第14話 ドロップアイテム
煙となって消えていくカメさん。
それをなした最高の一撃の最高の感触を、俺は反芻するように堪能していた。
しかし最高の一撃には、やはりそれなりの代償があった。
エイ棒が、弾け飛んだのだ。粉々になった欠片がパラパラと散っていく。
──相棒、お前のことは忘れないからな……さてさて、何かドロップするかなー
俺が何か鈍器がでないか、と思っていると、がらんと音を立てて煙となって消えたカメさんのいた場所に何かが落ちる。
──おっ……え……うーん? 鈍器、かも?
ドロップアイテムだ。
さっそく拾い上げる。それは錆びに覆われた金属の塊だった。一応、棒状っぽい。長さは俺の身長の七割ほど。
握れそうな部分もあるし、振り回せなくはなさそうだ。
──この、女性配信者様があれだけ怯えた様子で、ナントカナントカって名前を言っていたから、それなりに名のあるモンスターだろうし、悪いものでは無さそうだけど……
握っていた手を見ても、特に錆はついてない。俺は一応鈍器として使えるかとそれを持ってくことにする。
そういえば、さっきから女性配信者様が何かと俺に向かって話しかけてきていた。地面に座り込んだまま、顔を上気させているようだ。
もちろん、俺は返事をしない。
相手は配信者様だ。どこにマイクを仕込んでいるかわからないのだ。
声紋というのも、身ばれに繋がる可能性が否めない。
そんな時だった。
遠くからローター音。あの音は撮影ドローンだろう。
それは目の前の配信者様の足の速さ、そして最近のドローンの性能の高さの証しなのだろう。
──あんだけ速く走れるなら、放っておいても自分で帰れるだろう。撮影ドローンの撮影範囲に入る前に、さっさと逃げようっと。
俺は軽く迂回するルートを取るように走り出す。
この時、俺はまだ知らなかったのだ。
俺の足元で必死に何かと話しかけてくる女性配信者様が、ユニークスキルの影響で地力が強化されていて、あんなに速く走れていたことを。
そしてそれには俺の匂いが必要なことも。
さっさと俺がダンジョンから出たことで、目の前の女性配信者様こと、カトリーナお嬢様はこの後、何度も死にかけながら、命からがらダンジョンを脱出することになるのだった。