第28話 初討伐
「殴り放題なのはいいけど、ドロップしたのは今のところ魔石だけかー」
「そうですね。中層だからでしょうか」
「そうかも。それにしてもグレーワームばかりだ」
「もしかすると穢之島ダンジョンの七層のここら辺は、グレーワームの巣になってしまっているのかもですね」
俺は橘さんの話を聞きながら、近くのグレーワームを撲殺する。
「──はぁっ! あー、なるほど。というかここ、七層なんだね。橘さん、しっかり数えていてくれてたんだ。ありがと」
出たのはまた、魔石だ。
「いえ、そんなっ」
単一種のモンスターだけで構成された領域を巣という。橘さんに言われるまで、俺はすっかりその存在を忘れていた。
言われてみれば奥多魔ダンジョンでも、時たま同じモンスターばかりが出るときがあった気がする。今思えば、あれは巣に踏み込んでいたのだろう。
それにしても俺は橘さんが事前にダンジョンについてしっかりと調べていることに感心する。
さらに、俺が抱いて運んでいたのに、階層のカウントまでしていてくれたらしい。
──結構な速度で降りてきたんだけど。本当に、しっかりしてるよな、橘さん。
「橘さん。ユニークスキルで匂いを消すの、ずっと発動しているけど、大丈夫そう?」
「お気遣いありがとうございます。まだまだ大丈夫ですよ。思水さんが、出てくるグレーワームをすぐに倒していらっしゃるので、そこまで時間もかかってないですし」
「そうか。あー、じゃあ、十分魔石も貯まってきたし。そろそろ橘さんも攻撃してみる?」
気がつけば俺ばかりがモンスターを撲殺してしまっていた。
おかげで俺は気分爽快、ストレスもすっきり解消されてきた。しかしその間、橘さんはスキルは発動しているとはいえ、ただ見ているだけになってしまっていた。
今さらだが、申し訳ない気持ちが沸き上がってきたのだ。
「わかりました!」
橘さんの気合いの入った返事。
やっぱり橘さんもモンスターを倒したかったようだ。待たせてしまったことにいっそう罪悪感がわいてくる。
そんな俺の罪悪感に気づいた様子もなく、新しく揃えた武器を開陳する橘さん。
それは大小さまざまなサイズのアイスピック型のナイフだった。
腰に巻き付けるタイプのホルダーから、そのうちの一本を引き抜くと、肩から腰にかけて巻いている別のベルトホルダーへと、アイスピックの先を向ける橘さん。そちらには毒入りの瓶。
「とりあえず、三番を試してみます」
「オッケー。まあ、気楽にね」
「わかりました!」
橘さんは、アイスピックの先に毒を浸すと、グレーワームに近づいていく。
管理機構で販売されている、毒だ。それを複数準備していて、三番というのは仮の呼称で、虫系モンスター向けの毒だ。
「たしか、グレーワームはここを──あれ……あれ?」
ヌメヌメした体表面に、うまく刺さらないようだ。
「ほら、一緒に──」
「あ。──ありがとうございます」
俺は右手を、アイスピックを持つ橘さんの左手に添える。はからずも両手を繋いだような姿勢だ。
すぐそばに、橘さんの顔がある。とは言え、お姫様抱っこほどの密着度はないから今さらといえば今さらなのだが、これはこれで恥ずかしいものがあった。
俺はアイスピックの先とグレーワームだけに視点を固定しながら告げる。
「いい?」
「──はい」
優しく、そしてゆっくりと力を込めていく。ズブズブと沈み込んでいく感覚。
「ほら、入った。ね、大丈夫でしょ?」
「はい」
そのまま、先端を肉に沈めた状態でゆっくりと待つ。ピクピクとした動きがだんだん激しい痙攣へとかわっていく。
「あ、は、激しい──激しいです、思水さん」
「落ち着いて、落ち着いて。あと少し。ね。ほら、大丈夫だから」
グレーワームの動きにアイスピックを持っていかれそうになる橘さんを、俺はしっかりと支える。
そうしているうちに、グレーワームは煙へと変わったのだった。




