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第11話 side カトリーナお嬢様(田中幸子26歳)

「ちょっとごめん遊ばせ、貴方、もしかしていま話題のキャンセル撲殺おじさんではありませんこと?」


 目の前の変なお面をつけて、足早に進んでくる男性へ、一人の女性配信者が声をかける。


 彼女は配信用のキャラ名、カトリーナお嬢様こと、田中幸子26歳。そして幸子は、声をかけながら自分の間の良さに有頂天になっていた。


 幸子は、いつものようにダンジョンでライブ配信を行っていたのだが、視聴の少なさから、集中が途切れぎみだったのだ。

 しかし、今回はそれがたまたま良かった。


 配信しながら、周囲がざわついたなと思い、いち早く原因を探してみる幸子。するとなんと、いまネットで話題になりかけているキャンセル撲殺おじさんらしき人物がいたのだ。


 幸子は一目で、彼が噂のキャンセル撲殺おじさんだとわかった。

 というのも、幸子は、蒼炎チャンネルの例の動画をそれこそ、何度も何度も目が充血するほど、視聴していたのだ。

 少しでも、バズるネタはないかと探して。


 幸子は最近ずっと、焦っていた。


 ダンジョン配信者活動を、ほぼ黎明期の頃から始めていた幸子は、もうこの界隈ではベテランといっても良かった。


 湘南の外れの山の近くの自宅から、最寄りのここ穢ノ島ダンジョンに通い、長年活動を続けるも、幸子のチャンネルは全くといっていいほど、芽が出ていなかったのだ。幸子も顔の造り自体は悪くない。どちらかと言えば整っている。しかし、配信のセンスが壊滅的だった。

 そして周囲では自分より若くセンスのある配信者が次々現れ、どんどんと人気になっていく。


 幸子が焦るのも、仕方ない状況だろう。


 加えて、幸子はユニークスキルに恵まれたにも関わらず、それを上手く使いこなせていないのも、芽が出ない大きな要因だった。


 幸子のユニークスキル、マイスイートダーリン(絶対嗅覚記憶)。誰か一人の匂いを完璧に記憶し、ある程度の精度で追跡できるようになるというユニークスキルだ。


 これまでは、地味ゆえに、特に配信では使い道のないユニークスキルだった。


 しかしこの時、幸子に転機が訪れる。


「あんなに初対面のわたくしにお顔を近づけなさるなんて、なんてふしだらな、と、の、が、た……」


 自分の顔面すれすれでジャンプして飛び越えていった、キャンセル撲殺おじさんを見送り呟く、幸子。文句を言う素振りながらも、幸子の顔はどこか緩み、目には喜びの色があった。


 それは実は、キャンセル撲殺おじさんの匂いを、体が接近した際に幸子が本能的にユニークスキル、マイスイートダーリン(絶対嗅覚記憶)で記憶していたからだった。


 そして、幸子がキャンセル撲殺おじさん──山門思水の匂いを記憶したことで、ユニークスキルに進化が訪れようとしていた。


 強者たる思水の匂い分子が、幸子の嗅粘膜に付着し、幸子のユニークスキルが宿る嗅覚受容体へと取り込まれていく。


 匂い分子と幸子の嗅覚受容体が激しい結合を迎えた末に、劇的な変化が起きる。そして、ユニークスキル自体も、変化を遂げたのだ。


 マイスイートダーリン(絶対嗅覚記憶)の新たなる効果。それは、強い人物の匂いを記憶し、その匂い分子を受容している間、幸子自身の地力が強化されるというものだった。


 本能でその変化を悟る、幸子。


「体が火照りますわね……これはもしや、おバズりの予感っ! なるほど、キャンセル撲殺おじさんを追えということですのね」


 撮影ドローンに向かって、大袈裟に告げる幸子。


「──待っていなさい! わたくしカトリーナお嬢様から逃れられる殿方は、いませんことよ!」


 そうして偽縦ロールを振り乱し、スカートを捲って走り出すカトリーナお嬢様こと、田中幸子26歳。

 その走りはユニークスキルの新たなる効果によって、常人外れの爆走となっていた。




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