第25話 side 橘いちか2
「なんだか、こうして歩いているとデートみたいですよね」
「デっ、えっ!」
「ふふ、冗談ですよ、思水さん」
私たちは奥多魔ダンジョンで私のユニークスキル隠連慕の検証をした日から二週間後の休日に、穢之島に来ていた。観光客に混じって、二人して参道を登っていく。
ダンジョン探索を一緒に行くのは、互いのお仕事と学業を優先するということで、基本的に二週間に一度の休日にすることになったのだ。
そう、私は無事に思水さんとパーティーを組むことが出来たのだ。
今、その時のことを思い出しても顔が緩んでしまいそうになる。
最後の検証では、隠連慕の効果は機械式の撮影、録画には効果が無いことが判明した。
それを重々しい口調で思水さんから告げられたときは、もうだめかと覚悟をした。
けれど、結局、思水さんは仮でよかったらパーティーを組もうと言ってくれたのだ。あのときの天にも上りそうな喜びは、いつまでも忘れない気がする。
「あの、橘さん、この後のこと、本当にいいの?」
「はい、重たくて申し訳ないのですが、私も思水さんの案が最善だと思います」
「だけど──」
「もう、そんなに女の子に、重い重いと言わせないでくださいよっ」
私は口調だけ冗談めかして告げる。でないと真面目な顔を維持できなそうなのだ。
撮影ドローンに映らずに、人知れずダンジョンへと入る方法として、私たち二人が至った結論。
それは思水さんが私をお姫様抱っこするというものだった。
その間、私は思水さんの首筋に手を添えてユニークスキル、隠連慕を発動する。
思水さんは、フィジカルの力だけで、撮影ドローンの画角を把握し、全て回避しながら移動できるらしい。
そんなことは、常人では絶対に無理だ。でもこれまでの戦闘を間近で見た私には、思水さんなら多分、出来るんだろうなとすぐに納得できた。
何より、思水さん自身が、それを何とも無い普通のことのように告げるのだ。
唯一の問題が、その思水さんの動きに私では到底ついていけないという点。
その解決策が、お姫様抱っこだった。
私は思水さんのたくましい首筋を見ながら、もう少しで抱っこされてあれに触れているんだと、そっと自分の手を撫でるのだった。




