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姉に体を奪われて破滅ルート確定ですが、培った知識で状況を逆転させてみせます!

作者: 万野みずき


 屋敷のリビングの方から、姉のすすり泣く声が聞こえてくる。

 そんな姉を慰める両親の声も響いてきて、私は扉一枚を隔てた廊下でその会話に耳をすませていた。


「どうして私がこのようなことで死罪に……! お父様、お母様、どうにかしてくださいませ!」


「あ、慌てるなスワン。まだフォッグ侯爵殿が死罪を求めているだけだ。ロビン氏本人は裁判沙汰にするつもりはないのだろう?」


「示談金次第でフォッグ侯爵殿もきっと考えを変えてくださるわ。お母さんたちはあなたの味方よ、スワン」


 どうやら、姉がやらかしたらしい。

 先日開かれた舞踏会にて、以前から気になっていた殿方が別の令嬢と仲睦まじくしていたそう。

 その様子を見た姉は憤り、くだんの令嬢様に無礼にも足を引っかけたとか。

 結果、その令嬢……フォッグ侯爵家の一人娘であるロビン氏は、盛大にすっ転んで顔に怪我を負ってしまったようだ。

 当時、足元に他の参加者が落としたと思しき、鋭利な形をしたイヤリングがあって、それが顔に深い傷を残すことに結びついてしまったらしい。

 なんとも不運な事故である。いや、これは完全に姉が悪いだけだけど。


「私はなんて不幸な人間なの……! 神は私の味方をしてはくれなかったのね」


 そもそもあんたが足引っかけなきゃよかったのでは?

