② 独占欲
翌日、通学路の途中で玲とクラスメイトの沖蓮太郎をみかけた。
彰(そういえばあの沖って奴といつも一緒にいるな…付き合ってるのか?)
彰「おいっす!」
彰は背後から声をかけ、間に割り込む様にして2人の肩に手を回す。
玲「わっ!あっ多田君、おはよう」
沖「!…おう、はよ」
彰「お前ら…仲良いな?」
玲「あ〜蓮とは幼馴染で…家も隣だし家族みたいな感じ」
彰「ふ〜ん…沖は彼女とか作んねーの?」
沖「何だよ、いきなり…関係ないだろ!」
彰「あっ玲ちゃん、今度の日曜日あけといて」
玲&沖(…玲ちゃん⁉︎)
玲「…分かった、日曜日ね」
沖「…え?何だよっそれ!?」
彰「気になるか?…教えてやらね〜よ!じゃあまた」
彰は沖に対する優越感を覚え上機嫌だ。軽い足取りで去って行く。
沖「え…何なに??」
玲「昨日の肝試し、多田君に結構迷惑かけちゃったから…そのお礼?だって」
沖「マジか…大丈夫か?あいつ危なそうだけど…」
玲「ん〜…見た目は怖そうだけど、話してみたら良い人だったよ」
沖「…気をつけろよ」
玲「分かったよ〜」
ずっと兄弟の様に一緒に過ごしていた玲の、初めてのデートの約束に、沖は内心穏やかではいられなかった。
放課後、校舎を後にする彰と岡田、早川の3人。
校庭では運動部が汗を流して頑張っていた。
岡田「なぁ〜そういえば昨日王子とどうだったん?しっかり守ってもらえた?(笑)」
彰「まぁな」
早川「中々出てこなかったから先帰ってきちゃったけど…何かあった?」
彰「いやっ普通に王子様と話してた」
早川「へぇ〜何話したの?」
彰「…教えね〜」
彰は不適な笑みを浮かべた。
岡田「ちょ〜!噂をすれば…あれ王子じゃね?あっ沖と戦ってる!」
早川「何か凄いギャラリーだね。…あ〜空手部が珍しく外で練習してるんだ。いつもは体育館に女子達が群がってるよね」
彰が目を留めると、昨日見た物腰の柔らかい玲とは別人のようだった。素早いキレのある動きで男の沖を圧倒していた。空手など詳しくはないが、玲が勝っている事だけは歴然としていた。
岡田「あっ…沖負けた!…やっぱ強ぇんだな!怖っ」
早川「あれじゃ確かに女子にモテるよね」
ろくに喧嘩もした事のない、見掛け倒しの自分がちっぽけに思えて彰は少し不機嫌になった。
翌日、今日はより一層暑い日になった。
そういえばいつの間にか梅雨は明けたんだっけ…そんな事をふと考えた。もうすっかり夏だ。
昼休み、呼び出された職員室から教室に戻る途中、気になる人影をみつけた。
まさかと思い少し覗き込むと、やはり彰の今1番会いたい人物がそこにいるのだった。
彰「…何やってんの?」
渡り廊下の影の奥まったその場所は、彼女のイメージとはかけ離れた、あまり人の寄り付かない様な暗い所だった。注意深く見ていなければまず気付かれないだろう。そんな場所に何故か1人、目立たぬ様にちょこんと玲が座っていたのだ。
玲「…⁉︎…多田君?」
少し元気の無い様子だった。
すかさず彰も隣に腰掛ける、狭いスペースだったので人1人分も無い割と近い距離だ。
玲「ちょっと…避難してた」
彰「避難?」
玲「女の子達から。…少し、疲れちゃって」
彰「…無理してんの?」
