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④ 抑えられない衝動

最寄りの駅から電車で移動し、30分程で近くの遊園地に辿り着いた。平日だがカップルや学生で賑わっていた。


チケットを購入すると早速入園口から入り、中を見渡した。


玲「わぁ〜遊園地なんて久しぶり!」

彰「何か乗りたいのある?」


彰がマップを手に取り開こうとする。…が、玲は彰の手を取り、走り出していた。


彰「…えっどうした!?」

玲「あれ乗ろうよ〜」


走りながら玲が指差した先には…高さ30メートルはあろうかというジェットコースターのレールがそびえたっていた。

この遊園地の1番のオススメらしく、しきりに悲鳴が響き渡っていた。


彰「…」


彰はその高いレールを見上げ、半ば放心状態になっていた。


玲「凄いねぇ!楽しそう〜!」


そんな彰の憂鬱などつゆ知らず、玲は1人はしゃいでいた。

彰は高い所は大丈夫だが、ジェットコースターの落下する時の、あの何とも言えない浮遊感…胃が浮く様な感じがどうにも苦手なのだ。


しかしとても楽しそうにしている玲を前に、乗らないわけにも行かず…彰は覚悟を決めた。

何よりここで逃げ出すのは、男のプライドが許さなかった。


結局立て続けに2本、ジェットコースターに乗るハメになった。

1本目は何とか平然と装えていたが、さすがに2本目は…。


玲「あぁ〜スッキリした!楽しかったね!」

彰「…おう」

玲「あれ?…何か、大丈夫?」


玲が振り向くと彰の顔色は悪く、足取りも不安定だった。たまらず玲は近くのベンチに腰掛けさせた。


玲「…多田君、もしかして無理して付き合ってくれた…?」

彰「…そんな、事ねぇよ…」


そうは言うものの、彰は顔を覆っていて明らかに体調が悪そうだった。



彰が気がつくと何か柔らかい物の上で寝ていた事に気付く。


彰(…俺、どうしたんだっけ?)


彰「…?…!?」

玲「…あっ多田君、気が付いた?」


目を開けると目の前には何とも肉感的な胸と、更に玲の綺麗な顔が覗いていた。美人は下から見ても美人なんだな…目の前にある胸を触りたい衝動に駆られながら、ぼんやりとそんな事を思った。