 すぐにでもリビングに飛び込んでそんな当たり前のツッコミをかましてやりたい。

 話に聞けば、相手に怪我をさせた後の姉の態度も悪かったらしいので、完全に自業自得だ。

 それに相手のこともよく知らずに怪我をさせておいて、不幸だなんだと嘆くなんて浅はかにも程がある。


 姉が足を引っかけた相手は、ガーディニア王国でも指折りの美貌を持つと噂されているロビン侯爵令嬢だ。

 そして父親は強い権力を持ちながら、一人娘を溺愛しまくっているフォッグ侯爵家当主のドレイク様。

 娘の溺愛ぶりは広く知れ渡っており、その愛娘の美貌に取り返しのつかない傷を付けたとなれば向こうの激怒も納得である。

 一応、被害者であるロビン氏は、事故のようなものだから訴えはしないと当時寛大な対応でその場を収めてくれたそうだ。

 だが後々、娘さんの怪我が姉の横柄な態度と共に親御さんたちに知られることになり、裁判で死罪まで持っていくと宣告されたそう。


 あぁ怖い怖い。関係のない私まで強烈な寒気を覚えてしまった。

 あと一度だけ話し合いの場を設けてもらったそうだが、向こう側の怒りを鑑みるに示談が成立しても死に方を選ばせてもらえるくらいだろうなぁ。

 ただそれすらも、誠実な態度を見せて大枚をはたかなければならないので……


「そもそもあの女がいけないのよ。私がクロウ様のことをお慕いしているのは知っているはずなのに、軽々しくあの方に声を掛けに行くなんて」


 ま、姉の態度を見るに一番きつい死に方が待っていることだろう。

 私がここまで他人事というか、姉のスワンに対して冷たいのは彼女の日頃の行いのせいである。

 私は幼い頃から、姉に虐げられてきた。

 このウィンディ伯爵家は代々魔術師の家系で、姉はその血を色濃く受け継ぎ、歴代でも指折りの天賦の才を持っている。

 おまけにロビン氏ほどではないがそれなりに噂が立つほどの容姿端麗。


 対して私はまともに魔法を使うこともできない落ちこぼれ。

 必然的に両親の愛は姉の方に偏っていった。

 そして姉のスワンは甘やかされて育ったことで、我儘かつ傲慢な性格になった。


『こんなこともできないの、シグネット? ここまで出来損ないの妹がいるなんて姉として恥ずかしいわ』


 事あるごとに私のことを見下してきたり……


『また魔法の勉強? 才能のないあんたが勉強したところで意味なんてないのにね』


 自分の才能に寄りかかって私の努力を鼻で笑ってきたり……


『この前の社交界でも収穫がなかったようね。まああんたみたいな醜女は壁の花になってるのがお似合いよ』


 こちらの容姿を蔑んで悦に浸ったりする。

 だから私は姉のスワンが嫌いである。


「本当にもうどうすることもできないの? まだ私、死にたくなんてないのに……!」


 ……ご愁傷様。

 心の中でそんな言葉を掛けながら、姉のすすり泣く声が聞こえるリビングから離れる。

 静かに屋敷の二階へと上がり、自室に入って机についた。

 私はいつも通り、日課である魔法の勉強をしてから寝ることにしよう。


 姉が死んでも、私が才能無しであることに変わりはない。

 だから変わらず、地道に努力を重ねていかなければならないのだ。

 姉の死罪がほぼ確定したことで、死をいつもより身近に感じ、私は改めて思う。

 努力できる命があるだけでも、こんなにもありがたいことなんだなと。

 それに比べてあの愚姉は、あれだけの才能と容姿を持ち合わせておきながら、ろくに勉強もせず性格も曲がったまま。

 あんな飛び抜けた才能があれば、まだなんとかなりそうなものだけど。

 一階のリビングから姉の嘆く声が響いてくる中、私は眠気が訪れるまで黙々と魔法の勉強をしたのだった。




 翌朝。

 目が覚めた私は、強烈な違和感を覚えた。

 なんだかいつもより、部屋からいい香りがする。

 体に掛けられた毛布も滑らかな質感で、高級な手触りをしている。

 私が普段使っている毛布はごわごわしていて、たまに焚く香も粗悪品なのでここまで香り高くはない。


 というか、そもそもいつもの寝起きの景色と違った。

 目に飛び込んできたのは、見慣れた自室の天井ではなく派手な紫色のベッドの天蓋。

 窓の位置も違っているし、私と最も多くの時間を共にしている勉強机がどこにも見当たらなかった。

 どことなく見覚えのある部屋に、嫌な予感を募らせた私は、ベッドから飛び起きて視界の端にあった姿見の前に駆け寄る。

 そして鏡面に映った自分の姿を見て、人知れず声を震わせた。


「お姉、様……?」


 そこに映っていたのは、十八年間見続けたシグネット・ウィンディの顔ではなく……

 姉のスワン・ウィンディの姿があった。


「何、これ……」


 夢でも見ているのかと思った。

 もしくは寝ぼけていて幻覚でも見えているのかと。

 でも自らの頬を触ってみて、しっかりとした感触が伝わり、これが夢でも幻覚でもないと教えてくる。

 僅かな時間放心していた私は、やがて一つの考えに至って部屋を飛び出した。

