第19話 検証
「あの、すいません。車でお迎えまで来ていただいて……」
車の隣の席に座って、恐縮した様子を見せる橘さん。
一緒に一度ダンジョン探索をする約束をしてから数週間後、俺たちはついにダンジョンに一緒に潜ることになった。
「いや、全然」
ここまで時間が空いてしまったのは、橘さんの装備を整えたりなど、色々要因があるのだが、一番は奥多魔ダンジョンの封鎖が解かれるのを待ったからだった。
ダンジョン領域が拡大して固定された奥多魔ダンジョンだったが、その後はさらなる変化が起きることはなかったらしい。
そのお陰で管理機構による調査も終了となり、封鎖もようやく解けたのだ。
──やっぱり一番慣れているところが良いよな。知らないところだと何かイレギュラーが起きるかも知れないし。……穢ノ島ダンジョンはトリ何とかさんがいると、やだし。
隣の席に座る橘さんの様子をちらりと確認する。彼女にとってはこれから向かうのは友人を亡くした場所だ。
緊張したり、気負っていたりするかと危惧したのだ。
だが、ロングコートに身を包み、大人しく座っている橘さんの姿からして、肩に変な力が入っていることもなく、自然体で逆にリラックスしているようにすら見える。
──けっこう胆力もあるのかな。探索者向きだわ……
こっそり感嘆していると、ダンジョン領域の近くまでくる。
残念ながらいつもの駐車場はダンジョンの中となってしまったが、仮設の駐車場があるのでそこに停める。とはいっても単なる空き地だが。
「つきましたよ」
「はい。運転、ありがとうございます」
微笑みながら告げる橘さん。
「貴重品と持ち込むもの以外は車に置かせて頂いてよろしいですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます」
そう言うと、橘さんは車から降りて、まとっていたロングコートを脱ぐ。
コートの下は暗色系の迷彩柄のボディスーツだった。
俺は何となく恥ずかしくなって、橘さんから視線をそらしてしまう。
事前に相談は受けていたので、ある程度は予想していたが実際にみるのは初めてだった。
橘さんのユニークスキルの性質上、音を消すか姿を消すのがメインの使い方になるので、その邪魔にならない服と言うことでの装いだった。
とても柔らかな生地で出来ているらしいボディスーツは動いても、衣擦れの音がほぼでないそうだ。そして、真っ黒より、黒めの迷彩色の方が岩や、森が背景だと見えにくいらしい。
「あの、早速試してみますね」
「ああ」
橘さんの声に、外していた視線を戻す。これからダンジョン領域の縁でユニークスキルの検証をするのだ。
俺も、橘さんの方を見ないわけにはいかない。
そうして改めて橘さんに視線を向けると、視線が合う。橘さんの方も少し、顔を赤らめているようだった。




