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③ コンプレックス

あれから特にお互い連絡する事もなく、週が明けた。


あれ以来特別玲と絡む事もなく、1学期もようやく終わりを迎えようとしていた。

校長の長い話を聞きながら、放課後はいつもの様に岡田達とカラオケでも行こうかと考えていた。今日は終業式だけなので、昼前には帰れるのだ。


教室に戻り、ホームルームを終えると、岡田が機嫌良く彰の元にやってきた。


彰「おぅ、今日どっか寄ってくか?」

岡田「それがさ〜!まりかちゃん誘ったら今日オッケーしてくれたんだよ〜!」

彰「…へぇ〜…それは良かったな。楽しんでこいよ」

岡田「じゃなくて、お前も来るんだよ!」

彰「…はぁ?何で俺まで…」

岡田「それがまりかちゃんが、2人じゃなくて皆でなら遊んでも良いって言うからさ〜…お前も強制参加!!」

彰「…なるほど」


女子達も一緒となると少し面倒くさかった。彰にとっては男同士の方が気楽なのだ。


岡田「あっそんな顔してるけどな、皆って事は王子も来るんだぞ!」

彰「…!」

岡田「ほらぁ〜行きたくなってきただろ?俺に感謝するんだな」


ここ数日は玲と接触する機会もなかったので、素直に嬉しかった。


彰「…グッジョブ」


そんな事を話していると早川も彰達の方にやってきた。


早川「何か皆で遊びに行くんだって?楽しそうだね」


恋愛に消極的な早川も意外と乗り気の様だった。


杏奈「よっ!お待たせ〜行こっか!」


杏奈が玲とまりかを引き連れてやってきた。

彰は玲と目が合ったが、まりかが玲と腕組みしていた為、話かけるのはやめておいた。


外に出ると今日は一段と蒸し暑く、早く涼しい店の中に入りたくなった。

学校を後にすると駅前に向かった。まずは適当にお昼を食べようという事になったので、ファーストフード店で軽く済ませた。

杏奈達がショッピングモールに行きたいと言ったので、そっちの方に行く事になった。

先日のお化け屋敷が入っていた所だ。

ショッピングモールは繁盛している様で平日の昼にも関わらず、混雑していた。


突然、杏奈が立ち止まった。


杏奈「あっそうだ〜!あたしらトイレ行ってくるから、あんた達適当に遊んでてよ」

岡田「あっじゃあこの近くで待ってようか?」

杏奈「…時間かかるかもしれないから、上のゲーセンでも行ってれば?」

岡田「…時間かかるの?」

杏奈「女子は色々あんのよ!まぁ楽しみに待ってなさい♡じゃあね」


杏奈は玲達を引き連れ、女子トイレの方に去って行った。


岡田「…何だ、あれ?」

早川「…さぁ、あっメイクしたりするんじゃない?」

岡田「そうか!学校だと出来ないもんな。…まりかちゃん、更に可愛くなるんだろうな〜」


岡田はまたデレデレと鼻の下を伸ばしていた。


早川「そういえば彰、王子とあんまり話してなかったね?」

彰「…あ〜何かタイミングが…」

岡田「まりかちゃん、王子にベッタリだしな。…お前は何だか河野と結構喋ってたな」


岡田が恨めしそうに早川に話をふった。


早川「あぁ〜…何か話しかけられたから。よく話す子だから喋りやすかったよ」

岡田「よしっ彰!後半は俺達も頑張ろうぜ」


岡田が気合を入れていた。いつもなら小馬鹿にするところだが、今回ばかりは彰も岡田と同じ想いだった。


彰達は3階のゲームセンターに移動してきた。

自分たちの様な学生もチラホラとたむろしていた。

格闘ゲームなどをして適当に時間を潰す。


30分位たった頃、早川の携帯に杏奈から着信があった。


杏奈「お待たせ〜3階のゲーセンの前まで来たけど、いる?…今ゲーセン入り口の吹き抜けの辺りにいるけど」

早川「分かった!今行くね」