 そして廊下を駆け抜けて、ある部屋の前に辿り着く。

 勢いよく扉を開けて中に入ると、たった今目が覚めたと思しき人物が、ベッドの上で背中を伸ばしていた。


「あら、おはようシグネット。あっ、今は私がシグネットだったわね」


 私が喋っていた。

 見慣れた部屋の、見慣れたベッドの上で、私が今まさに寝起きの一声を放っていた。

 昨晩勉強していた痕跡が残っている勉強机もちゃんとあることから、ここは間違いなく私の自室である。

 この状況と今の私の発言から、嫌な予感が確信へと変わった。


「私と……体を入れ替えたのですか?」


「察しがいいわねシグネット。そうよ、今日からあなたがスワンになるの」


 私の姿をした別人が、不敵な笑みと共に不気味な言葉を送ってくる。

 目の前に映っているのは、私の分身でも幻覚でもない。

 私の体に精神を移した、姉のスワンだ。

 私は姉に、体を奪われてしまったのだ。

 あまりにも荒唐無稽の話だが、そういうことができる魔道具が存在すると聞いたことがある。


「禁忌の魔道具をお使いになられたのですね」


「あら、そのことまで知っているなんてさすがはお勉強好きのシグネットちゃん。お父様から禁具庫の鍵を借りるのに少し苦労したけどね」


 うちは魔術師の家系で、ご先祖様の中には魔道具製作に長けた人もいたそうだ。

 彼らが残した魔道具の中には、あまりにも危険な効果を持つことで『禁忌の魔道具』として禁具庫に封印されたものもあるという。

 そのうちの一つに、他人と精神を入れ替えることができる精神転移の魔道具があると文献で見たことがある。

 まさしく今のこの状況が、姉のスワンがその禁忌の魔道具を使ったという証拠に他ならない。

 そしてそんな行動をとった理由は……


「昨日の話、廊下で聞いていたのでしょう? ならもうあとはわかるわよね?」


「……私が代わりに、お姉様として罰を受けろと?」


「どうも死罪は免れないみたいだし、それならこうするしか手はないでしょ」


 これから降りかかることになる責任から逃れるために、私と体を入れ替えたのだ。

 なんとも大胆な行動である。

 国外逃亡を図るという手段もあっただろうが、世間知らずの愚姉が逃亡生活を乗り切れるとは思えない。

 本人もそう自覚したからか、確実に罪から逃れられるこの方法をとったのだろう。


「ちなみに例の魔道具は一回使ったら壊れちゃったから、元の体に戻るのも不可能よ。証拠もないし体を奪われたなんて言っても誰も信じてくれないわ」


 その魔道具をもう一度使えば、なんて考えていたけど、どうやらそれも無理なようだ。

 しかも証拠も残っていないため、姉に体を奪われたと訴えても信じてもらえない。

 死罪への恐怖で滅茶苦茶なことを言い始めたと思われるのが関の山。


「はぁ、本当ならこんな才能無しで地味なあんたになんかなりたくなかったけど、魔道具の制限上そこは仕方がないものね」


 精神を入れ替えるのなら別の人間でもよかったはず。

 それでも私を標的にしたのは、魔道具の制限が理由だ。

 確か文献で見たくだんの魔道具は、使用者が膨大な魔力を有しており、かつ対象者が魔力の少ない人物であることが使用条件になっていたはず。

 そう、例えば姉と私のような。

 その条件を満たしており、かつ精神転移後に口答えもしなさそうな私はまさに打ってつけの対象だったというわけだ。


「どうしたの、さっきから黙りこくっちゃって? もしかして死ぬことに悲観でもしているの? ここはもっと喜ぶべきところでしょう」


「喜ぶ?」


「だってこうでもしなかったら、あんたは一生この才能無しの体で生き続けることになっていたのよ。それが私みたいな恵まれた人間の体を一度は体感できて死ねるんだもの。あんたにとってこれほど喜ばしいことはないんじゃないの」


 なんとも自分勝手な言い分である。

 姉の才能を羨ましいと思ったことはあるけれど、死罪を被ってまで欲しいと思ったことはない。

 だというのにいいことをしてやったと言わんばかりの口ぶりに、さすがの私も怒りの感情が湧いてきた。

 しかしそれ以上に呆れの気持ちが強く、私はついに心の底からため息をこぼす。


「はぁ……。本当にどこまでも愚かですね、スワンお姉様は」


「はっ? どういう意味よ?」


 姉のスワンは、私の顔で怪訝な表情を浮かべる。

 私が呆れた理由は二つ。

 一つはどこまでも変わらない自己中心的な姉の性格に対して。

 そしてもう一つは……


「これだけの才能があって、まだ挽回できる可能性も残されていたというのに、その機会と天賦の才を一度に捨ててしまうなんて」


「挽回? 今のその状況から? いったい何を言っているの」


 姉はベッドに腰掛けたまま、逆に呆れ返すようにかぶりを振った。


「できるわけがないでしょうそんなこと。スワン・ウィンディの死罪はもう確定したも同然なのよ。もしかして精神転移の影響で、状況も飲み込めないくらい混乱しているのかしら?」