玲「…皆に慕われるのは嬉しいけど…常に気を張ってるからかな。…無理…してるのかな?」
彰「分かんないけど…息抜きは大事だ」
しばし沈黙が流れる。
彰は昨日の空手の事を思い出し、触れてみる事にした。
彰「昨日放課後、空手やってるとこ見た」
玲「あ〜…珍しく外でやってたから、目立ってたよね?あっ!そのせいかな?何か今日朝から女の子が絶えなくて…」
彰「…そりゃすげぇな。てか本当強ぇんだな。この間のが嘘みたいに」
玲「あれは…あれだよ。空手の時はスイッチ入るからね」
彰「沖、負けてたな」
玲「蓮もね、強いんだよ?あれでも男子の方の部長だし、全国大会も良いとこまでいってたし…。
多分ね、どっかで遠慮してるんだと思う。…私が女だから」
彰「そんな風には見えなかったけど…」
玲「そのうち蓮にも負けるんだろうな…って思うとそろそろ潮時なのかなって思う時があるんだ…女がいつまでも最強ではいられないよね」
彰「…男に、守って貰えば良いじゃん」
玲「…そんな風に…考えた事なかったから…。あっそろそろ戻ろっか」
いつも教室で見る明るい玲の姿はそこには無く、性別の狭間でもがくか弱い少女が顔を覗かせていた。
その日の6限目は体育の授業だった。男子はバドミントン、女子はバスケをそれぞれのコートで行っていた。
スポーツ万能の玲は、相変わらず女子達の中心になっていた。何度もシュートを決め、女子達は益々黄色い声をあげていた。
岡田「すげぇな、女子の方。盛り上がってる。あ〜あ〜俺も向こうに混じりてぇなぁ」
早川「お前が行っても叩きのめされるだろ(笑)」
彰達はいつも体育の授業などは適当にやり過ごしていた。そんな時、彰はふと沖に目が留まった。
丁度対戦を終えたばかりの様で、汗を拭いていた。
彰はおもむろに立ち上がると、沖の方に駆け寄っていった。
彰「おぅ沖!対戦しようぜ」
沖「…!?何だよ…いきなり…。(こいつ、妙に最近俺につっかかってくるな…)望むところだ!」
岡田「…彰どうしたんだ?」
早川「さぁ…さっきまでダベってたのに、急にやる気になったな」
彰と沖の珍しい組み合わせに、他の男子達の注目を集めていた。
男子A「沖!不良に叩きのめされるなよ〜!(笑)」
男子B「運動部の意地みせてやれ!」
男子達のヤジがとぶ。
沖「空手部主将をなめるな…よっ!」
早々に素早いスマッシュをかます。
彰「空手は関係ねぇだ…ろっ!!」
負けじと彰も強烈なスマッシュを打ち返す。
実力はほぼ対等か、強烈なラリーがしばらく続き、次第に女子達の目にも留まる。
女子A「えっちょっと!多田が格好良く見えるんだけど!」
女子B「あいつ普段やる気ないもんね〜…てかあんなに動けたんだ」
女子C「沖君も意外と強いね!」
玲も試合中だったが、2人の対戦が気になり集中できなくなっていた。
熱い戦いにも終わりは訪れる。ついに彰の放ったシャトルがコートに激しく打ち込まれた。
沖は連戦だった事もあり限界だったらしく、その場に倒れ込んだ。
彰「…やるな。けど俺の勝ちだな!」
沖「…っちきしょ〜!」
沖は心底悔しがっていた。
2人の間の玲を独占したい気持ちがそうさせていたのだろう。
ピィー!!!