早川はそう伝えると電話を切った。


岡田「…お前…いつの間に番号ゲットしたんだよ?」

早川「いや…さっきご飯の後聞かれたから」


岡田が悔しがっていた。

早川は人畜無害な男なので、やはり女子に好かれる様だ。


早川「吹き抜けのとこにいるって。行こうか」


うなだれる岡田を無視し、彰達は早足でゲーセンを後にした。


彰達が入った方とは逆の出入り口の目の前には、綺麗なオブジェが映える吹き抜けになっていた。

辺りを見渡すとベンチの近くに女子高生のかたまりがいた。杏奈達の様だ。


彰「…?」

早川「あれ…?」

杏奈「あっ!こっち〜!お待たせ〜。着替えたよん♡」


先程と変わらぬ制服姿だが杏奈のスカートの丈が少し短くなっていた。いつもはストレートの髪も巻き、ヘアメイクがバッチリ整えられていた。

まりかも制服姿は変わっていないが、メイクをしてきた様で、いつも以上に愛らしい顔立ちをしていた。


杏奈「ほらほら〜」


杏奈はそう言うと、後ろを向いていた玲を男子達の前に押し出した。


彰&岡田&早川「…!?」


いつもは男子の制服を着ている玲が、スカートを履いて首元にはネクタイでは無く、リボンを付けていた。ショートヘアの髪もウェーブがかっていて、メイクのせいかより一層綺麗な顔立ちになっていた。細く綺麗な手足がまるで雑誌のモデルの様だった。

彰達は唖然としていて、言葉が出ない様子だった。


杏奈「あらら、固まっちゃった」

玲「ねぇ〜…私やっぱり着替えてくるよ」


慣れない制服姿に本人が1番戸惑っている様子だった。


まりか「何言ってんの〜!折角杏奈とヘアメイク頑張ったのに〜!勿体無い!!」


普段は大人しい印象のまりかだったが、玲の変身ぶりに珍しく興奮している様だった。


岡田「…びっくりした」

早川「…女の子って化けるね」

彰「…おう」


男達はまだ呆気に取られていた。


杏奈「ねぇねぇ、玲、可愛いでしょ?…多田〜どうよ?」

彰「あっ…ああ。良いと思う」

杏奈「だって!」


杏奈は玲の方を見てニヤリと笑う。

玲はメイクのせいか赤い顔をしていた。


杏奈「ねぇ〜まりか行きたいお店あるって行ってたよね?岡田に付き合ってもらえば?」

まりか「あ〜…そうだね。岡田くん、行こう?」


しばしの間玲に見惚れていた岡田だったが、意中のまりかに誘われて我に帰った様だ。


まりか「じゃあね〜」


そう言って去って行くまりかの後を岡田がついて行った。


杏奈「あたしも行きたいとこあるから、早川付き合ってよ」

早川「えっ…ああ、いいよ」

杏奈「そうゆう訳だから、じゃあね〜お2人さん」


杏奈は意味深な笑みを浮かべると、早川の腕を組み颯爽と立ち去った。早川は常に振り回されていた。


彰と玲はどちらとも無くお互いの顔を見合わせた。


彰「…」

玲「…」


まともに話すのは久しぶりなので、ちょっとした緊張感があった。


彰「…制服、似合ってるよ。…可愛い」

玲「…ありがとう」

彰「…綺麗過ぎて、ビックリしてる」

玲「何それ」


玲が初めて話した時の様な、屈託ない笑顔で笑っていた。


玲「…どこ行こうか?」

彰「行きたいとこ特になければ…その辺ブラブラする?あっ足は治った?」

玲「うん、もう大丈夫だよ。ありがとう。歩きながら話そうか」


ショッピングモールの外は景色が良く、散歩するのに良さそうなコースがあった事を彰は思い出した。そっちの方に向かう事にした。


彰「制服、普段からスカートにすれば?」

玲「…ん〜、落ち着かなくて」

彰「…似合ってるのに」


外に出ると駅とは反対側の方に綺麗な景観が広がっていた。緑があり、花壇が綺麗に整備されている。夜になったらきっと夜景が綺麗なんだろうなと考えた。彰は意外とロマンチストなのだ。