「私は至って冷静です。お姉様ほどの才能があれば、この状況を乗り切れる可能性は充分にあります」


 それほどまでにこの人の才能は凄まじいものだから。

 当の本人は自分の才能の凄まじさと希少性にまるで気が付いていないみたいだけど。


「苦し紛れの負け惜しみかしら? 慰めの言葉を自分に言い聞かせているようにしか見えないわよ」


「お姉様がそう仰るなら私がお見せしますよ。ご自身がどれだけ愚かなことをして、貴重なものを捨ててしまったのか」


 まあ、それをしなければ私が死ぬことになるだけだから、どちらにしろそうせざるを得ないんだけど。

 破滅の運命を回避するためにも、私はこの状況から挽回してみせる。

 そう宣言をすると、私は驚いて固まる姉に背を向けて、元自室から立ち去った。

 そして今の自室へと戻ってくる。


 とりあえずやることは決まっている。

 まずは自分の状態の確認だ。

 精神転移でスワンの体に入ったことで、どのような変化があるか確かめてみる。

 再び姿見の前に立ち、改めて鏡で顔を見てみた。


 やはり本当に姉の姿になっている。

 けど不思議と抵抗感や違和感は少ない。

 大嫌いな姉の顔のはずなのに。

 まあ腐っても姉妹なので、骨格や顔のパーツは似ている部分があるから、まったくの他人と入れ替わったほどの違和感はないのかな。

 胸の辺りと肩はより身近に重力を感じるようになったけど。


 そして次は記憶に関して。

 ここまでの段階でおおよそわかっているけど、どうやら記憶はシグネット・ウィンディのものがそのまま移っているようだ。

 精神転移によって入れ替わったのは精神だけではなく記憶もということらしい。

 それがただの精神転移による影響なのか、はたまた精神が記憶と深く結びついているからなのか定かではないけど。


「あと問題は……」


 肝心な魔法についての確認だ。

 魔法は体内に宿された魔力を消費して扱う。

 その魔法を、別の人間の体に入っても問題なく使えるかどうか確かめておかないといけない。

 それとスワン・ウィンディの魔法の才能についても改めて体感しておかないと。


 魔力は生まれつき総量と濃度が決まっている。

 量が多いほど魔法を数多く使えて、質が濃いほど魔法は強力になる。

 一応、筋力のように魔法を使用する度に魔力も成長していくが、微々たる変化に過ぎない。

 ゆえに魔法は天性の才能がほぼすべてと言っても過言ではないのだ。

 そして姉のスワンのこの体には、ガーディニア王国でも指折りの魔力が宿されている。


 だというのに周りから持て囃されて育った結果、少しの努力もせず魔法の知識をまるで持っていない。

 魔法は九割が“才能”で決まるが、もう一割は知識を蓄えなければならないので“努力”が必要になる。

 私にできることはその努力の部分だけだった。

 いくら知識を増やしても、微量で極薄の魔力ではその知識を生かすことはできなかったけど、この体に宿っている魔力なら……


「【蛍灯(ファイアフライ)】」


 魔法は構造の理解と感覚によって、魔力を変質させることで発動ができる。

 そして今使ったのは暗闇を照らしてくれる初歩的な『灯りの魔法』。

 瞬間、熱を持たず光だけを放つ火が手から現れた。

 どうやらこの体でも無事に魔法を発動できるみたいだ。

 そのことに安堵しながら、私は発動させた灯りの魔法を見て、思わず感嘆の息をこぼした。


「……すごい」


 前の体では、暗い中で手元にある本を辛うじて読めるくらいの灯りにしかならなかった魔法。

 だけど右手から現れた火は、暗くしていた部屋全体を照らすどころか、眩しすぎて逆に何も見えなくなるくらい強烈な光を放っていた。

 もはや小さな太陽だ。ただの灯りの魔法のはずなのに目くらましに使えそうなくらい強い光が出ている。

 これが国内屈指の才覚者スワン・ウィンディの潜在能力。

 初歩的な魔法だからこそ、以前の魔力との違いが顕著に映る。

 これだけの才能に埃を被らせて胡坐をかいていたなんて。


「やはり愚かですね、スワンお姉様は」


 これほどの魔力があれば、この絶望的な状況も打開できるはず。

 いや、必ず打開してみせる。

 自分の命が惜しいと思うのもそうだが、何よりこの貴重な才能が、あの愚姉の愚行一つで世界から失われてしまうなんてあまりにももったいないから。




 それから二日が経った。

 フォッグ侯爵家と改めて話し合いをする日となり、私は父と母と一緒に侯爵領に向かうことになった。

 今日まで二人は、私のことを何度も慰めてくれた。

 以前の体の時はまるで気に掛けられたことがなく、高熱にうなされた時だってすべて使用人任せで一度も気遣ってはくれなかったのに。

 姉はこんなにも大事にされていたなんて。


「今日の交渉次第で死罪は回避できるはずだ。安心しろスワン」


「お母さんたちがついているからね」


 扱いに差がありすぎて、いまだに違和感が拭い切れない。

 まったく目を掛けてくれなかった両親が、今では過保護に庇ってくれるのだから。


「それにしても、やっぱり雰囲気が変わったね、スワン」


「……そうでしょうか?」


「あぁ、あの日から随分と落ち着きが出たように見えるぞ」


 それはまあ、精神が入れ替わっているので。

 雰囲気が変わったように見えるのは当然だ。

 今日まで二人は普段通りに接してくれていたが、やはり違和感には気が付いていたようだ。


「死罪への恐怖で様子がおかしくなったのではないかと話していたんだが、まあ今日の話し合いには影響がなさそうで安心したぞ」


「でも体調がすぐれなかったらすぐに言うのよ」


 精神が不安定になったことで、逆に落ち着きが出たのだと勝手に解釈してくれたようだ。

 姉の口調や態度を真似するのはしんどかったのでそれは助かる。

 ちなみに私の体に入った姉は、今日まで事あるごとに私を煽ってきた。

 何をしても無駄、どうせ死罪は免れないと。

