヤマタノツカイを倒された時に天之邑雲を手に入れていませんか?」
「あまの、むらくも? とりあえずドロップアイテムはあった。ちょうど持ってますよ」
そういって、俺はポケットから小さくなっている錆丸を取り出すのだった。




