第36話 召喚状
「ふぉー、まだ眠いが……時間がもったいないし、出発するかな」
橘さんと穢之島へ行った一週間後の休日。
今日はフリーだったので一人奥多魔ダンジョンへといく予定だった。
封鎖解除されて、拡張されたダンジョン領域には行ったのだが、いつもの下層にはまだ足を運んでもいなかったのだ。
様子見がてら、仕事のストレス発散をするかと今朝はちょっと早起きしていた。
「なんか、あれだよな。いつもよりストレスがたまってないような気も、そこはかとする。何でだろうな──」
たぶん、橘さんとのダンジョン探索がそれだけ楽しかったのだろう。一人の気楽さよりも誰かと探索するダンジョンが楽しいんだなと、自分の感情に驚きを覚える。
そうして、玄関を出ようとしたところで、俺はそれに気がつく。
郵便受けに封筒が入っていた。
「ダンジョン管理機構からだ。しかも、俺と橘さん宛の連名……開けてみるか」
それはダンジョン管理機構からの召喚状だった。
◆◇
「ごめんね、橘さん。今日はお休みのはずなのに付き合わせてしまって。忙しかったんじゃない」
「そんなことありませんよ。思水さんからお電話頂いて嬉しかったです。最高の目覚めでした」
どうやら寝ていたところに電話をかけてしまったらしい。
そういえば、いつもより電話越しの橘さんの声がふにゃふにゃしていたような気がする。
俺たちはいま、ダンジョン管理機構の支部の建物の前で待ち合わせして落ち合ったところだった。
俺はスーツで、現れた橘さんは制服だった。
──そうだよな。橘さんの年齢でちゃんとした格好だと高校の制服になるよな。
「制服だと、変でした?」
ちょっと橘さんのことを見すぎていたらしい。腕を広げて軽く腰を捻りながら橘さんにきかれてしまう。
「いや、全然っ。可愛いよ──って、いや、ちがう、そういう訳じゃなくて……」
俺も慌てて答えたせいか、あらぬことを口走ってしまった。
「良かった。あの、そろそろ入りましょう? 思水さん」
「──はい」
顔を赤らめて橘さんが促してくる。どうやら俺の失言で、機嫌を損ねることはなかったみたいだった。
俺はほっとしながら橘さんに続いてダンジョン管理機構の支部へと足を踏み入れるのだった。