 一方で父と母の前では完璧に私を演じていた。


 やがて私たちを乗せた馬車は町を行き継いで、フォッグ侯爵領へと辿り着いた。

 そして領主一家が住む屋敷へと到着し、使用人たちの案内で応接間へと招かれる。

 そこには高価な装飾が施された黒のフロッグコートを来た中年貴族と、大人しめのデザインの白ドレスに身を包んだ見目麗しい令嬢が待っていた。


 おそらく令嬢の方が、ロビン・フォッグ侯爵令嬢。

 なるほど。初めてお目にかかるけど、確かに目を引く美貌をお持ちのようだ。

 だがそのご尊顔の左頬には、惜しいかな切り傷のような跡が刻み込まれてしまっている。

 あの傷の残り方は今後一生消えることはないだろう。

 あれがくだんの傷跡か。


 そして中年貴族の方が、ドレイク・フォッグ侯爵殿。

 ロビン様のお父様で、国境防衛と未開地の開拓で戦果をあげ続けているフォッグ侯爵家の現当主。

 強面と鋭い緋色の目、さらには白い無精ひげが相まって、かなりの迫力と圧を感じる。

 ていうか……


 めっっっちゃ私のこと睨んでるんですけど。


「貴様がロビンの顔に一生ものの傷をつけ、あまつさえまともな謝罪も寄こさなかった不届き者か」


 こ、怖すぎる……。

 開幕にドレイク様から放たれた一声を受けて、私は思わず尻込みした。

 でもドレイク様の怒りも納得のものである。

 愛娘の顔に傷を付けて、そのうえ無礼な態度を取ったというのだから。

 するとそこに父が、僅かに声を震わせながら返す。


「ドレイク様、此度は我が娘に謝罪の機会を与えていただき、深く感謝申し上げます。お酒を嗜んでいらっしゃると聞きましたので、上等なものを持って参りました」


「前もって言っておく。いくらこちらの機嫌を取ったり示談金を積まれたところで、俺の意思は変わらんぞ。謝罪の言葉も今さら無意味だ」


 先んじて好物の酒で機嫌を取りに行こうとした父だが、それはすぐに潰されてしまった。

 ドレイク様の意思は相当固いらしい。


「今回の交渉は、そこの不届き者にいかなる死罪を科すか決めるためのものとなっている。誠意次第では好きな死に方を選ばせてやらんでもないが、死罪それ自体が揺らぐことはないぞ」


「ど、どうかご容赦願います! 娘の命だけは、どうか……!」


 父は取り繕うのをやめて、正直に懇願を始めるが、ドレイク様は表情をピクリとも変えない。

 そんな険しい雰囲気の中、ハープのように繊細で透き通る声が私たちの耳を打った。


「お父様、やはり死罪まで科すのは大袈裟ではないでしょうか? 顔に跡は残っていますが、化粧で少しは目立たなくなりますし」


「ロビンは相変わらず優しいな。だがロビンの麗しい顔に一生ものの傷がついたのだぞ。そうでなくとも一介の伯爵令嬢が侯爵家の一人娘に危害を加えて、軽罰で済まされるなどあってはならないこと。示しをつけるためにも相応の罰が必要なんだ」


 私たちに話しかけていた時とは打って変わって、ドレイク様は優しい声音でロビン様に応える。

 どうやら聞いていた話の通り、ロビン様は寛大なお方のようだ。

 ここまでのことをされておいて許そうとしているなんて。

 しかしドレイク様はそうではないらしい。

 侯爵家の人間としてけじめをつけるだけでなく、常識的な観点からも姉を厳しく非難した。


「何より同じ女性の顔に傷をつけておいて、まともな謝罪一つないだと? この不届き者は死罪が妥当なのだ!」


 仰る通りでございます。

 こんな愚姉は死罪が妥当だ。

 話を又聞きしただけの私すら死んだ方がいいと思ったくらいなのだから。

 けれど今は私の精神がこの体に入っている。

 こんなところで死ぬわけにはいかない。

 姉の思い通りにならないためにも、私は状況を逆転させるために動き出した。


「この度は、ドレイク様のご息女であるロビン様に怪我を負わせてしまい、多大なご迷惑をおかけしたこと、心よりお詫び申し上げます」


 姿勢を正し、深く頭を下げながら誠心誠意の謝罪を送る。

 するとドレイク様の方から息を呑む気配を感じ、隣にいる両親たちは言葉を失って驚いていた。

 さらに私は真剣な声音で続ける。


「私の醜い悋気(りんき)でロビン様に傷をつけてしまったこと、一生をかけても償い切れると思っておりません。いかなる処罰もお受けします」


 まず私にできるのは、誠実な態度を見せること。

 死罪が嫌だと縋るより、潔く罪を受け入れる姿勢の方が却って好感を持たれやすい。

 その思惑の通り、ドレイク様は意外そうな様子で言った。


「話に聞いていた無作法者とは違い、随分と潔いようだな。命惜しさに猫を被り、定型文のような謝罪を聞かされるだけなら、ここで何発か殴ってやろうかと思っていたが」


 次いで鼻を鳴らしながら両腕を組む。


「まあ覚悟が決まっているのであればいい。その潔さに免じて死に方は選ばせてやる」


 僅かに印象をよくすることはできたようだ。

 やはりドレイク様には真っ直ぐな態度を心がけた方がいいらしい。

 さらに私は畳みかけるようにして、ドレイク様に秘策の提案を出した。


「その前に一つよろしいでしょうか?」


「んっ? 申してみよ」


「私の魔法で、ロビン様の傷を“治療”させていただけませんでしょうか?」


「はっ? 治療だと?」


 ドレイク様がきつく眉を寄せる。

 隣にいるロビン様も不思議そうな目でこちらを見て、隣の両親は言葉を失くして驚いていた。

 これが私の秘策。

 スワン・ウィンディの魔法の才能を生かし、傷付けてしまったロビン様を治療すること。

 もしそれが叶えば、今回の件で買ってしまったドレイク様の怒りを、かなり和らげることができるのではないかと思った。


「……貴様は何を言っているんだ? ロビンの怪我は、現代の医療技術と魔法技術では完全なる修復は不可能と断言されたのだぞ。それが一介の伯爵令嬢の魔法ごときで治せると、本気で思っているのか?」


