別れ
「今日で僕はこの地から移動する君の成長を楽しみにしているよ」
僕の言葉にヘルトは目を見開き完全に動きが止まっている。
すぐに弱々しく目元が下がるのが分かった。
「師匠、お別れという事でしょうか?」
「そうだね、永遠のお別れという訳では無いし僕は前に教えたように弟子を甘やかすつもりもないからね」
彼に埋め込まれている楔から察するに個の強さを手に入れなければ多分生きていけないはずなんだ。
楔を外してやろうかとも思ったがあれは子供に耐えられないから埋め込んだ様にしか見えない。
自らの成長で自力で外すのかどうなるのかはわからないが多分今外した場合彼の心がどうなるかわからない。
彼は決心した様に言った。
「師匠、ではなんでもいいので師匠との繋がりがある物を一つ頂けませんか?」
「ふむ、どうしようか」
「そうだな、ならこれをあげよう私の事を全て受け入れるように、そして少し目を瞑っていなさい」
彼の頭の上に手を乗せ全力で集中する。
「どうだい?気に入ってくれるかい?」
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師匠は急に別れをつげた。
一瞬僕には受け入れる事が出来なかったが、師匠は常々個の力をつけろと言われ冒険者になる為の簡単な教育もしてくれた。
僕も予想はしていたがこうも急だと心の整理がつかない。
永遠の別れではないと言うが広い世界で簡単に会えるとも思えない。
絶対に忘れられない様な師匠との繋がりが欲しいと言うと頭に手を乗せ私を全て受け入れる様にと言った。
心を師匠に預ける気持ちで目を瞑る。
師匠が本気で集中しているのが分かる。
そして、世界が改変された事を理解した。
【ヘルト・マルジン・ダルムント】
意識しなくても僕が僕と理解出来る。最初からそうであったかの様に、いや最初からそうであったのだと「僕」が理解している。
「どうだい、気に入ってくれたかい?」
「僕と君が直系になった証だよ」
「ありがとうございます。師匠との繋がりを理解しました」
「僕が初めて名前をあげたのが君なんだから忘れない様に。そして、必ずいい男になりなさい」
どうしたんだい?別れのキスも欲しいのかい?と最後に小馬鹿にされたが笑顔の美しい顔を見上げて顔が熱くなってしまった。