第29話 レア
「やりました!」
「モンスター初討伐おめでとう、橘さん」
「これも全て思水さんのおかげです」
「いやいや、橘さんが自身のユニークスキルについてしっかり把握して、ちゃんと準備したからだよ」
俺たちが橘さんの探索者としての初討伐を祝っているときだった。
「あ、ドロップアイテムですよ、思水さん!」
「お、ウォーハンマー……じゃないな。なんだこれ。壺?」
「もしかして……」
「何か知ってるの?」
探索者としては先輩な俺だが、しっかり事前にダンジョンについて下調べしている橘さんの方が詳しいことも当然ある。
なので、素直に質問してみる。
「もしかして、レアドロップかもしれません」
「レアドロップ? そんなものあるんだ」
「ネットの噂に過ぎないんですが、とある条件を満たした時にだけ、低確率でドロップする事もあるとか。ただ、基本的には一度きりらしいです」
「一度きりって、もしかしてそのダンジョンで?」
「噂だと、全部のダンジョンあわせて、らしいとか」
「そんなレアなんだ、これ。はい」
俺は壺を手に取ると橘さんに手渡す。
「え?」
「橘さんが討伐したモンスターのドロップアイテムだからね」
「いえ、それこそ、ほとんど思水さんの手助けの……」
「なにより、初討伐記念だし。橘さんが持ってて」
「わかりました。記念、ですもんね。大切にします」
俺はその台詞に少しあれ、と思いながらも、興味は壺の性能に移っていた。
「しかし、壺かー。もしレアドロップなら、何か効果がありそうだけどね」
「そのネットの噂だと、ドロップ条件が反映された品が出てくるとか」
「ふーん。じゃあ、珍しい倒しかたをしたとして、その倒し方自体が影響するかもってことね。だとすると、初討伐で毒で倒すとかかな」
なんだかちょっと考察していくのが楽しい。謎解きみたいだ。
「あとはこれですね。壺の横の模様ですが」
「模様、あるね。これは何かのモンスター? 二体いるっぽいね」
俺は壺に指差しながら告げる。
「これがモンスターだとすると、ここの丸は魔石でしょうか」
俺のすぐ横で、同じ様に橘さんが模様を覗き込んでいる。
確かにそれは橘さんが言うように魔石っぽかった。
「もしかして魔石を二つ入れるのかな」
「あ、思水さんもそう思いますよね。私もそんな気が──」
俺と橘さんは至近距離で向かい合うと、どちらともなく笑ってしまう。推測がぴったりあったのがなんだか可笑しかったのだ。
その時だった。
突然、遠くから悲鳴が聞こえる。女性のものっぽい。なんだか聞き覚えがある声の気がする。
「え、これって」
「──多分、配信者がグレーワームの巣に入り込んだんじゃないかな」
「助けには、いかれるんですか」
「いや、基本的には探索者は自己責任だ。それにここは、中層だ。配信者様とは言え初心者ではないはず。であれば自分の実力を把握して探索するのが、いくら配信者様とは言え、探索者の最低限の条件だろう」
俺は橘さんに冷たいと思われようが、こればかりはしっかり伝えようと言葉を重ねる。
そもそもが横殴りはダンジョン法の中でも厳禁とされているのだ。それは、救援のためであろうが横殴り自体が後々、トラブルになりやすい事案だというのが、大きな要因だった。
「わかりました」
俺の言うことを素直に聞いてくれる橘さん。それどころかさっきよりさらに機嫌が良くなっているようにすら感じられる。
「それで、その。壺なんですが」
「ああ、そうだな。魔石を二つ、入れてみるか」
「いいんですか! 試してみたいです」
俺たちは遠くで聞こえた悲鳴はおいて、壺の検証を続けるのだった。