「断言はできませんが、可能性はあるかと」


 ロビン様の顔の怪我は、すでに塞がって跡だけが残ってしまっている。

 こうなると確かに修復は難しい。

 もっと早く、腕利きの治癒師が処置をしていたら傷はほとんど目立たなかっただろう。

 ここから完全なる修復を目指すのは不可能だと思われるが、不可能も可能にできるほど強烈な才能がここにはある。


「そういえば貴様、良質な魔力を有した国内屈指の才覚者だそうだな。しかし怠慢さゆえ、その才能に埃を被らせている愚鈍とも聞いている。そんな人間に娘の傷が治せるというのか? 魔法の中で習得が最も困難と言われる治癒魔法が扱えるのか?」


 どうやらこちらのことを知っているらしく、ドレイク様は怪訝そうな顔で圧をかけてくる。


「もし俺の機嫌取りのためにいい加減なことを言っているようなら、先の死に方を選ばせてやるという言葉はなかったことになるぞ」


 それでもいいのかという問いかけが、怒りのこもった視線に乗せて送られてくる。

 その視線に真剣な眼差しを返すと、やがてドレイク様は鼻を鳴らして了承してくれた。


「よかろう。ならば試すがいい。しかしもし失敗した際には……」


「いかなる処罰もお受けする覚悟でございます」


 ロビン様も承諾してくれたので、私はさっそく彼女の顔の治療に取り掛かることにした。

 不安そうにするロビン様に一言断りを入れてから、彼女の傷付いた左頬に右手をかざす。

 さすがに少し緊張してくる。

 もしこれが失敗すれば、僅かな希望を見せてしまった反動で、より激怒させてしまうだろうから。

 両親も不安そうに見つめている。

 それでも私は、今の絶望的な状況を打開するために、希望に手を伸ばした。


「【回光(リグレッション)】」


 私の右手に仄かな光が灯る。

 それはロビン様の左頬を静かに照らし、同時に周囲に静寂をもたらした。

 やがて私の手に灯された光が小さくなっていく。

 そして光が完全に消えると、ロビン様の左頬が傷一つない純白の柔肌に戻っているのが明らかになった。


「ロ、ロビンの傷が、完全になくなった……!」


 ドレイク様が目を見開いて驚愕する。

 その言葉を聞いたロビン様は、慌てて懐から手鏡を取り出して左頬を確かめた。


「ほ、本当に、傷がなくなっています……!」


 傷があったはずの場所を指でなぞりながら声を震わせている。

 すると彼女は両手で顔を覆って、控えめに嗚咽を漏らし始めた。

 無事に治ってよかった。

 ロビン様は化粧で誤魔化せると言っていたが、実のところそれは強がりだったようで感涙を溢れさせている。

 まあそれも当然か。

 嫁入り前の乙女が顔に一生ものの傷を負ったのだ。婚約者探しも不利になるだろうし気にしないわけがない。


「腕利きの現役治癒師たちが揃って匙を投げたあの傷を、よもや一介の伯爵令嬢が治してしまうなんて……」


 目を見張ったドレイク様は、その視線をおもむろにこちらに向けてくる。

 魔法は魔力の濃度によって効力が変わるようになっている。

 そして先ほど使ったのは治癒魔法の【回光(リグレッション)】。

 魔力の濃度によって治癒可能な傷が変わり、重度の怪我や複雑な傷はかなりの魔力を持っていないと治癒ができない。

 ただスワン・ウィンディの才能をもってすれば、深々と刻まれた傷跡すら完全修復が可能なのだ。


 確信はなかったけれど自信はあった。

 これでこの体に宿る才能についてわかってもらえたと思う。

 加えて此度の争いの火種となったロビン様の傷も無くなり、ドレイク様の鋭い眼光も僅かに和らいだ。

 だからここで、私はさらに畳みかける。


「治療の機会を与えていただきありがとうございます。重ねて僭越ながら、一つご提案がございます」


「提案? 申してみよ」


「ロビン様にお怪我を負わせ、ただ命を絶つだけではやはり償いが足りないと思いました。ですのでフォッグ侯爵領の国境防衛、並びに未開地の開拓事業について、私にお力添えさせていただけませんか?」


