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先祖代々、視えている  作者: 長谷川ゆう
4/5

祖母の心配から

50社以上の派遣の契約先を探して、貯金も底を尽きかけた時に、やっと2社から契約のメールがきた。



仕事を選んでいる場合ではない神田マナは、最初にきた少しでも月給が高い派遣元に連絡して、面接までのメールをもらった。



周りは、ほとんど結婚して子供がいる。マナはそれなりに有名大学を出たが、就職難で派遣しか仕事はなかった。



たまにマナの家に来る亡くなった口うるさい母親がいない実家は、父親が再婚相手と先祖が視えるマナを気味悪がる兄のユウタが暮らしているため、頼る事は出来ない。



父親の再婚相手とは、マナの母親とは正反対の性格で相性が悪いが父親とは意気投合し、あげく、兄のユウタと義母は性格まで合う。


母親が死んだ1年後に再婚した父親ともマナはギクシャクしている。



両親の親戚は、みんな地方でほとんど会わない。



マナにとっては、生きるのが毎日サバイバルだ。



時々、やって来る御先祖様達が話し相手なんて事は口が裂けても言えない。



「最悪、孤独死とか本当にありえるわ・・・」

ぼそりとメールを送った後、マナは独りで呟いていた。



「昔は、大家族だったもんねえ!」

突然、パソコンの向こうに母方の祖母が、肘をついて顔に手をあてこちらを見ていたので、マナは一瞬フリーズした。


「おばあちゃん、突然、出てこないでよ!心臓に悪い!」

一瞬止まった呼吸を吸うと、マナは一気にまくしたてた。


「仕事、なかなかないの?」

心配そうに、母親に似た瞳で祖母がマナを見るので困って、苦笑いをした。


気がつけば、窓の外は夕日が沈み夜になっている。



夕食は、昨日の残りの夕食に作ったカレーにする。祖母も祖父と同じ戦中産まれだ。



夏休みに祖父母の家に行くと、孫のマナとユウタには食べろ食べろと、すすめるから実家に帰ると、兄妹で2キロは太った。



そんな祖母に、戦中じゃあるまいし、飽食の時代の日本で毎日食べるのがやっとで、カツカツの生活を送っているなんて心配をかけたくなかった。



祖母のご飯が恋しくなり、涙目になったがマナは立ち上がった。



「仕事みつけたよ、上手くいきそうだから心配しないで」

1LDKの部屋から小さな台所は、2、3歩だ。



台所ね電気をつけ、カレーが2、3日分入った鍋に火をつける。



後ろでは、相変わらず祖母が座っている気配がする。



神田家は、女系だけが先祖の霊が視え、最初に視えたのは、江戸時代の先祖の女性だと祖母から聞いた。



その女性は、先祖が視えると言ったため周囲に気味悪がるがられ、座敷ろうに閉じ込められた末に姿を消している。




「おばあちゃんが、マナの歳には千鶴を産んでいたんだけどねえ、結婚はしないの?」

ごり押しでもなく、祖母が聞いた。


煮込んでいるカレーが、ふつふつと温かくなり、お玉でまぜるとマナの気持ちのようにドロリとする。



付き合っていた人は、何人かいたが、みんな自分の生活でギリギリで、結婚したら共働きでも厳しい生活が待っている。



仕方なく別れた。



いつの間にか、無言だったせいか横に祖母が立っていた。



「泣かないで、元気だして」

祖母の子犬みたいな、くしゃっとした笑顔で、マナは自分が泣いている事に気がついた。



涙をふくと、何とか相づちをして火を止めた。



「ゆっくり食べて、ゆっくり眠りなさい」

祖母は、静かにそう言うと他には何も言わすに静かに消えた。



部屋の中は、カレーの香りで満たされていた。




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