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第32話 赤鬼

 ベノタンという新たな仲間が増えた俺たちは、ダンジョンから出ようと移動していた。


 当初予定していたよりも時間が経っていた。俺がグレーワームの撲殺に夢中になりすぎてしまっていたのが、大きな要因だ。


 反省。


 橘さんは、親御さんの承諾はあるから少しぐらいなら遅くなっても大丈夫ですよといってくれたが、そういう訳にはいかないだろう。

 俺が会わせる顔がなくなる。


 そんな訳で急ぎでの戻りとなっていた。


 つまりまた、お姫様抱っこだ。


 ぎゅっと片手で俺の首に抱きつき、反対の手でドロップアイテムの壺を抱えた状態の橘さん。ドロップアイテムの壺があるせいで、色々と当たってしまっているのを、俺は意識しないように努めながら周囲の警戒に集中しようと試みていた。


 そのおかげか、俺は早めにそれに気がつくことが出来た。


「ごめん、とまる」

「はい」


 小声で橘さんへと予告して急制動をかける。

 止まったのは、ダンジョンの通路の角。そこから先を覗くとモンスターがいた。赤鬼っぽい見た目だ。


 それは特に問題ない。しょせん中層のモンスターなので、やり過ごすのも倒すのも大丈夫なぐらいの強さだろう。

 問題は、その赤鬼が配信者様らしき女性を肩に担いでいたのだ。


 ボサボサになった髪で顔は見えないので、意識の有無は不明だ。ただ、全身にベットリ粘液のようなものがついているので、もしかしたらさっきグレーワームの巣に入り込んだ配信者様かもしれない。


「人を、担いでいますね。そういう行動をするモンスターなんでしょうか?」

「ある程度知能のあるモンスターもいるからね。特に人型は」


 ああやって拐うタイプのモンスターの目的は俺の知る限り、だいたい三通りだ。安全地帯まで移動してから、補食するか犯すか何かの儀式をするか、だ。


 どれもあまり橘さんの耳に入れたい情報ではない。


「この場合はどうされますか」


一瞬、悩む。ダンジョン法では探索者の意識がなければ横殴りにはならないのだが、俺たちは配信をしていないので後からそれを証明出来ないのだ。

とは言え、ばれなければ問題ないとも言える。


逆にこのままスルーして、橘さんが後日あの女性配信者がどうなった可能性があるのか知るほうが俺には嫌だった。


「撮影ドローンは見えないし、たぶん意識は無さそうだからな……とりあえず赤鬼だけは倒して見るか。ごめん、姿を消すのだけお願いできる?」

「もう、消してますよ」

「さすが。ありがと。じゃあ、しっかり掴まってて」

「はいっ」


 橘さんの体がそれまで以上に密着してくる。顔を俺の肩に埋めるような感じになる。


 俺は左手一本でそんな橘さんを抱えると、足音を殺して駆け出す。


 こちらには気づいていない様子の赤鬼。

 もう、目の前だ。


 ──配信者様の女性も意識はなさそうだな。あれ、どこかで見たような……


 見覚えがあるなと思いながらも、赤鬼へと拳を振るう。

 赤鬼の背中から腹へと貫通していく俺の拳。そのまま赤鬼は煙へと変わる。


 次の瞬間、赤鬼に担がれていた女性が、べちゃっという音を立てて地面に落ちる。

 その落下の衝撃でころんと半回転して、仰向けになる女性配信者。やはり意識はなさそうで、そこは安心する。


 顔があらわになる。


 縦ロールらしき髪型がボサボサに崩れ、完全にライオンっぽくなってる。そして粘液にまみれてなければ、ぎり美女に見えなくもない顔。

 それは俺がカメさんと戦ってきている時に割り込んできた配信者だった。


「あ、トリ、なんとかさん……」

「──あら、思水さん、そちらの女性はお知り合いですか?」


 俺の肩に顔を埋めていた橘さんが、顔をあげ俺の耳元でとても優しげな声でそう囁いてきたのだった。


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