「……なんだと?」


 フォッグ侯爵家は他国の侵攻と魔物の脅威から、このガーディニア王国の国境を防衛している。

 また魔物が潜んでいる危険な未開地の開拓にも積極的に取り組んでいる。

 それらの手伝いを償いとしてさせてもらえれば、確実に力になることができる。

 何よりフォッグ侯爵家当主のこの人ならわかるはず。

 スワン・ウィンディのこの才能を、このまま死罪などで眠らせてしまっていいはずがないと。


「……なるほどな。ロビンの怪我を目の前で治してみせ、力を顕示した後で助力の提案をしてくるか。話に聞いていた愚鈍とは思えない要領の良さだな」


 ドレイク様の顔に、初めて笑みが浮かんだ。


「いいだろう。その提案に乗ってやる。存分にこき使ってやるから覚悟しておくがいい。ただしまともな成果を出せなければ即刻その首を落とすからな」


「はい、承知しました」


 そのやり取りを困惑した顔で見つめていた父は、不安げにドレイク様に問いかけた。


「と、ということは、娘の死罪は……」


「何度も言わすな。一旦は取り消しとする。ロビンの怪我もこうして綺麗に治ったわけだからな」


 ドレイク様は安堵した面持ちで、涙ぐむロビン様の肩に手を置く。

 対してこちらの両親は、顔を見合わせて喜びをあらわにしていた。

 私も内心で胸を撫で下ろす。

 なんとか窮地を乗り切ることができた。

 まさにスワン・ウィンディの才能さまさまである。

 あとはこれから大きな失敗を犯さなければの話だが、それもおそらく大丈夫だろう。

 私ならこの才能を、必ず上手く生かせるから。




 それからフォッグ侯爵領での務めが始まった。

 私は蓄えていた知識と姉の体に宿る魔法の才能で、国境防衛と開拓事業に力添えした。

 その結果、数々の成果をあげて、フォッグ侯爵領の発展に大きく貢献することができた。

 改めてスワン・ウィンディの体に宿る才能に驚かされてしまう。

 そしてその成果を認められて、ドレイク様から死罪の宣告は完全に取り消すと伝えられた。

 私は破滅の未来を回避することができたのだ。


 それと奇遇な出会いもあった。

 フォッグ侯爵領でのお務め中、国境防衛と開拓事業を担う軍の中に、見知った殿方がいた。

 それは姉が好意を寄せていた、ロビン様に怪我をさせる要因となったクロウ・ストーム様だった。


「あの時ロビンに足をかけた令嬢が、まさかここまでの活躍を見せるなんてね。前に会った時と比べて随分と雰囲気が変わったじゃないか」


 こちらとしてもよもや同じ軍に所属しているとは思わず、さすがに動揺させられた。

 どうやらクロウ様は、魔術師としてかなりの実力者で、度々フォッグ侯爵領の軍を手伝いに来るそうだ。

 というのも、クロウ様とロビン様は“従兄妹”同士らしく、家同士で繋がりがあるとのこと。

 だから二人は幼い頃から仲がよく、兄と妹のような関係だとか。

 その話を聞いて、姉がロビン氏に足をかけたのは本当にただの徒労であると、私は密かに気の毒に思った。


 ともあれちょうどいい機会だったので、当時のことを謝罪すると、性格がまるで変わった私を見てクロウ様は改めて困惑していた。

 それから二人で同じ作戦に参加する機会も増えていき、次第に私たちは戦友として仲を深めていった。

 姉の精神がこの体に入っている時は、礼儀知らずで怠慢な性格だと思われていたみたいだが、その考えは改めてもらえたらしい。

 さらには軍の手伝いを終えて、実家に戻ることが決まった時、クロウ様からこんなお誘いまで受けてしまった。


「もしよかったら、今度は魔術師としてではなく友人として食事に行こう」


 本来ならば姉のスワン本人が言われたかっただろう誘いを受けて、私は快く返事をした。




 そうして私は無事に実家へと帰ってくることができた。

 父と母は感涙にむせび、その夜は大層なご馳走を振る舞ってもらえた。

 そして私の本来の体に入っているスワンはというと……


「シグネットのやつ、姉のスワンがこうして死罪を免れて無事に帰ってきたというのに顔も出さないとは」


「しばらくずっと部屋にこもりっぱなしなのよ」


 聞けば私が死罪を免れたと知った日から、ずっと自室にこもっているらしい。

 両親は、姉のことを気に掛けず相変わらず勉強に集中している薄情者としか思っていないようだが、私にはその真意がなんとなくだけどわかった。

 ともあれその日は両親に帰還を祝われて、久々に実家の屋敷で就寝した。

 姉の部屋のベッドだったので、懐かしさはそこまで感じなかったけれど、死罪の恐怖から完全に解放された安心感で私は深い眠りにつくことができた。


 そして真夜中のこと。

 それは突然やってきた。


「いたっ!」


 小さな悲鳴が私の耳を打つ。

 その声で目が覚めた私は、床にうずくまっている一人の人物を見て、呆れたため息を漏らした。


「やはり来ましたか、スワンお姉様」


「な、何をしたのよシグネット! 急に痺れが……」


 そこにいたのは、シグネット・ウィンディだった。