そこは玲の膝の上だった。

彰は玲の膝枕で寝てしまっていた様なのだ。

女の子の膝枕なんて初めてだった。

ぼーっとしていた頭が徐々にクリアになり、恥ずかしさと申し訳なさで慌てて飛び起きた。


彰「俺寝てた!?…わるい!!」

玲「大丈夫だよ。…それより、調子どう?」

彰「あ…全然大丈夫!超元気!!」

玲「あはは、なら良かった。…私が調子に乗って連れ回しちゃったから…ごめんね?」

彰「そんな事ないって!」

玲「…食欲ある?何か食べよっか」


言われてみれば確かに腹が減っていた…時計を見るともう昼の13時を過ぎていた。俺はどのくらいの時間寝ていたのか…初デートなのに申し訳ない事をしてしまった。


ジェットコースターのエリアから少し歩くと売店があった。そこでハンバーガーのセットを買い、空いているテーブルで腹ごしらえをした。

観覧車がよく見える席だった。


早々に食べ終わり、彰はぼんやりと玲の食事姿を眺めていた。リップグロスなのか、ハンバーガーの脂なのか分からないが、唇がテカテカ光っていた。柔らかそうな唇だ。


玲「…この後は、何処行こうか?今度は多田君が行きたいとこに行こう」


見られている事に気付いた玲が、口元を手で覆いながら話しかけてきた。


彰「ん…?良いの?俺の行きたいとこで?」

玲「勿論。さっきは私の乗りたいのばっかりだったし」

彰「…了解!…後悔するなよ?」

玲「え…何か嫌な予感…」


まだハンバーガーを頬張っている玲を横目に、彰は意地悪な笑みを浮かべた。



玲の予感通り、そこはお化け屋敷だった。


玲「…多田君、本当意地悪なんだから」


玲が可愛い顔で睨んでいる。


彰「言ったろ?俺、ドSだって」


彰は益々玲をいじめたくなっていた。


彰「あっ手、貸そうか?」

玲「…結構です」


玲はツンとして先に中に入っていった。

彰もついて行く。

入り口を入ると早速、薄気味悪い雰囲気が漂っていた。至る所に用意されている蜘蛛の巣やドクロが目に入る。よく出来ているなと彰が感心していると、玲の背中にぶつかった。


玲「…やっぱ無理。腕…借りる」


やはり玲にはハードルが高すぎた様で、入って1分とたたず腕を組む事になった。彰の予想通りだった。腕の辺りに感じる柔らかく包み込む様な感触に、彰は心から感謝した。


その後も前回同様、何度も抱きつかれた。

しかし今回は男の様に思っていた前回とはまるで違うのだ。

健全な男子高校生が、暗闇で好きな女に何度も抱きつかれて…平気でいられるわけがない。

彰はお化け屋敷に入っている事など忘れて、ひたすら理性と戦っていた。

怖がる玲ちゃんを愛でて堪能するつもりが、まさか自分がこんな事態になろうとは…。

柔らかい胸の感触も、もはや凶器と化していた。


しばらく耐えていると、ようやく出口の光が見えてきた。彰には希望の一筋の光の様に見えていた。


玲「…やっと、終わった…。多田君は、こうゆうの怖くないの?」

彰「…えっ?ああ…俺は全然平気」


彰の胸はまだ高鳴っていた。お化け屋敷など全く怖くもないが、別の事で葛藤して参っていた…そんな格好悪い自分を知られたくなかったので、組んでいた腕をさりげなく解いた。


彰「お疲れさん。よく頑張ったな」


玲の頭をそっと撫でてみた。何とか余裕のあるフリをしたかった。


玲「…もう、お化け屋敷はしばらくいいや」


玲は怒った様なはにかんだような顔で、視線を落としつぶやいた。


玲「…それよりさ、観覧車乗らない?楽しみにしてたの」


ここで断るのも玲の機嫌を損ねそうだったので、了承した。

暗闇の次は密室か…果たして自分は耐えられるのだろうか。一度冷静になりたかったので、玲との会話もそぞろに頭の中では数式を思い浮かべていた。


隣のエリアに移動すると、観覧車が目の前まで迫っていた。20分程並んでようやく乗れると思った矢先、前のカップルが何やら揉めていた。

ここの観覧車にはスケルトンのゴンドラが何台かある様で、カップルの女が怖いから乗りたくないとごねていた。少し言い争った後、男が折れた様で次に並んでいた彰達に順番を譲ってきた。