キッチンカーも立ち並び、カップルがクレープやアイスを仲良く頬張っているのが目についた。


彰「玲ちゃん、ソフトクリーム食べない?」

玲「…うん?食べようか」


玲が花壇の近くに座って待っていると、彰がバニラとチョコのソフトクリームを買ってきた。


彰「どっちが良い?」

玲「じゃあ…バニラ」


予想通りだった。玲には純白がよく似合う。


玲「いただきます。…美味しいね」


玲が上品にソフトクリームを食べている。食べ方にも性格は現れるものだ。


玲「…あははっ多田君、鼻についてるよ」


玲が彰の鼻についたソフトクリームをティッシュで優しく拭いてくれた。


彰「…おう、サンキュ」


彰は少し照れくさかったが、女の子に世話を焼かれるのは悪い気がしなかった。


彰「チョコも食べる?」


食べかけのソフトクリームを玲に差し出してみた。彰の食べかけなど拒否されるかと思ったが、意外にも玲は彰が持っているソフトクリームにパクッとかじりついた。そのしぐさに思わず胸がキュンとした。


玲「ありがと、美味しいっ」


玲はそう言うと口元についたチョコをペロリと舐めていた。上目遣いで唇を舐める仕草は妙に官能的だった。


玲「こっちも食べる?」


そう言うと玲が食べかけのソフトクリームを差し出してきた。ソフトクリームの味などもはやどうでも良かったが、彰は大歓迎だった。


彰「…うまい」

玲「ねっ」


女子の制服を着た玲は想像以上に可愛かった。元々のしぐさや言動が上品なので、それに女性らしい綺麗な見た目がプラスされると破壊力が凄かった。

ソフトクリームを食べ終わると再び歩き始めた。


玲「そういえば女の子の制服で遊ぶの、初めてかも」

彰「制服デートデビューだな」

玲「あっ…これ、デート?」

彰「デートでしょ。…あっでもこの前のデートの約束はまた別ね!これはノーカンで」

玲「あははっ何それ〜分かってるよ」

彰「だって私服姿も見たいし!」

玲「肝試しの時に見たでしょ?」

彰「違うよ!もっと可愛いやつが見たいの!…今日みたいな」

玲「…ご期待に添えるかどうか」

彰「いんだよ、玲ちゃんは女子の服着たら何でも可愛いだから」

玲「…多田君、最初に話した時と全然違う人みたい」

彰「あの時は機嫌最悪だったからな…。それに玲ちゃんの事、最初はキザで嫌味な奴だと思ってたから」

玲「え〜…私そんなに印象悪かったんだね」

彰「まぁ…話してみたら全然違ったけど」

玲「…色々言われ慣れてるから大丈夫だよ」


そんな事を話していると段々と陽が落ちて、辺りは徐々に暗くなってきた。真っ赤に燃える様な夕日がとても綺麗だった。

どちらとなく立ち止まり、2人で夕日を眺めていると、すれ違った女子高生達の会話が聞こえてきた。


「ね〜見て〜美男美女カップル!2人とも背高くてモデルみたい!」

「本当だ〜!お似合いだねぇ〜良いなぁ」


そんな事を言っていた。他に男女の2人組はいないので、彰達の事を言っている様だった。


彰「…カップルだって」

玲「そうゆう風に、見えるんだね」

彰「俺達…お似合いなんだって」

玲「…ちゃんと、女の子に見えてるんだね」

彰「当たり前だろ」



玲「多田君は、新しく彼女作らないの?」

彰「…玲ちゃんがなってくれたら良いけど」

玲「…だから、からかわないでってば」

彰「…だから、からかってねぇって…」


沈黙が訪れた。その間も夕陽はどんどん沈んでいき、もう少しでその赤い蝋燭の様な輝きは消えそうになっていた。近くの時計台に目をやると、時刻は午後6時時半を過ぎた所だった。


玲に嫌われてはいないみたいだか、いまいち距離が縮まりきらない…彰は玲との間に壁を感じていた。その壁を叩き壊すのが、この夏の彰の課題になりそうだ。


女の子をあまり遅くまで連れ回す訳にはいかないので、そろそろ帰ろうかと帰宅を促した。

彰は見た目に反して、誠実で真面目な男なのだ。


次の約束は取り付けておきたかったので、彰は帰り際に玲の来週の予定を尋ねた。木曜日以外は空いていると言っていたので、水曜日に約束を取り付けた。今日は金曜日。5日後が楽しみだ。