 正確にはシグネットの体に入ったスワンである。

 なぜこんな真夜中に忍び込むようにしてこの部屋に入ってきたのか、私は疑問に思うことはなかった。


「お姉様、もしくはお姉様の息がかかった刺客が寝込みを襲ってくるかもしれないと思いましたので、魔法で罠を仕掛けさせていただきました」


 無断でベッドに入ろうとした者に、強烈な電気が流れる魔法の罠。

 それを聞いた姉は驚いたように目を見開いた。

 事前に罠を仕掛けていたとは思わなかったのだろう。

 でも少し考えれば姉が襲ってくる可能性には簡単に行きつける。

 スワン・ウィンディの死罪が取り消しになり、本来の自分の体が無事に家へと帰ってきたのだから。


「大方、私が死罪を免れたので、この体に戻りたいと思ったのですよね? その手にそれらしい魔道具を持っているのが何よりの証拠です」


 姉は手に持っていた天秤のような道具を、ハッとした様子で背中側に隠す。

 今の反応からしても、やはりあれが例の精神転移の魔道具のようだ。


「禁忌の魔道具はすでに壊れてしまったはず。部屋にこもっていたのは、同じ魔道具を探して仕入れる算段でも立てていたのではないでしょうか」


 姉がしばらく部屋にこもりっぱなしと聞いて、私はその可能性を睨んだ。

 ご先祖様は弟子を多く取っていたらしく、製作した魔道具を模倣する人も多かったとのこと。

 であれば同じ魔道具が世界のどこかに存在していても不思議ではない。

 だから時間をかけてその魔道具を探し出し、私から体を奪い返しに来るのではないかと思ったのだ。


「しかし魔道具は私からしか使用できないという縛りがあります。となれば、私にナイフを突き立てるなどして脅し、体の返還をお求めになるつもりだったのではないですか?」


 私に魔道具を使わせるにはそれくらいしか手はない。

 そんな嫌な予感がしたため、私は寝る前にあらかじめ魔法の罠を仕掛けておいたのだ。

 姉はいまだに電流の痛みに顔を歪ませながら、こちらを見上げて怒声を上げた。


「それは私の体よ! 私の体と才能を返しなさい!」


 まさかの口ぶりに、思わず私はため息を漏らしてしまう。

 この人が望んでこうなったというのに。


「やはりどこまでも愚かですね、スワンお姉様は」


「なんですって……!」


「この状況を招いたのはお姉様自身です。大きすぎる才能に胡坐をかくことなく、少しでも魔法と向き合う時間を作っていれば、ご自身で死罪を免れることもできたかもしれないのに」


 それ以前に誠実に生きていればこのような状況にはならなかっただろう。

 周りが甘やかしすぎたせいもあると思うが、大きすぎる才能が姉の性格をここまで歪ませてしまったのだ。


「運良く死罪じゃなくなっただけで図に乗ってんじゃないわよ!」


「私は培った魔法の知識で死罪を免れたのです。それが何よりお姉様の努力不足を証明しております」


「まるで自分は努力をしていたみたいな言い方ね。お父様とお母様の気を引くために頑張ってるフリをしていただけのくせに!」


「お姉様にはそう見えていたのですね。私のこれまでの研鑽が、すべてお父様とお母様への媚び売りだったと」


 この人にはもう、何を言ってもダメみたいだ。

 これを機に少しは反省の色を見せてくれたら、体を返してあげなくもなかったんだけど。


「お姉様がどのように思おうが、もう私には関係ありません。とにかく私は、この体をお姉様にお返しするつもりは毛頭ないということです。お姉様がこの体を持っていても貴重な才能を枯らしてしまうだけですから」


「くっ……!」


「それに近いうち、親しくなったクロウ様と食事に行く予定なのです。その楽しみを奪われたくありませんから」


「あ、あんたが、クロウ様と……!?」


 姉が目を見張って動揺する中、私は残酷にも告げた。


「お姉様にも同じことができたはずなんですよ。なぜならこの体はお姉様のもの“だった”のですから」


 あえてクロウ様の話題を出したのは、今一度姉に失敗を痛感させるためだ。

 それが想像以上に効いたらしく、姉は両膝をついて声を荒げた。


「返してよ! お願い返して! あんたに意地悪してたことも謝る! これからはちゃんと魔法の勉強もする! だから……」


「もう遅いですよ、スワンお姉様……。いいえ、シグネット」


 懇願してくる姉を一瞥しながら一蹴し、彼女は泣き崩れた。

 お姉様には存分に味わってもらうとしよう。

 私のその体で、才能のない人間がどれだけの努力を強いられることになるのか。

 自分がどれだけ恵まれた体で生まれて、愚かなことをし続けてきたのかを。

 それらをよく理解して、心の底から謝罪をしてきたのなら……


 いつかはこの体を、返してあげてもいいかもしれない。


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返す気のないやつw
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