玲が面白そうと言うので、乗ってみる事にした。

透明なゴンドラはスリルを味わえそうだった。


下から見上げた人にスカートの中を見られたりしないのだろうか…ふとそんなバカな事を考えた。


中に入ると向かい合って座った。理性が飛ばない様になるべく距離を取ろうと決めていた。


彰「観覧車、好きなの?」

玲「うん!眺めが凄く良いよね。遊園地来たら絶対乗りたいんだ〜!多田君は?」


玲はまたはしゃいでいて、少女の様な表情を浮かべていた。


彰「俺も。高いとことか景色の良いとこ好きだから。昼間と夜の2回乗りたい位」

玲「分かる!昼と夜で全然違うよね!夜景も絶対綺麗だよね〜」


いつか玲と恋人同士になれたなら…その時はもう1度ここで、夜景を一緒に見れたら良いなぁと考えていた。


玲「遠くまで見えるね〜…あっあっちの方、私達の学校がある方かな?」

彰「だな!そういえば学校から観覧車見えたよな」


彰は嬉しくなり、思わず身を乗り出していた。いつの間にか玲が座っていた方の窓から一緒に景色を眺めていた。

学校があっちだと自分たちの家はこっちの方か…静かにそんな事を考えていた。

今日待ち合わせをした公園の辺りを眺め、待ち合わせた時の事を思い出していた。

彰が景色に見入っていると玲がいきなり声を上げた。


玲「あっ…」

彰「えっ?」


玲は突然そう言うと、顔を赤らめて外を眺め始めた。

彰は何が起きたのか分からなかった。

玲が見ていた先を振り返って見てみると…隣のゴンドラでカップルがキスをしていた。

とても…濃厚に。


今の彰達には刺激が強かった。

気まずい雰囲気になり、沈黙が訪れた。


玲「あっ…もうすぐてっぺんだよ」


空気をかえようとしたのか、玲がそう告げた。

その時ゴンドラが風で揺れて、立っていた彰はバランスを崩し玲の隣に倒れ込んでいた。意図せず腰を下ろしたので、思いのほか距離が近かった。視線が交差した。玲の澄んだ瞳に彰は自分の姿を確認した。目が…離せなくなっていた。

先程のカップルの光景が脳裏をよぎる。

キスする事以外、考えられなくなった。

身体が、顔が、全身が熱くなってくるのを感じた。

ふと玲のシャンプーの良い香りが鼻をつく。

その時、彰は自分の中で何かがプツリと途切れたのを感じた。

抑えられない衝動が牙を向く。

気がつくと玲の肩を抱き、唇を寄せていた。


玲「…ダメ」


玲は小声でそう呟くと、彰の方から顔を背けた。

彰はハッと我に返った。…やってしまった、告白もまだなのに。


彰「…ごめん、つい…」


彰は逃げる様にして、向かいの元いた席に身体を戻した。

玲は少し顔を赤らめ、無言のまま外を眺めていた。

背景の美しい景観と玲の姿がマッチしていた。

自分が絵描きだったらキャンバスに描きとめておきたい位だった。


上にいた時はまるで蟻の様に見えていた人々の姿が、段々と大きくなってきた。


そのまま会話する事もなく、観覧車は地上に降り立ったー。




乗り場を少し離れた所で、彰は足を止めた。


彰「玲ちゃん、さっきはその…感情に流されたとゆうか…本当ごめん。でも、俺、マジだから。最近、玲ちゃんの事が頭から離れないんだ。好きだよ。…俺と付き合って欲しい」


本当はもっと告白する場所を選びたかった。

人目も気にせず…気が付いたら口から出ていたのだ。

君に、伝えたかったんだ。

今すぐにこの気持ちをー。


玲「…ありがとう。素直に嬉しいよ。…でも私ね、男の子に告白されたの初めてで…正直どうしたら良いか分からなくて…。多田君と一緒にいるのは凄く楽しい。けど…もう少し、考えさせて…」


玲は意外と落ち着いていた。

きっと告白される事自体には慣れているのだ。


彰「…分かった。俺の気持ちは変わらないから、ゆっくり考えて。…俺から離れられなくなる位、好きにさせてあげるから覚悟しとけよ?」


落ち着いていた玲だったが、こうゆう言動に弱いのか顔を赤く染めて彰を見つめていた。玲も彰から目が逸らせなくなっていたのだ。


彰は断られた訳ではないので、大きい口を叩く余裕があった。

彰(まあ断られていたとしてもそう簡単に諦める俺ではないが)

