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第3話 よわよわ配信者

「ふぁー。さて、これで月曜日からも頑張れるかな」


 俺はダンジョンを出たところで呟く。


 ダンジョン下層から急いで出てきたので、時刻的にはまだ夕方だった。このあとは、軽く食事をして、車で二時間かけて自宅に帰るだけ。


 歩きながら俺は軽く、拳の具合をチェックする。大丈夫。痛めてはいないようだ。


 残念なことに帰り道では棒状の鈍器をどのモンスターもドロップしなかった。急いでいたこともあり、ドロップはあきらめて、帰り道を塞ぐモンスターは単純に殴り殺してきたのだ。


「殴り方が良くないのかなー。手首を痛めるほどじゃないけど、なんとなく力の伝え方に違和感があるんだよな」


 軽くシャドーボクシングのように拳を振るってみる。

 しゅっしゅっと拳が空気を切り裂く音はするが、いまいちキレが足りない。


 その時だった。

 上空から何かが急速に近づいてくる気配がする。

 俺はさっと頭を後ろに引くと、伸ばしかけていた拳を少し軌道修正して、その何かに合わせる。


 ほぼ、無意識だった。

 ダンジョン内で上空から襲われた時のいつもの動きなので。


 拳がそれを捉えて、勢いよく爆散する。

 飛び散った肉片らしきものや体液はすぐさま煙のようになって消えていく。


 そしてコロンと足元に何かが落ちる。


「ナイフ? ドロップアイテムか……って。え、ここダンジョンの外だよな?」


 俺は周囲を見回すが、外なのは間違いない。

 爪先にナイフを引っ掻けて、上方向に蹴りあげる。

 くるくると回るナイフを、ぱしっと、柄の部分を握るようにして止める。


「ドロップアイテム、だな。見たことのない種類のナイフだな……質は良さそうだけどなー」


 俺は鈍器専門なので、この手の刃物系の武器は基本使わないのだ。

 あまり楽しくないので。


 とはいえ、明らかにさっき上空から襲ってきたのはモンスターだろう。

 このドロップアイテムは、異常事態の証拠になるかもと、とりあえず持っていくことにする。


 俺がどこにしまうかなーと悩んでいる時だった。風にのって、人の悲鳴のようなものが微かに聞こえてくる。


「まさか……」


 俺は、気がつけば走り出していた。

 空から襲ってきた、ダンジョンの外にはいないはずのモンスター。

 そして聞こえてきた、人の悲鳴。


 何らかの理由でモンスターに誰かが襲われていると推測するには十分だった。


 道路沿いに駆けるとすぐさま、悲鳴のもとらしき現場に到着する。


 横転した車。

 地面に横たわる男女三名。


 そして男一人と少女一人がまだ立っている。


 地面に横たわる三人と立っている男一人には見覚えがあった。


 ダンジョンに潜るときに俺の陰口を叩いていた配信者パーティーだ。

 その男が、見知らぬ少女を突き飛ばす。そして反対側に駆け出す男。


 少女の突き飛ばされた先には、モンスターがいた。巨大な虎のような姿だ。車を横転させたのはその虎モンスターだろうか。


 ──あいつ、女の子を囮に、したのかっ!


 俺からは、まだ距離がある。


 ──走っていては間に合わないぞっ!


 そこからは、同時に色々なことが起きた。


 口を開け、少女を待ち受ける虎のモンスター。

 そして、逃げ出した男の方には別の鳥型のモンスターが空から急速に近づいて来ているのも、俺のところからは見えていた。


 俺は少女と逃げた男と、モンスターたちの距離をはかる。


 ──あの、男の配信者、言ってもダンジョン探索者だろ。あの鳥モンスター程度の雑魚なら、自分でなんとかできるはずっ!


 俺は、手に持ったままの一本しかないドロップアイテムのナイフを、渾身の力で投擲する。もちろん、狙いは少女を襲おうとしている虎モンスターだ。


 俺の投擲したナイフが運良く虎モンスターへと突き刺さる。ズブズブとナイフは虎モンスターの体内深くまで潜り込み、怯んだように虎モンスターが身を引く。


 ──いまだっ!


 虎モンスターと少女の間のスペースに潜り込むように滑り込むと、俺は力一杯、虎モンスターの顔を殴りつける。


 くるんと首が回転して、そのまま虎モンスターが煙へと変わる。


 よろけながらも、こちらを驚きの表情で見ている少女。


 そして、逃げたした男に、上空から襲いかかる、鳥型モンスター。ナイフをドロップした、さっき空から俺を襲ってのと、同種っぽいやつだ。

 

「あ──」


 男の驚きの声。まさか、鳥型モンスターの接近に気づいていなかった様子。


「……えぇー」


 俺も、思わず驚いて声をもらしてしまう。


 鳥モンスターの嘴が逃げた配信者の男へと振るわれ、男の体が真っ二つになったのだ。あれは、死亡確定だろう。


 ──ま、まじか……弱すぎないか? 探索者だったんだよな?


 俺が男のあまりの弱さに驚いていると、鳥型モンスターは、次の獲物とばかりに少女を狙おうと羽ばたく。


 しかしそれは当然、無理な相談だった。その時には俺がすでに少女と鳥型モンスターの間に駆けつけていたから。


 少女を庇いながら、軽く腰を捻り、俺は右フックをその鳥系モンスターに叩き込む。

 鈍い手応えと共に、鳥系モンスターも煙へと変わる。

 コロンと、今度は魔石がドロップする。


 その俺たちの周囲には、死んだ配信者様のドローンが数機、元気に飛び回っていたのだった。





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