ホイッスルの音と同時に遠くで人の倒れる音がした。
女子「玲君!大丈夫⁉︎」
何やら女子達が騒いでいた。視線を向けるとそこには玲が倒れ込んでいた、どうやら足を挫いた様だ。
先生「…足、捻ってるね。今日はもう休んだ方が良さそうだね。歩けるかな?…誰か〜保健室連れてってあげて!」
玲「あっ大丈夫です。私一人で…」
玲の言葉を遮る様に、気付いたら彰は玲を抱えていた。
一同「…!?」
彰「あっ先生、俺、連れてくんで」
彰は軽々と玲を抱き上げると颯爽とその場を立ち去った。
いつも自分達を高い位置から優しく見守ってくれていた王子様が、その時だけは女子達の目に小さく映っていた。
…彰が大き過ぎるのだ。
玲「ちょっ…多田君!!おろしてよ!歩けるから…!!」
玲が顔を赤くして暴れていた。
彰「無理すんな」
玲「無理してない!良いから!!」
彰「…」
彰は暴れる玲をものともせず、2人は体育館から去って行った。
岡田「…彰、どうしたんだ?」
早川「…最強王子をお姫様抱っこって…度胸あるな」
沖は彰に勝負に敗れた上に、出遅れた事をより一層後悔していた。
その頃体育館を出た所では…玲が根負けして大人しくなっていた。
いくら言っても彰は降ろしてくれないので、玲は恥ずかしさのあまり顔を両手で覆っていた。
彰「…何やってんの?」
玲「…こんな姿、人に見られたくない…」
彰「…はいはいっもうちょっとで人気のないとこ着くから」
玲「…」
少し歩くと保健室のある校舎に到着した。
彰「ここまで来ればこの時間は誰もいねぇよ」
玲は両手を下ろし、そーっと顔を覗かせる。潤んだ瞳と耳まで真っ赤な顔がとても可愛らしかった。
玲「…重いでしょ?もう大丈夫だよ」
彰「全然。軽い位。空手やってるからもっと重いかと思ったけど、意外と華奢だよな」
玲「…鍛えてもあんまり筋肉つかないの」
彰「俺と逆だな〜俺は少し鍛えたらすぐ筋肉になる」
玲「…良いなぁ…鍛えてるの?」
彰「ん?まぁ最低限な」
保健室に着いたが先生は不在で、生徒も誰もいない様だった。
玲をベッドに腰掛けさせる。
玲「先生来るまで待ってるよ。多田君は戻ってて大丈夫だよ!ありがとう」
そんな玲の言う事など聞かず、彰も玲の隣に腰掛けた。
彰「…嫌だよ、せっかく2人になれたんだし」
玲「…あのねっさっきからあんまりからかわないでよ」
皆の前で無理矢理お姫様抱っこをされた事が気に食わなかったのか、玲は珍しく少し不機嫌だった。
彰「からかってねぇよ。…玲ちゃん可愛いな〜と思って」
彰が顔を近づけてみつめる。もう少しでキス出来そうな距離だった。
玲「…!」
2人の視線が交差した。
いつもは長い前髪で隠れている彰の瞳が、今日はしっかり見える事に気づく…体育の授業だったので前髪をあげていた様だ。
彰の顔を、瞳を、真正面からちゃんと見たのは初めてかもしれない…切長の目と幅広の二重が鋭さと優しさの絶妙なコントラストを描いていて、彰は思いのほか格好良かった。綺麗に整えられた角度の付いた眉毛が、清潔感と凛々しさを感じ、より一層男らしく思えた。
男子とこんなに接近したのも初めてかもしれない…。
玲はしばしの間、彰に見惚れてしまったものの、たまらず視線を逸らした。
先程からずっとドキドキが止まらなかった。自分の身体がどうにかなってしまったかの様に熱い。…顔が、熱い。全身の血が頭に上っているかの様だ。
そんな玲の初々しいしぐさや言動を眺めていると、自然と彰のサディスティックな血が騒いでいた。
もっと…その顔が見たい。
草食動物を追い詰める肉食動物の様に、恥じらう玲に彰は更に追い討ちをかけていく。
彰「今度のデート、楽しみにしてる」
彰は俯く玲の耳元で優しく囁いた。
玲の林檎の様に真っ赤に染まった耳に、微かな吐息がかかる。更に首筋にそっと指をなぞらせる。
玲は思わずゾクっとしたが嫌な感じは無く…むしろ胸がキュンと熱くなった。
その時保健室のドアが開く音がした。
彰が立ち上がり、カーテンから入口の方に顔を覗かせる。
彰「先生〜怪我人、みてください」
先生「あらっごめんね〜待ってた?どれどれ?