夏休みの課題にはほとんど手をつけないまま、約束の水曜日を迎えた。この日も快晴で、からっとした絶好のデート日和だった。

念願の玲との初デートなので、気合を入れて準備した。

渋谷のメンズブランドの店で買った黒とグレーの細身のカットソーに、ジーパン、ホールブーツを合わせた。

軟派な印象になり過ぎない程度にシルバーアクセサリーも身に付け、キャップを被った。

ほんの少し男物の香水を手首に吹きかけ、首の辺りにも擦り付けた。玲の嫌いな香りじゃないと良いのだが…。

約束の時間よりだいぶ早かったが、遅刻するよりはと思い家を出る事にした。

待ち合わせ場所は2人の家と駅までの中間地点の公園だった。


公園のベンチで時間を潰す事にした。

家族連れや犬の散歩をしている人々を眺めながら、彰は今日のデートプランを考えていた。

2人の間ではまだ何処に行くのか決めていなかった。

水族館、遊園地、映画…玲は何が好きだろうか…彼女の趣味や好きな物、まだ何も知らない事に気が付いた。

そんな事を考えていると、後ろから声をかけられた。


玲「…多田君?早いね」


玲の声だった。後ろの方の道から歩いてきた様だ。いつのまにか約束した時間の15分前になっていた様でハッとした。

慌てて振り返るとモデルの様な、とても素敵な女性が彰の後ろに立っていた。

白いAラインのミニワンピースに所々黒いレースとラメが散りばめられていた。フワッとした袖から少し透けてみえる、華奢で色白な腕に色気を感じた。身長を気にしているのか、サンダルのヒールはとても低い物だった。もっとも玲の場合はヒールなど履かなくても元々が長く綺麗な脚なのだが。

短い髪だが編み込こんでアレンジされていて女の子らしかった。


彰「…おっおはよ。誰かと思った!やっぱ…可愛いな」


彰は照れくさかったが素直に褒めた。

ただ…1つ気になったのは…玲のとてもふくよかな胸だった。

彰はこれまで玲と度々接触する機会があったが…確かにぺったんこだったのだ。


彰「あの、さ…胸、そんなにあったっけ?」

玲「…あっ…やっぱ気になったよね」


玲は恥ずかしそうに顔を赤らめた。


彰「…作りもの?」


こんな事聞いたら失礼かとも思ったが、つい口から出ていた。


玲「自前です!」


さすがに癇に障ったのか、少し強めに言われた。


玲「…普段は…邪魔になるし、恥ずかしいから…隠してるの」

彰「…?何のために?」


大きい胸の何が嫌なのか…彰には全く理解が出来なかった。


玲「中学までは胸が無いのがコンプレックスだったんだけど…高校に入る前位から急に大きくなってきて、恥ずかしいってゆうか…今度はそれがコンプレックスになってきちゃって…。

空手の大会の時にね、サラシを巻いてみたら妙にしっくりきて…それから家にいる時以外はそのスタイルが当たり前になってたかな。…だから、今日は特別」

彰「…特別か。それは嬉しいな。けど…何か俺にはあんまり分からないけど、色々あるんだな…」


はたから見たら完璧で、華やかで、悩みなど縁遠い様に見えていたが…やはり人にはそれぞれコンプレックスがあるものなのだ。

男の自分にはあまり理解出来ない事ではあったが、悩みを打ち明け、コンプレックスを晒してくれた事が嬉しかった。また〝今日は特別“とも言ってくれたのだ。


玲「…恥ずかしいからあんまりジロジロ見ないでね」


こうゆう時の玲の度々恥じらう姿が可愛らしく、ついいじめたくなる。


彰「…そんな事言われたら俺めっちゃ見るよ?」


彰は意地悪く、俯いている玲の顔を覗き込んだ。


玲「…!」

彰「…可愛い」

玲「…またそうやってからかう〜」


そう言う玲も、本気で嫌ではなさそうだった。


彰「あっところで何処行く?映画、遊園地、水族館…」

玲「遊園地行きたい!」


意外なセレクトだった。玲のイメージからは美術館とか博物館の方が似合っていた。


彰「俺は何処でも良いけど、遊園地好きなの?」

玲「…遊園地、嫌いな人いないでしょ?」


玲は子供っぽい笑顔で笑っていた。

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