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第31話 スライム

 スライムは、多種多様な種類がいるのだが、どれも決して弱いモンスターではなかった。


 そもそもが、物理攻撃が効きにくいのだ。その上、それぞれ特殊なスキルを持っている。


 ──とはいえ、俺にしてみれば、完全に飛び散る速さで殴りつけるだけ、なんだけどね。


 俺が現れたスライムを見ながら右手の拳を握りしめていると、橘さんが慌てたように左手で俺の拳に触れてくる。


「ま、まって下さい、思水さん! あの子、敵じゃない、みたいなんです」

「──ほう?」

「あの、何でかは、良くわからないんですが──」


 言葉が見つからない様子の橘さん。

 ダンジョン関係では、そういうことは良くあることだった。理屈じゃなく、本能的になんとなくわかるようなことが多いのだ。


「あの壺で作ったスライム、橘さんがテイムしている感じ?」

「テイム──テイムなんでしょうか? ただ、なんとなく気持ちが伝わる感じがして……」


 当のスライムは、壺の前でぴょん、ぴょんと定期的に跳ねていた。

 まるで生まれたことを喜んでいるかのような動きだ。


「──いい、でしょうか?」

「どうぞ?」

「はいっ。おいで、きみ」


 橘さんがしゃがんで左手をスライムへと伸ばす。

 その場で跳ねていたスライムが、ぴょんぴょんと近づいてくると、ぴょんと橘さんの手のひらに乗る。


「ひんやりしてます。大人しいのね、きみ」


 立ち上がりながらスライムへた話しかける橘さん。


「──思水さん、たぶん、この子、召喚モンスターっぽいです」

「ほー。そんな気がするの?」

「そんな気がします、ふふ」


 ころころと楽しそうな橘さん。

 その左手ではスライムが大人しくしている。


「名前、どうしましょう?」

「名前か。ちなみにそれは何スライムなんだ?」

「うーん……」


 目を閉じて、額にしわを寄せている橘さん。

 悩んでいるようにも、まるで何か感じ取れないか頭の中を一生懸命探っているようにも見える。


「たぶんですけど、ベノムスライム、です」

「聞いたことないけど、なかなか物騒な名前だ」

「私も、ふっと頭の中に浮かんだだけでして……でも、その名の通り、毒の生成ができそうな気がします」

「それは役立ちそうだ。で、その子の名前だっけ──うーん──ベノタン、とか?」


 俺の何てことはない発言に、キョトンとした顔をしたあとに、ころころと笑い始める橘さん。


「あー。そんなに変だったか?」

「いえ、──ベノタン、可愛いと、思います、よ」


 笑いすぎで、苦しそうな橘さん。

 そこまで笑うようなネーミングだっただろうか。どこか腑に落ちない。


「──ベノタン、これからよろしくね。ふふ……」


 ようやく笑い終えた橘さんが手のひらの上のベノタンに話しかける。

 ぴょん、ぴょんと返事をするかのように小さく跳ねるベノタン。


 名前を呼んでまた、笑い出してしまった橘さんが、そんなベノタンをいとおしそうに眺めている。


 すると、ベノタンが手のひらから跳ねて、橘さんの足元への影へと移動する。


「あ、ベノタン、ちょっとお休みしたいみたいですね。どうぞ、少し休憩してくださいな」


 そうベノタンに告げる橘さん。そしてそのまま橘さんの影に沈み込むようにして、ベノタンは姿を消したのだった。


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