…あ〜ちょっと腫れてるね。捻ったのかな?少し休んでいきな。」
玲はまだ我に帰れず、ぼやっとしていた。
先生「…顔も赤いけど、熱でもある?」
玲「….⁉︎ あっ、こっこれはバスケで走り回ってたからまだ暑くて…」
先生「夢中になっちゃったのね。
…手当しとくから、君は教室に戻ってて良いよ」
先生は彰を教室に帰る様に促す。
彰「はい、お願いしま〜す」
彰は去り際に玲にニヤリと笑いかける。
玲「…⁉︎」
玲はつい先程迄の非日常的な行いが頭をよぎり、恥ずかしさのあまり目を逸らした。顔から火が噴き出そうだった。…まだ、胸がドキドキしていた。
彰が教室に戻ると皆帰り支度をしていた。
6限目の体育だったので、もう帰りの時間なのだ。
岡田「あっ彰〜王子は?」
彰「おぅ!先生がもう少し休んでけって」
早川「そっか〜…あのさ、彰どうしたの?」
彰「何が?」
早川「王子と…最近仲良いのかなって。あの、お姫様抱っこは中々出来ないよ」
彰「あ〜…ほらっあの肝試しの時から色々話する様になった」
岡田「へぇ〜…男女の仲なの?」
彰「どうだろうな」
岡田「…めっちゃ意味深〜!気になるじゃん!」
彰は岡田をスルーして河野に話しかける。
彰「河野。玲ちゃん保健室でもう少し休んでくみたいだから、荷物とか持って行ってやれよ」
杏奈「…⁉︎玲…ちゃん?」
彰の態度の変貌ぶりに杏奈とまりかは目を丸くしていた。
彰「…何だよ」
杏奈「へぇ〜…もしかして玲と良い感じなんだ?…お姫様抱っこだもんね〜」
杏奈は勘が良さそうなので、直ぐ様色んなことを察した様だった。
杏奈「あっそういえば玲に昨日どうだった?って聞いたら、迷惑かけちゃったけど多田君が優しく受け止めてくれたって言ってたよ!…ねぇ、どんな風に受け止めたの?」
彰「うるせぇな」
彰は少し照れくさくなり、顔を背けた。
杏奈「やっぱあたし行かな〜い!…あんたが行ってあげれば?」
彰「…!」
杏奈「モタモタしてると沖に先越されるよ〜あいつは玲の保護者みたいなもんだからね」
そう言われて玲の席に目をやると、杏奈の言う通り、さも自分の荷物かの様に沖が玲の荷物を整理していた。
杏奈「あたしは玲には沖より多田の方がお似合いだと思うから…頑張んなよ」
彰の背中を押す様にそっと耳打ちした。
杏奈の助言も有り、彰は再び沖に対する対抗心が燃え上がった。先程の体育の時も、とにかく何でも良いから沖に勝ちたかったのだ。彰は気が付くと沖の前に立っていた。
沖「…何だよ」
彰「玲ちゃん、多分ただの捻挫っぽい。…俺が荷物持ってくよ」
沖「…いいよ、部活の事もあるし、俺が行くから」
彰「…さっき、体育の時、お前俺に負けたよな?」
沖「…はぁ〜?…それとこれとは…」
〝関係ない!“と言い切りたかったが、実際負けたのだ。敗者は勝者に大きな顔が出来なかった。
沖「…ほら!部活の方は俺から言っとくから…お大事に。って伝えとけよ!」
沖はそう言うと、ぶっきらぼうに彰に玲の荷物を押し付けた。
彰「…さんきゅ」
沖から玲の荷物を受け取ると、すぐさま自分の帰り支度を始めた。
岡田「…彰、またな〜」
早川「頑張れ」
彰「おう!」
仲間達の声援を受け、急いで教室を後にする。
保健室に着くと先生と玲が雑談している所だった。
先生「あら?あなた…あ〜荷物持ってきてくれたの?」
彰「…うす」
先生「歩ける?」
先生は心配そうに玲に問いかけた。
玲は立ち上がり少し歩いてみる。多少痛みはあるものの、自力で歩けそうだった。
玲「…大丈夫みたいです」