何より抑えられなくなっていた想いを口に出来て、心が軽くなったのだ。


うっとりと彰を見つめる玲の乙女の様な顔を見ていたら、胸がキュンとして段々と彰の方が恥ずかしくなってきた。

真っ赤な顔で俯く2人…

すれ違う人々の視線も気にならない位、2人の世界に没頭していた。



玲が帰る前にメリーゴーランドに乗りたいと言ったので移動する事にした。


メリーゴーランドにはカップルも少数乗っていたが、大部分は小さい子供達だった。


彰「え…本当にこれ、乗るの?」


高校生にもなってメリーゴーランドに乗るのは、彰にとって正直恥ずかしかった。

お前が乗るのかといった目で子供がこっちを見ているぞ。


玲「うんっあっこっちこっち〜」


周りの目など気にしない玲は、颯爽と彰の手を引いて、馬車の部分に2人で乗り込んだ。

体格の良い彰には窮屈だった。


少しすると音楽が全体に鳴り響き、馬車が動き出した。

玲はとても嬉しそうにしていた。

何がそんなに嬉しいのか…玲の横顔を眺めていた。そんな彰の気持ちを察したのか、玲が話し始めた。


玲「子供の頃にね、メリーゴーランドに乗ったの。その時思ったの。いつか大きくなったら、男の子と一緒にこの馬車の部分に乗ってお姫様になるんだって…。今、夢が叶っちゃった」


そう言って笑う玲の笑顔は、まさに純真無垢だった。

今日1日、やましい事ばかり考えていた自分が酷くちっぽけに思えた。


彰「そんなんで良いなら、いくらでも叶えてやるよ」

玲「…ありがとう」


遊園地の最後の思い出は、爽やかに締めくくれて良かった。彰は心からそう思った。


帰りの電車の切符を買おうと券売機に並び、玲のところに戻った時だった。

玲が2人の男達に絡まれていた。今まで考えもしなかったが、あれだけ綺麗なのだ。無理もない。

彰は怒りのままに、ドスを利かせた声で男達に迫った。


彰「おいっ!!人の女に何か用かよっ!?」


男達がビクッとする。振り向き、体格が良く目つきの悪い彰の姿を確認すると逃げる様に去って行った。

…良かった。喧嘩にでもなったら1度に2人なんて勝てる訳がない…。見掛け倒しは彰の得意技だった。


彰「玲ちゃん!大丈夫?何かされなかったか?」

玲「大丈夫だよ。ありがとう。…多田君、そんな怖い顔も出来るんだね。私までビックリしちゃった」


玲はのんきに笑っていた。


彰「ごめん…俺が離れたのが悪かった」

玲「大丈夫だよ。いざとなったら…ねっ」


玲は自分が倒してやると言わんばかりに、拳を掲げてみせた。


彰「強いのは分かってるけど…危ないだろ!それにそんな格好で戦って欲しくないし」

玲「あぁそっか、スカートだった」

彰「…パンツ見えるぞ」

玲「それはダメだね」


玲が真顔で答えた。


彰「とにかく!俺が守るから…」


喧嘩などほとんどした事のない自分だが、この子だけは自分が守りたい。いや、守るんだ。そう思った。


玲「…うん、多田君、やっぱり男らしい。…しっかり守ってね、王子様?」


玲が小悪魔の様な顔で、彰の顔を覗き込む。

とても可愛くて直視出来なかった。

俺はなんて女を好きになってしまったのか。

しかし、前よりも玲が心を開いてくれている、自分を頼ってくれている事に気付き嬉しくなった。




帰り道、玲がポツリと言った。


玲「今度、うち来る?」

彰「えっ…家?良いの?」


いきなり家に誘うとは…どうゆうつもりだろうか。告白の返事はオッケーとゆう事だろうか?


玲「課題、一緒にやろう?」

彰「あっ…課題!そう、そうだね!」


彰はまたもやいかがわしい事を少しでも想像した自分を呪っていた。


玲「また、連絡するね」

彰「分かった。今日はありがとう。…おやすみ」


結局返事はすぐにはもらえなかったが、次がある事に彰は安堵した。家に帰ったら愛猫のルナと沢山遊んでやろう、そんな事を考えた。


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