先生「無理はしないでね?」
玲「はい。ありがとうございました」
彰に目をやると玲の荷物を持ったまま、出口付近で待っていた。玲に荷物を渡すそぶりもないので、そのまま一緒に保健室を出る事にした。
彰&玲「失礼しました」
2人はそう言うと保健室を後にした。
玲「…蓮は?」
彰「…第一声それかよ!部活行った。お大事にって言ってたよ」
彰はあからさまに不機嫌を装った。
玲「そっか…蓮か、杏奈達が来てくれるかと思ったから」
彰「俺じゃ不満?」
玲「…そんな事は言ってないけど…いやっありがとう」
玲はいつもの自分だったら絶対にとらない様な失礼な態度を取っている事に気付き、反省した。
彰は負傷した自分を助け、わざわざ荷物まで持ってきてくれたのだ。本来なら感謝しかないはずなのだ。
決して彰が嫌なわけではない。ないのだけど…。
彰「…靴、はける?」
玲「足、腫れてるからどうかな…」
彰「俺、サンダルでも借りてくるよ」
玲「あっはいった!大丈夫みたい」
彰「…また抱っこする?」
玲「…結構です」
彰「…冗談抜きに、キツかったら言えよ」
玲「…ありがとう」
先程はあんな事をされたが、彰はきっと優しい人なのだ。玲の事をからかいたいだけでは無く、ちゃんと心配してくれていた。
途中他の生徒に声をかけられながらもゆっくりゆっくり歩いていた玲が、校門を出た所で振り向いた。
玲「荷物、ありがとう。1人で帰れるから大丈夫だよ」
彰「何でだよ!…これは完全に送ってく流れだろ」
彰は思わず語尾を強めていた。
もっと自分を頼って欲しかった。
玲「…悪いよ、方向違うし」
彰「途中までは一緒だろ!気にすんな、行こうぜ」
彰は有無を言わさず歩き始めた。強気な態度を見せたが、内心更に断られるのが怖かった。呼び止められるかと思ったが、玲は黙ってついてきている様だった。歩調を合わせる。
彰「…俺の事、何か警戒してる?」
玲「…少し」
彰「なにもしねぇよ。…さっきは少し、暴走したけど」
玲「…何で私なの?あーゆうの、女の子にしたら良いんじゃない?」
彰「お前も“女の子“だろ」
玲「…」
しばらく無言のまま玲の歩幅に合わせてゆっくりと歩いていたが、玲が急に立ち止まった。
彰「…どうした?」
玲「…ちょっと、痛くて。休憩」
彰「…だから無理すんなって」
彰は玲の前にしゃがみ込み、背中を向ける。
彰「…ほら、乗れよ」
玲「…!?えっ良いってば」
彰「こーゆう時、女は男を頼れば良いんだよ」
玲「…じゃあ、少しだけ」
家まではまだまだ距離があるので、頑固な玲も流石に観念した様だった。玲は彰の背中にそっと身体を預けた。大きくて逞しい背中だった。
彰は自分の背中に玲の身体の感触を感じた。
体育の時も軽く感じたが、やはり余計な肉が余りなく、華奢な印象だった。
彰「…玲ちゃん、全然胸無いんだな」
玲「…ほっといてよ…」
もっと怒るかと思ったが、意外と反応が薄かった。
玲「…今日、蓮と対戦してたね」
彰「あ?あ〜見てた?俺、勝ったよ」
玲「…知ってる。つい最後まで見ちゃって…それでボール取り損ねたから」
彰「…えっじゃあこの怪我って…」
玲「いやっ怪我は試合に集中してなかった私の責任だから」
彰「…何だよ、何か悪かったな。…気になった?」
玲「…そうだね」
彰「…この怪我じゃ、しばらく出掛けるのは無理だな。夏休みになったら遊ぼうぜ」
玲「…うん、いいよ」
断られるかと思ったが、玲は意外にあっさりと了承してくれた。
家の近くまで送り届け、連絡先を交換してその日は別れた。